51匹目 入学式後の雑談~終わり方がわからないやつ~
「女生徒で一番の成績だったの。今年は女子の新入生が多いからって、代表の一人は女子にしようって。でも、不服だわ。怪我さえなければ全体で一番だったはずなのに」
キアーラは、迷いなく不遜なことを言ってのけた。これが傲慢ではないところがこの人のすごいところだと、フィオは何度目かの感心する。
入学式を終えた後、フィオとルチェッタが雑談していたところにキアーラがつかつかとやってきたのだ。新入生代表であるし、西方の上級貴族フェラノティ家の娘ということもあり、挨拶しようとする者が多い中、それらを突っ切ってやってくるものだから、何やら注目を受けている。やりにくい。
「お疲れ様です、キアーラ様。びっくりしましたわ。言っておいてくれればよかったのに」
「忙しかったのよ。親を説得しなきゃいけないし、ドナート様の家にも説明に行かなきゃいけないし」
「身から出た錆びというやつですかね」
「半分はあなたのせいだけど。まぁ、それに、びっくりするなんて心外ね。私が新入生の代表になるなんて驚くことじゃないでしょ」
「それはそうですね。失礼しました」
「ふん。わかればいいのよ」
「ドナート様は代表になれなかったのですね。残念」
「それも、主にあなたのせいだけどね」
フィオとキアーラが雑談していると、隣でルチェッタがあたふたとしていた。そういえば紹介してなかったと、フィオはルチェッタの背中に手をかける。
「ご紹介が遅れました。こちら、私のお友達のルチェッタ……、えーっと、ルチェッタですわ」
「ルチェッタ・グラマンティと申します! お、おお、お初にお目にかかります、フェラノティ様! こ、この度はご、ご機嫌麗しく。し、新入生代表のスピーチ、拝聴いたしました。と、とても、すばらしかったです!」
ルチェッタはガチガチにかしこまっていた。人見知りなのだろうか。確かにフィオと初めて会ったときもよそよそしい感じであった。
よろしくね、とキアーラに差し出された手をとるのに、ルチェッタはスカートでゴシゴシと手汗を拭っていた。摩擦で火が起きないかとフィオはちょっと心配した。
「ルッチ、もっと肩の力を抜きなさいよ。何を言っているのかわからないわ」
「そんなのできるわけないじゃないですか! フェラノティ家ですよ。失礼があったら、うちの家なんて吹き飛んじゃいますよ!」
「うちもそうよ。でも、失礼なことをしなければいいんでしょ」
「フィオ様には無理じゃ……」
「何?」
「いえ」
フィオとルチェッタがしゃべっていると、キアーラが腕を組み始めた。そして、何やら不満そうに顎をあげた。
「ふーん。仲いいんだ、二人」
「はい。仲良しですよ」
「ふーん。ちなみにね、ちなみにだけど、私とどっちが仲良し?」
「え? 何ですか、その質問。面倒くさい」
「面倒くさいって何よ!」
「はいはい、キアーラ様ですよ」
「小さい子をあやすみたいに言わないで! じゃ、じゃ、いつ出会ったの? 私より前?」
「いえ、つい最近ですよ。受験のときに泊まった宿舎が同じで知り合いまして」
「じゃ、私の方が付き合いは長いわね。って、宿舎ってあの馬小屋みたいなやつに泊まってたの? 言ってくれれば私が借りた屋敷に泊めてあげたのに」
「でも、そのおかげでルッチにも会えましたし悪いことばかりじゃないですよ。寮も一緒なんですよ。ね、ルッチ」
「寮に入っているの!? 何で? あれは絶対に入らないといけないわけじゃないのよ。普通に近くに屋敷を借りれば?」
「楽しいですよ、寮。みんなと一緒で」
「むぅ……。まだ部屋って空いているのかしら。でも、またお父様に説明に行かないといけないし」
実際には、メイドが立ち入って来なくて自由に行動ができるから、というのが理由なのだけれども、フィオは黙っておいた。キアーラは、うーんと唸っていたが、思い出したようにフィオの肩を叩いた。
「思い出したわ。お誘いに来たんだった」
「え? 寮からは出ませんよ」
「寮の話はもういいわ」
「あ、逆に寮に来るのはありですよ。もしも寮がいっぱいだったら、私の部屋でご一緒します?」
「え!? それは楽しそう、だけれども、そうじゃなくて!」
キアーラは、ふふんと得意げな顔を見せた。
「実はうちのお抱えの画家が来ていて、制服姿を絵を描いてくれるの。それでフィオレンツァも一緒にどう?」
「あー」
「え? 何よ、その気のない返事は。制服姿を描き残しておきたいでしょ?」
「実は私達、撮影魔法を使ってもらう予定でして」
「え!? 撮影魔法? ホントに? 何で?」
「はい。母のツテで」
「いいなぁ。私も頼みたかったんだけれども、お父様が撮影魔法嫌いなのよね。あれって黒魔法的でしょ。魂が盗られるんじゃないかって言ってやらせてくれないのよ」
「あ、それじゃ、キアーラ様もご一緒します?」
「いいの? その、邪魔じゃない? 二人の間に割り込んじゃって」
「ぜんぜん問題ありませんよ。気になるなら、私とルッチの間ではなく、私の逆の隣に来ればどうです?」
「そういう意味じゃないんだけど」
フィオは、ルチェッタにしたときのように、撮影を行うスケジュールを告げた。わかったわ、と言った後、キアーラはまだ少し悩んでいた。
「でも、どうしよう。お父様に撮影魔法を使ったってバレたらなんて言われるか」
「キアーラ様。こっそりですよ」
「こっそり?」
「そうです。三人だけの秘密です」
「そ、それならいいかな。ま、まぁ、私はどっちでもいいんだけどね、フィオレンツァがどうしても言うんだったら一緒してもいいかも。絶対に言っちゃだめだからね!」
「あ、どうしてもとは言わないので、気が進まないんだったら、別にムリなさらなくても」
「どうしても、と言いなさい」
「え、でも、無理強いはよくないかと」
「どうしても、と言いなさい。いいから言って」
「……どうしてもキアーラ様と一緒に撮影したいですぅ」
「も~、仕方ないわねぇ。そこまで言われたら一緒に撮影しちゃおうかなぁ」
キアーラ様って仲良くなると面倒くさい人なんだなとフィオは顔に出ないように、こっそりと思った。
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