39匹目 採点だってたいへんなんです
試験が終わると試験官はそれぞれの採点結果をまとめて集計する。試験結果は単純なスコアだけで判断されたりはしない。そのときの状況や受験者の挙動が細かくレポートされており、試験官の評価と共に報告される。
その結果をもとに、会議室で一人一人の受験生について審議が行われる。会議の参加者は副学院長と今年の試験監督係の5人である。そのうちの一人、カタリーナは今年が初めての試験監督係であった。試験監督係は学院長が選ぶ。連続で選ばれることはあまりなく、規則性はよくわからない。たぶんテキトーに選んでいるんじゃなかろうか。新米教師のカタリーナが選ばれているのだから、そうとしか思えない。
「学院長はどちらに?」
「またおでかけだ。どこにいるのやら」
カタリーナの問いに副学院長は諦めたように応じた。学院長の勝手な動向は今に始まったことではない。もう慣れっこなのだろう。事務などはすべて副学院長がこなしているという。近々、過労で倒れるんじゃないかとカタリーナは心配していた。
「さぁ、いない人の話をしていても仕方ない。これから迎え入れる新入生達の話をしようじゃないか。皆、受験生の資料は読んできたな?」
カタリーナは膨大な資料を思い出し
それぞれ持ち回りで受験生を評価していく。まずは明らかに合格の者と不合格の者を選別していく。この作業は難しくない。スコアだけで判断しないはいえ、上と下はある程度わかるものだ。
「やはりヴェスカリーノ家のご子息はすばらしいですね。文武魔法、どれをとってもトップクラス。体術試験で、ちょっとした事故はありましたが、彼を入学させない理由はないでしょう」
「それを言うならばフェラノティ家のご令嬢も文句なく合格で良いと思います。魔法試験ではずば抜けたセンスを見せ、筆記試験では満点。体術試験で、こちらも、ちょっとした事故があったものの、男性に負けないフィジカルを有していることは間違いありません」
試験監督係から次々と合格の候補があがっていく。自分の担当から合格者が出たからといって、何も報酬はないのだけれども、なんとなく推したくなるのは人情というものだろう。
朝から晩まで議論してついに三日目。やっとおおよその不合格者と合格者が決まった。そして難しいのはここからだ。ボーダーラインの受験者達。彼らの中から定員に至るまで採用していく。
「それでは、ヴェルディモンテ家のご令嬢についてだが、彼女の担当はカタリーナだったな」
「……はい」
来た、とカタリーナは身構えた。今回、カタリーナが持ち受けた受験生の中で最も評価の難しい女。
「えぇ、フィオレンツァ・ダ・ヴェルディモンテ様ですね。彼女の最も評価すべきところは、体術試験の結果です。女性でありながら、男性に引けを取らない成績を出しています。馬術も問題ありませんし、何より戦闘試験では三戦三勝。その内一人はあのヴェスカリーノ様です」
「あぁ、見たよ、あれ。すごかったね」
「はい。おそらく戦闘という点においては、今年の受験生で一番ではないかと思われます」
「なるほど。あぁ、ヴェルディモンテ家といえば、在校生にいなかったか? あぁ、そうだ、ジュリオ様だ。彼はすこぶる優秀だろう。彼の妹か? あぁ、そうか。ヴェルディモンテ家といえば武の名門。ヴェスカリーノ様に勝って驚いたが、なるほど納得がいった。それで他はどうなんだ?」
「魔法試験の結果もわるくありません。使える魔法はやや偏っていますが、その練度は高く、素養ありと判定されています。また芸術面については、テーマを拡大解釈し過ぎている気はしますが、独創的で新鮮だったと。あとおいしかったと」
「おいしかった?」
「あ、その部分はよくわからないのですけれど、このときの試験官はマルチェロ先生なんで、魔法の評価は間違いないです」
「ふむふむ。いいじゃないか。何で合格にしないんだ?」
「そのぉ、筆記試験が……」
「わるかったの? でも、これだけ他がいいんだから、ちょっとくらいなら目を瞑ってあげれば」
「ちょっとくらいならば私も推したんですけれど。筆記試験のスコアがこちらになっておりまして」
「あ~~~。これは~~~」
副学院長は、何度か筆記試験のスコアを見直すと、目をしぱしぱとさせてから、うーんと唸った。
「バカはちょっとなぁ」
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