あとがき

 読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

 2025年現在から5年ほど前のことですが、私のような年寄りが外から見ると、異世界転生ものというジャンルは、どうしても現実逃避ものが多いという印象でした。今の人生が嫌で、生まれ変わってやり直したい、あるいは別人になって活躍したい、いい思いをしたい、といった願望をかなえる、そのようなニーズを満たすための作品……という、かなり偏見の入ったイメージがあって、そういうものを書けば受けるのではないか、というアホな勘違いをした果てに、この作品が生まれました。


 しかし、これを書いたときは酷い鬱状態で、なにがなんでも作家としてプロデビューしてやる、という凄まじく間違った決意でもって、私としては異例の速さで書き上げました。今ではプロになるなんて想像するだけでも憂鬱で恐怖しか感じませんが、幼児期からこんにちまで、自分になんの才能もないことを受け入れることは死と絶望だと確信して生きてきたので、これの執筆時もその状態でした。

 本当は真逆で、なんの才能もないことは気楽で幸福なはずですが、生まれて半世紀以上たってもそうは悟れません。「とにかく芸術家、あるいは文学者として大成しなくてはならない、でなければお前はクズで無価値だ」という強迫観念に常に脅されて生きることは、まさに地獄でした。この作品の冒頭が異常に暗く重いのも、私の人生経験を反映しているからです。

 ちなみに本作は、どこぞのラノベの新人賞に送りましたが、二次落ちでした。


 冒頭、主人公が死ぬ前の不幸な状況は、若い頃の私の体験そのまんまです。実際は死ぬことなく、母親が死ぬまで悲惨な状態が続きました。作中に母親のオトコとしてヤクザというのが出てきますが、実際にはただのダメ男のカタギでした。しかし頭はいかれていて、数えきれないほど酷い目にあいました。母親は毒親としてけっこう出るのに、私の作品にこいつをモデルにした話やキャラがいっさいないのは、思い出したくもないからです。今はそうでもないけど。

 それは私を腐臭たぎるおぞましい汚物にしたような、凄まじく近親憎悪を掻き立てる男で、目の前にいるだけで自分の汚点を突き付けられ、凍り付いて相手のなすがままになるほどでした(逆に相手は私に自分の汚点を見ると、ぶち切れて怒鳴れる強靭な精神があった)。母親が死ぬと後を追うようにそいつも死んで、やっと私の時間が動きだしました。汚物がやっと人になり始めたのです。


 当時の私が、異世界に転生してやりたいことはなんだったかというと、普通に仕事をして生活し、普通に恋をして普通に年老いていく、というごくあたりまえのことでした。というより、たんに誰にも脅かされないことが夢でした。「落ちこぼれには、普通の生活を送ることこそが、喉から手が出るほど欲しい宝」だという部分がありますが、そんな感じでした。チートや成功者になりたい、とかはもう雲の上の話です。普通に生きられるのがあたりまえの人には理解不能な感覚かと思われます。


 じゃあ本作の主人公の異世界での職業が、ただのサラリーマンかというと、ライブハウスの従業員。それでもまぁまぁ普通だからいいのですが、そのうえに、主人公はなんとロックスターになる、という夢を持っちまっています。オイオイ、スターなんて雲の上じゃねーのかよ、と突っ込まれても仕方ありませんが、これも前述の「成功しないとクズ」という呪いのせいなんです。その間違った上昇志向が作品にも表れたわけです。

 もっとも、人気は出ないからスターにはなりませんが、結局は音楽で世界を救うことまでして、よくあるラノベかアニメみたいな展開になっちまっています。


 主人公は名前が実際の私と一番近いにもかかわらず、私からは最も遠いキャラになってしまいました。いくら転生して安心したからって、私がこんなにちゃんとするとは到底思えません。バンドのリーダーまで務まるなんてありえない。性格的にも少年マンガの主役の典型で、しまいには熱血なセリフまで吐く始末。なんも俺じゃねえ。恋人を作るのは論外だから逆にいいけど。


 そんなふうに実際の私とかけ離れているせいか、この平山和人は、顔のイメージがまるで掴めません。語り手なので外見の説明がないうえ、ほかのキャラの誰も彼の風貌について言わないせいもありますが、イメージは萌え絵っぽい「見れる顔」でかまいません。

 自慢ですが私には、イケメンはどうせバカで情けなくてダメに決まってる、なぜなら自分がバカで情けなくてダメだから、という偏見があります。なにも自慢じゃねえな。


 だから、うららの設定は、まんま自分のことです。なので書いていて入り込んでしまい、登場話の最後に和人を泣かせてしまいましたが、おかげで面白いすれ違いギャグが出来たので、良かったと思っています。


 雄二は弟を極度に美化したもので、ズールの少女への変身願望も弟から来ています。というか、そういう願望は自分にもあって、ズールがメイクの店で女装させてもらった、というエピソードは実体験です。


 海子は某アイドルアニメのキャラのパロディです。ただ、そっちでは酷いギャグキャラにされていてかわいそうだったせいか、こちらではライブで頭おかしいだけで、あとはパーフェクトにまとも、という正統派(?)ヒロインになりました。

 彼女と和人がくっ付くあたりは昔のラブコメの王道展開で、高橋留美子先生や渡辺多恵子先生のマンガの影響がもろに出ています。


 悪役の高塚愛音の名前は伝説の極悪ノイズバンド、ハナ○ラシの山○愛のもじりです。いちおう悪役なので、初登場回では滅茶苦茶バカにされていて、かなりヤバいかもですが、この作品が有名になる可能性は限りなくゼロなので、大丈夫でしょう。「客を爆弾で殺そうとした」というくだりは実話がモデルです。


 チャチャリーナは、たんに雄二にも恋人を作ってやろうという親心で出来たキャラですが、雄二が私の弟の美化キャラのせいで愛憎が出てしまったのか、とんでもないアホキャラなうえに悲恋になってしまいました。おかげで話は面白くなりましたが、雄二には悪いことしたなぁ。


 ロリババアの極限のようなラフレスさんは、お茶目で頼れる姉御キャラとしてお気に入りです。昔はアニメでこの手のキャラが出ると必ず死んだものですが、最近は最後までぴんぴんしてて幸せになったりして素晴らしいことです。


 この作品の題名は、アイアンメイデンのライブアルバム(邦題は「死霊復活」という昔のB級ホラー映画のようなイカしたもの)から取りました。Live After Deathは「来世」という意味ですが、それと音楽の「Live」を引っ掛けたもので、異世界もの+バンドものにはぴったりだと思ったのです。

 80年代に中坊だった私は、メイデンのほかにもWASPやらラウドネスやらのメタルにハマり、高校にあがるとパンクに移り、成人後は精神がどんどん荒んで、ノイズへ行き着きました。だからノイズもそれなりにハマったし今も好きではありますが、メタルやパンクのほうが思いいれがでかく、作品にもそれが出ています。

 なので、ノイズものと言いながら、白鯨(読んだことないけど)の鯨知識全開のような、ノイズ・ミュージックに関するうんちく垂れ流し、みたいにはなりませんでした。

 

 パロロのモデルは碑文谷にあるAPIA40です。自分を知らないので、詩の朗読で十年も出演し、本当にお世話になったのですが、生前の遠藤ミチロウさんが根城にしていた由緒あるライブハウスです。自分を知ったので、もう出ることはありません。そもそも人前で何かをする生き物ではありません。ステージで輝きたい、などと思ったのは、前述のように長いこと無才を受け入れることが出来なかったからです。ちなみに作家になる気もありません。というか何者にもなる気はありません。


 アピアはサモア独立国の首都の名前らしいので、ならこっちは、と同じ国にあるパロロ海岸から取ったのですが、これが実は食用ミミズの名前だと、あとで知って複雑な気持ちになりました。まぁ語感は可愛いけど実態はグロいってのも味があっていいかなと。食用だけに。


 本作において、転生して環境ががらりと変わっただけで、なにをやっても上手くいく、というのはリアリティがないかもしれません。ただ、基本的にこれはチートものと同じで、書き手の夢をかなえる小説なので。ただの現実逃避ですね。

 ただ、これを書いても私の人生はなにも変わりませんでしたが、書かないよりは書いたほうがマシだったのは確かです。一時的でも有能な主人公になれたのは良い経験でした。


 動機は本気だったにもかかわらず、ほとんどなにも考えず行き当たりで書き流したわりには、結果的にまとまり、読み流せるB級コメディ小説にはなったと思います。ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

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ライブ・アフター・デス 闇河白夜 @hosinoka

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