第3話 約束

3話

「バウムクーヘンって切り株って意味らしいよ」


「多分みんな知ってる」


「えぇぇぇ」


 そんな驚くな

 ていうかなんで俺たち一緒に登校してんの?

 昨日そんな話になった?


「なんでいるんだ?」


「え、私も学校行きたいし」


「いや俺はあんまり行きたくないが、そうじゃなくて」


「え?」


「はぁ、もういいや」


「どゆこと?」


「早く行くよ」


「はーい」


 今日の朝もなんとなく早く家を出て道を歩いているとまた、吉川に会った。

 いや、嘘だ。

 なんとなくではない。昨日、吉川が言ってたことを朝思い出して家から早く出た。

でも、一緒に登校することになるなんて思わなかった。

 嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。

 しかし2日連続だと流石に、


「吉川さんと堀井が2人で教室入ってきたぞ」


「昨日も堀井くんといたよね」


「堀井は意外だな」


 やっぱり。

 教室がなんとなくざわついてる。

 昨日も全く無反応ってわけではないが今日は、はっきりと聞こえてくる。

 ちなみに吉川をチラ見したけど超シカト。

 多分、聞こえてないとかじゃなくて気にしてない様子だ。

 こういうのにも慣れてるんだろう。

 やはり美少女には美少女にしかわからないことがあって色々な処世術を持っているんだろう。

 知らんけど。


「じゃあ、堀井。ありがとー」


「ああ」


 そう言って吉川は教室の外に出て行ってしまった。

 そっか今日の朝は教室では話せないのか。

 登校できただけマシか。

 いやそもそも一緒に登校してるだけで十分なのに教室で話すもんだと思っているのが間違いなんだろう。

 あぁお喋りしたかった。


 そんなこんなでいつのまにか帰ってきた吉川の存在感を後ろに感じながらホームルームと2限目を終え、3限の半ば頃、不意に後ろから肩を叩かれた。


 なんだ。やんのか。どこのだれや。こっちは葉緑体の顕微鏡の映像を見てんだぞ。

とばかりに後ろを振り向くと顔を近づけてくる吉川がいた。


 吉川か。知ってたけど。

 てか、なんで近づいてきてんの?

 てか、肌綺麗過ぎね?


「どうした?」


「いいから耳」


 耳がなんだよ。この一文だけみたら何言ってるかわからねぇよ。

でも会話と場面の流れだと意味を理解できるから不思議だよね。

 言われるがままに耳を傾ける。


「このビデオつまんないね」


 それを言うためだけかい。


「そりゃ授業のビデオなんだから仕方がない。」 

 

 てかおもしろいし。こいつちゃんと見てないだろ。


「そうだけどさぁ。なんか話さない?」


 みんなビデオ見てるでしょうが。と思ったがみんな割と会話してんな。

生物の教師はじいちゃんだしな。注意もしないか。


「えー。光合成の話とか?」


「あれぇ。もしかしてビデオちゃんと見てる人?」


「見てない見てない」


 見てたけど


「明日の朝から、どうせならちゃんと時間決めて待ち合わせしようよ」


「え?これからも俺たち一緒に登校するの?」


「あ、嫌だった、、ですか?」


「違う。そんな約束もしてなかったし、そもそも俺と歩いてて楽しい?」


 少し突き放した言い方かもしれないが取り繕うことができないほど理解できない言葉であったし、動揺もしている。

 しかし、吉川に失礼な言い方だった。流石にブチギレるかなぁ。


「たしかに!約束してなかった!忘れてたぁ。てか堀井と一緒に帰るの楽しいよ。いつも1人だし」


「あ、ああ、そうか。うん。」


「変なのー」


 あまりにも予想と違った回答だったことと、そう言ってくれた喜びがあり、返事に戸惑ってしまった。

いや、吉川さん。満点回答っす。

惚れそうです。惚れないけど。


「じゃあーーーーーー


 何時にするか。

 と聞こうとした時だった。


 キーンコーンカーンコーン


「授業はこれで終わりです。次の生物で感想文の提出があります。忘れないように」


もう時間か。いつもは長く感じた生物が今日は早いと感じた。

まぁ当たり前か。ほぼ授業受けてないし。


「堀井?」


「いやなんでもない」


 また嘘だ。改めて言うとなるとなんだか恥ずかしくなってしまった。

しかし、吉川は


「じゃあ毎朝8時までにイニシャルマーケット集合で。」


なんて言うんだから敵わない。

強い。

コミュ強すぎる。

いや弱いだけか俺が。


「うん。楽しみにしてる」


「ふーん。楽しみなんだぁ」


「べつにいいだろ」


「うへへ。そうだね」


 吉川と話してると自分がどんな人間だったか忘れてしまう。楽しみにしてるなんて、キザなセリフを言ってしまった。

 中二病は治ってないようだ。

 そんな自分に嫌気がさして、休み時間はずっと狸寝入りをしていた。


 その後は特にこれと言った会話はなく、下校の時間を迎える。

 気怠げに荷物を整理し、帰路に着く。

 学校がだるい。

 実を言うと登校より下校の方が嫌いだ。

1日授業を受けた後に30分ほど歩いて帰る必要がある。

 それに加え、また明日も今日を一から繰り返すんだと思うと行く気が失せると同時に、帰る気も失せる。

 趣味もないし。

 家についてもゲームか寝るだけだ。

 最近のテレビつまんないよね。

 〇〇ランキングの紹介みたいな番組が多くなっているが番組側が勝手につくったようなもんだろ。それにあんなの見てても面白くない。

 めちゃ〇ケとかとんね〇ずみたいなやつが見たい。

 やはり敵はコンプラか。

 言い換えれば視聴者が敵とも言える。

 そして視聴者と言えば俺も視聴者と言える。

 つまり敵は自分自身。

 おお、なんかかっけぇ。

 そんなことを考えていればもうイニシャルマーケットだ。通称イニマ。

まあ俺しか言ってないが、明日吉川にもこの呼び方を布教しよう。

 そこで今日の3限にした約束を思い出す。


「まさかなぁ」


 まさか吉川と毎日登校するなんて

 まさか授業中に吉川が話しかけてくるなんて

 まさか吉川と仲良くなるなんて


「まさかなぁ」


 同じことを2回も呟いた。

 色々な『まさか』が溢れている。

 しかもどれも吉川が関係してるなんて。

 正直に言うと、かなり嬉しい。

 何回も俺のこと好きなのかな、なんて思ってもいる。

 しかし、調子に乗ると痛い目をみる。

 それも知っている。

 だから、吉川のことを好きになったら面倒だし、この妄想も馬鹿馬鹿しいと一蹴できる。

 そして1人で悲しくなった堀井はよく眠れず、翌朝に大寝坊をするのだが。

 

 






 







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いたって普通の高校生の話 へひう @hehiu

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