第3話 美少女との遭遇
翌日になり、ヤクトは頭痛で目が覚める。
「……あぁ、もう朝か」
「起きたか? 主よ」
熄衣は普段の着物の上にエプロンを付けている。
余裕そうな彼女の態度にヤクトは思わず苦笑が出た。
「……さすが
「当然じゃろう、妾は八咫烏……酒を飲み干すのであって、飲まれることなんざないわ」
「……はいはい」
ヤクトは顔を洗ってから、熄衣が用意してくれた朝食を見る。
念のためか今日は和食セレクトとなっている。
梅わかめうどんとしじみのみそ汁だ……完全に二日酔い対策のラインナップだ。というか、俺がセーブしない時によく出してくる熄衣の料理でもある。
相棒に感謝だな。朝食を食べ終え、しかめっ面のまま日課の新聞を見る。
「……白百合女学院で殺人事件か」
女子高で知られる高校で、名門貴族のご令嬢様たちが集まる学校だったはずだ。
そんな学校に殺人事件とは、なんと物騒な話だ。
「……まぁ、妖精姫が隠れるならどこぞのOLか学生なら、学生を選びそうではあるが」
「探ってみるか?」
「隠密行動になるから今日は熄衣が周辺を調べてくれ。俺は二日酔いが抜けてからだ。でないとお嬢様たちが不安がるだろ?」
「よく言うわ」
「位置は……統京の東区だな。いけるか? この建物だと覚えてくれればいい」
ヤクトはデバイスで地図を出し、ヤクトの家からの距離と、白百合女学院の学校の写真を熄衣に見せる。
「問題ない」
「あぁ、頼んだぞ」
熄衣は普通のカラスの姿になり、窓を開けてやれば彼女は飛び去って行った。
「さぁーて……俺は俺のできることをしようか」
ヤクトはまず、服装を着替えて外に出るのだった。
◇ ◆ ◇
ヤクトは変装として伊達メガネ、青いシャツと黒いズボンを着こなしつつ、メッシュの入った髪に魔法をかけてシンプルな黒髪にしてから外に出る。
手頃な店であるカフェで休憩を取って、ブラックコーヒーとチョコレートケーキを食べながらスマホを弄りつつ周囲からの情報を探っていた。
「ねぇ、本当なの? 白百合女学院で殺人事件があったって話」
「びっくりしたよねあれ」
……喫茶店に来たのはどうやら正解だったようだ。
こういう店でゆっくりくつろぐ客は大抵、何かしらの雑談をする物だ。
「私の知り合いのママ友がさ、聞いてびっくりしてて……」
「誰が殺されたの?」
「音楽教師の瑞城先生。なんでもまだ犯人がわかってないらしいの」
「物騒だねぇ」
……確かに、新聞でもそう書かれてあったな。
音楽教師である
どこで殺されていたのか、まだ警察は調べている最中らしい。
「でも瑞城先生って男遊び酷かったらしいから、男たちの逆恨みじゃない?」
「かもねぇ」
……男遊びねぇ。純粋にそうなのか、それとも生徒か他の教師にいじめられてか。
「それにさ、他の高校の男子学生にも手を出してたって話だよ?」
「え!? ホントそれ!?」
「マジマジ、こんなところで嘘ついてどうすんのさ」
……男子高校生ねぇ、名前を聞きたいんだが。
まぁ、情報としてマティウスたちに調べてもらうのが筋か。
「……ん」
ヤクトはケーキを食べながらデバイスでメモを取る。
目立った情報を聞けたのは今の女性二人組の客からのみだ。
後は適当に時間を過ごしつつ、ネットの記事を読み漁る。とある記事にて目立つ少女の画像が目に入る。コスメブランドの広告に映っている彼女の名は絵名本エル。
有名なカリスマモデルでSNSでも名の知れたインフルエンサーだとか。コスメブランドや宣伝やyoutuberや歌手的活動もしているようだ。
彼女の容姿を一度見ただけでもすぐ覚えてしまうファンは多い。
髪先からブルーからピンクのメッシュが入った長い金髪。白い鳥の翼のようなリボンでハーフアップにし、後ろの髪をツインテールのようになっている。
彼女に許される髪形だとかで、何でもハフアップツインテールというらしい。
そして極めつけは、彼女の瞳。全体的にピンク色の瞳で、ブルーのハイライトと、目の下に中央に蝶の形のブルーで縁取られた白のハイライトがある。
彼女の瞳は世守と人間のハーフの混血種であることはすぐわかる。
彼女の美貌はまるで、天使にも小悪魔にも見える美しさがある。
「……人々を蠱惑的に
ヤクト呟きながら、画面に映る偶像に微笑む。
笑みを浮かべるヤクトの微笑に周囲の若い女性陣は目配せしながら話し合う。
「ね、ねぇ、あそこの人。イケメンじゃない?」
「だよねだよねぇ! かっこいい……っ」
ヤクトは他の女性客たちの視線を無視しコーヒーを飲み干した。
……情報収集できなくなる前にいったんこの店から出るべきだな。
ヤクトは会計を済ませ、店から出た。
「さぁて、仕事に行くかぁ」
ヤクトはわざと体を伸ばしながら、鞄を持つ手を持ち直す。
……白百合女学院で被害者は瑞城花音。
男癖が悪い音楽教師で、他校の男子高校生に手を出した。まだ今日にあがったばかりの情報だから、午後から改めて情報が出るだろう。
「離して!!」
「るっせぇ!! おとなしくついてきやがれっ!!」
「……」
向こう側に幼気な少女が強面の男に捕まっている。
ヤクトはさっきスマホ画面で確認した記事と彼女を見比べる。
卵型のフェイスライン。端正な美貌に彼女以外ありえない髪色と髪形。
レースがあるシャツに、十字架と両翼の金色の刺繍が施されたネクタイ。
腰部のコルセットが繋がったハイウェストの黒いミニスカート、靴は赤のアンクルストラップシューズ……これはよく、彼女が配信内でよくしている彼女の格好だ。
「離して!! 離してったら!!」
「るっせぇ!! いいから大人しく、」
ここは助けるべきか、そうでないべきか……答えは決まっている。
ヤクトはゆっくりとした足取りで歩いていく。
暴漢らしき男の腕を掴むと鋭くこちらを睨む。
「やれやれ、レディに失礼じゃないか? お兄さん」
「なんだテメェ!!」
「お嬢さん、お仕事は? 時間は大丈夫?」
「っ、急いでます!!」
「――――なら、急がないとな、っ!!」
思いっきりヤクトは暴漢の腹に一発拳を入れる。鍛え上げられた肉体に、自分の背よりも大きい男だろうと、人間の急所になる部分は全て暗記済みだ。
「ぐはっ!!」
「逃げるよ、お嬢さん」
ヤクトは姫抱っこして駆け出す。
「え!? は!? な、なんで!?」
「舌噛むから口閉じようか、行くぞ」
「っ、おい、待ちやがれぇええええ!!」
男の叫びを聞きながらヤクトはその場を去り、手頃な公園へとやってくる。
ヤクトは周囲を見渡して、追っ手がいないか確認をする。
「……ここまでくれば問題ないだろ」
「え、えっと……ありがとうございます」
「あぁ、どういたしまして……君の名前は?」
「私? 私は……絵名本エルだけど」
ヤクトは少女を下ろし、にこやかに微笑んだ。
まぁ、人狼の先祖返りの俺にはある程度のレディの体重なんて羽のような物だ。
可憐な少女は不思議そうに首を傾げるも名乗りを上げる。
「少し、いいかい? レディ」
「あ、わ、私急いでいるので、ここで、」
ヤクトは彼女の手を掴み、にこやかに告げた。
「逃がすわけないでしょう――――妖精姫、エフィリアーナ様の知人様?」
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