第22話:1話使ってひたすらキモいと語り続ける
旧世界における天使。
それは地獄の象徴だった。
エンシェント・オブ・デイズによる裁きの直後に襲来し、人類と大戦争──『ハルマゲドン』と呼ばれる種の生き残りを賭けた争いを行った最悪の存在。
「奴らこそがこの街の真なる支配者じゃ」
なんか僕を差し置いて見届け人を名乗り、僕たちの後ろからただ1人付いてきた狐耳の爺さんが語り出す。
「奴らは狼族同士の争いがあまりに大きくなりすぎたり、狐族への虐殺が起きようとした際にあの塔から出てきて、強制的に仲裁する。また外からの侵略への防衛なども行っておる」
「ふうん……つまりこの街の支配者というよりは治安維持とか守護者とかをしているという事?」
……凄い。僕の知識ではあり得なさすぎる話だ。
あの天使たちがそんな事を?
旧世界の人類に聞かせたら正気を疑われるような話だぞ。
なんて思っていると、アルベルが。
「だが、連中は人類の敵なのだろう? それ抜きにしても、見た目からしてまともな存在には思えんが」
「うむ。お主の言う通りあの醜悪な見た目じゃ。あんな物──『魔』どもが善意で我らを庇護している筈もなし」
ふよふよ浮遊する生首を見ながら2人がそんな事を話す。
──『魔』ねえ。
確かあの悪魔たちも同じ呼ばれ方をしていたな。
つまり、天使と悪魔は新世界の異種族たちにとっては同じ区分という事か。
もしやこいつら、意外と鋭いのか?
いや、そう区分しているのは狐たちだけかもしれないな。
今度ロリか族長に聞いてみよう。
「故に、救世主様方が奴らから街の支配権を取り戻し、我らの上に君臨してくださるならば喜ばしい事じゃ」
「なるほどな。まあ、得体の知れない生首に庇護されて、純粋に嬉しく思う奴は頭がどうかしているだろうからな」
またもや見た目だけでの判断……と言いたいところだけど、これに限っては妥当だね。
アルベルの言う通り、仮にこんな見た目がキモい奴らに守ると言われたとて、素直に信用する奴は頭がイカれてる。
どう見ても邪悪な思惑があるとしか思えないだろうからね。
ただ、僕が気になるのは。
「ふむ……奴らとは意思疎通は取れるのか?」
僕が知る限り、天使は意思疎通の余地など全くない、ただひたすらに人類を殺戮するのみの害悪だった。
けど、この街の支配者って事は、多少なりとも意思疎通が可能な存在が居なくては成立しないのではと思うわけで。
でも、だとすると……
「いいや。殆どがワシらとは異なる、翻訳魔法すら通用せぬ謎の言葉で会話しておる」
「殆ど……という事は……そういう事だな?」
言いながら、僕は動揺を隠せているか心配だった。
何故なら。
「うむ。奴らの頂点に立つ存在……大量の目玉の付いた鎧の存在は、意思疎通を可能とするぞ」
「大量の目玉の付いた鎧? 流石に気持ち悪すぎないかしら? 可能なら見たくないのだけれど……」
キモがるアリスの言葉を他所に、僕は内心驚きまくっていた。
だって。
いや、マジ?
本気で?
意思疎通ができる天使??
僕が知る限り、それって……
いや待て。大量の目玉が付いた鎧か。
なら少なくともアレらではないって事か。
というかそんな化け物オブ化け物が居たらエデン最強は龍帝とか呼ばれてないだろうし。
まあ大量の目玉が付いた鎧って、アリスの言う通り普通にキモすぎる化け物だけど。
とりあえず、意味深ムーブをするために……
「……ふむ。信じがたいな。仮にそれが真実だとするならば……」
「するならば〜?」
僕の横にいる王女がいつものように気が抜けた感じで聞いてきた。
よし。落ち着いてきたぞ。
「フッ……まあ、会えばわかる話か。気にする必要はない」
「フェルナンドさんは悪い人です〜!」
うん。王女はリアクション役として合格だね。
なんてやり取りをしていると、アリスがいつものようにジト目で軽く睨んできて。
「フェルナンドのいつものやつは置いておいて……とりあえず、向かってみましょうか?」
「そうだな。連中が人類の敵ならば、襲い掛かってくるのだろうが……望むところだな」
おお。対話の意思が全くない戦闘狂の発言だ。
アルベルとアリスとしては和解するより戦う方が楽しいらしい。
やっぱりこうでなくちゃね。
そうして歩いて行くと、僕たちの姿を確認したらしき天使たちが。
『◯※×#%>€¥』
『¥$×○#÷〜!』
……なんか連中同士で会話してる?
「何を話しているか一切わからないな」
「そうね……というか正直言って見るに耐えない光景なのだけれど」
「生首の表情が一切変わらないのが気持ち悪すぎます〜!」
うん。生首は燃える車輪と会話してるような感じを出しているんだけど、表情はずっと無表情で、口をパクパクしているだけだからね。
あれでどうやって発声しているのか不思議……というより気持ち悪いな。
そして燃える車輪がどうやって声を出しているのかなんて、疑問に思う事自体が馬鹿らしくなってくる話だ。
──こんな感じで、人間として生理的嫌悪感を抱かざるを得ない醜悪なる見た目に対し、これが天使の姿なのかと絶望をする人類は多かったのだという。
それを実際に目の当たりにできて、感動すべき場面なのかもしれないけど……ひたすらキモいだけだな。
なんて思っていると。
『◯※×#%>€¥』
『¥$×○#÷〜!』
なんか突然燃える車輪が突っ込んで来た。
見た目のインパクトが凄まじいし、何よりめちゃくちゃ速いな。
とはいえ。
「うおっ! ……まあ、たいした事はないな」
アルベルが驚きながらもあっさりと斧で真っ二つにする。
まあ彼が対応できないレベルでは全くないよね。
僕ならかなり怪しいけど。
そして次の瞬間、斬られた燃える車輪は塵になって消え去った。
うん。天使が死んだらこんな感じになるというのは、伝説に聞いていた通りだな。
「塵になったな……あの見た目で突っ込んで来るという衝撃が凄くて思わず殺したが、構わないな?」
「というか、明らかに向こうから殺しに来たんだから当然ね。生態はあまりに謎すぎるけれど……」
うん。アリスが言う通り、燃えながら凄い勢いで突進してきて殺す気がないとか絶対ありえないからね。
ならば反撃は当然だし……そもそも奴は天使だ。
天使を生かす理由は全くない。
奴らは見つけ次第即座に抹殺すべき最低最悪の害悪なのだから。
そうして2人が話している内に。
『◯※×#%>|\』
後ろの生首が音声を発しながら何かしようとしていたけど……
「流石に見逃しませんよ〜!」
当然、そんなのは王女がしっかりと見ているわけで。
あっさりと風魔法で生首を切り裂いた。
うん。素晴らしい威力と速度と範囲だ。
流石は1000年前から得意とするだけの事はあるね。
記憶を失っても、やはり際立った才能は変わりないか。
しかし。
「う、うわあ……生首が細切れに切り裂かれて消滅する姿を見るのはきついわね……血が噴き出ないのは良い事なのか悪い事なのか……」
アリスは思いっきりドン引きしてる。
天使を見てから、彼女はずっとこんな感じだね。
まあ奴らはいちいち見た目がヤバすぎるから仕方ない。
そんな感じで、塔の入り口にいた2体の天使との戦闘を終えて少し落ち着いてから。
「……あいつら、大体あの悪魔たちくらいの強さだったかしら?」
「正確なところはわからんが、俺も概ねそんなところじゃないかと思う」
うん。僕も大体そんな感じだと思った。
そうなると……伝説で聞いていた話を踏まえて考えると、こいつら結構な高位天使なのではなかろうか。
そう認識していないかもだけど、悪魔ってとんでもない化け物だからね。
1匹でその辺の村なら普通に滅ぼせるだろうし、5匹も集まればその辺の街も余裕を持って滅ぼせるだろう怪物だ。
前も同じ事を言ったけど、アルベルとアリスが人類屈指の超人だから弱く見えているってだけで。
もし悪魔の強さが中間的な位の天使に備わる物だとしたら、人類はまず間違いなくとっくに滅んでいるだろう。
だからこそ、悪魔と同じくらい強そうに見えるあの燃える車輪は、それなりに高位の天使という事である。
そんなのが人類全ての決死の思いでの捜査から逃れていた?
なんか色々な裏がありそうで良い感じだね。
「あの『魔』共をああも容易く……何という偉大なるお力じゃ……」
狐耳の爺さんがなんか感動してるし。
この爺さん、ゲストキャラとしては意外と悪くないかもしれない。
まあ爺さんの出番はまず間違いなくこの街の攻略限りだけど。
「話が通じない以上、こうして向こうから襲い掛かってくれるのは楽で良いわね。大義名分ができたわ」
「だな。あんな奴らと共生は無理があるし、何より連中は人類の敵なのだろう?」
アルベルが僕を見ながら聞いてくるので。
「そうだな。少なくとも旧世界においては、天使は見つけ次第確実に始末するよう徹底されていた。奴らが殺害した人類の数を考えると当然だが」
「またまた気になる言い方です〜!」
よし。なんかぷりぷりしている王女は僕の意図をばっちり掴んでくれてるね。
彼女がアリスとキャラが被っているというのは、意外と正しいかも……?
とか考えていたら。
「………………」
なんか銀髪がめっちゃ無言のジト目で睨んできてるんだけど。
いや、決して『もうアリスいらなくね?』とか思ってないからね。
いくら今回はかなりアリスの影が薄いからといって。
「……何か怒らなければいけないような事を考えられている気がする……」
「フッ……気の所為だろう」
「………………」
というわけで、何故かアリスから僕はずっとジト目で睨まれながら、みんなで塔に入った。
女性陣の強い希望により、今回はアルベルを先頭にして進む事になっている。
そして。
『¥$×○#÷〜!』
「……化け物の見本市だな……」
アルベルの言う通り、様々な気持ち悪い天使が襲い掛かって来た。
クソデカい目玉が1つのキモ浮遊体とか、何故か羽にも目玉が付いてるクソキモ飛行体とか。
なんでこいつら揃いも揃って全員浮いてるんだ?
そこもまた気持ち悪いんだけど。
まあそんなに数が多いわけではなく、1階につき数匹程度ではあるけれども……
「もうさっさと終わらせたいのだけれど? いっそ遠くから塔ごと破壊していいかしら……」
「わたしもそれがいいです〜!」
僕もそうした方が……いや、英雄譚としては駄目だな……。
まだ何もわかってないし、最低でも親玉を向き合って討伐くらいはしておかないとからね。
即座に終わらせる案を提示する2人に対してアルベルが。
「いや、それは駄目だろう。俺が連中の相手をするから我慢しろ」
「そうだな。私としてもそれには反対させて貰おう」
感情としては割とアリスと王女に賛成だけど……意味深ムーブをするためには、時には我慢も必要なのだ。
それ以外にも僕としては気になる点がある。
こいつら、明確に……いや、それはまた今度でいいか。
結局、話が通じない以上は新たな情報は得られないからね。
そうして、アルベルがキモい連中を一刀両断するのを繰り返してから、最上階に到達したところ。
「うええ……何あれ? 気持ち悪っ……」
「直視しがたいです〜! 近寄りたくないです〜!!」
アリスと王女の2人がボロクソ言う通り、そこに居たのは爺さんが言う通りの存在──つまり目玉が大量に付いた全身鎧のキモすぎる姿があった。
心の底から嫌悪した姿を見せる2人に対して、爺さんは。
「あれこそが『魔』共の頂点にして、この街の真なる支配者じゃ。救世主様方、お頼み申し上げます」
「あれがこの街における天使の親玉か。ふむ……」
僕がわざとらしく考え込む姿を見せていると、それを見て一瞬目を細めたアルベルが口を開く。
「……まあ、いい。で、誰があれと戦うんだ?」
「私は嫌よ。あんなのに近づいたら頭がおかしくなるわ」
「わたしも絶対嫌です〜!」
いやいやと言う2人の我儘王女。
姫って物は我儘な生き物だからね。仕方ないね。
僕? 絶対に嫌だあんなキモい化け物。
というかそもそも僕じゃ勝てないだろうし。
しかも。
「ひ、ひええ〜! なんかあの鎧さん、わたしたちを見てぷるぷる震えていませんか〜!?」
「う、うわあ……流石に気持ち悪すぎるわね……」
何故か知らないけど、奴はこちらを見て全身をぷるぷる震わせていたのだ。
つまり、鎧に付いた大量の目玉も一緒に……
うん。描写はこの辺でやめておこうか。
アルベルも顔を顰めながら。
「俺も可能ならばあんなモノを相手にしたくないが……まあ、仕方あるまい」
やれやれといった感じを出しながらアルベルが歩いて行く。
うん。流石は人類の希望たる『神殺し』だ。
あんなキモい化け物を前にしてもちゃんと立ち向かうなんて。
……かつての人類はこんなキモい奴らと果敢に戦っていたのか……敬意を表さなければ。
すると。
「……我が元まで来たかっ! 忌まわしき『救世主』がっ!」
「ん? やはり話が出来るのか。それに、その呼び名……街の連中と連絡を取っているのか?」
アルベルは怪訝そうにしてから。
「……まあ、どうでも良い。弱い奴が工作員をしようと俺の知った事ではないからな」
……実際には、スパイなんていないんだろうなあ。
まあ、僕としては良い機会が訪れた。
意味深なキャラとしてこれを逃すわけにはいかない。
まあ、あいつは異常なる超越的存在には見えないのに、何故こうして会話ができるのかは凄く気になるけど……今はそれよりポイント稼ぎだ。
というわけで、いつものようにかっこいい感じを出しながら。
「ふむ。街の者と連絡……か」
「……さっきから。何か気になるの?」
遂にアリスが我慢出来なくなったらしい。
でも僕は意味深な男だからね。素直に教えるわけがない。
そのため。
「フッ……気にするな。アルベルの言う通り、どうでも良い事だ」
「ほんっとにもう……まあ、良いけれどね」
額に手を当てる銀髪。
そんなやり取りをした直後に目玉鎧が。
「死ねっ! 『救世主』っ!!」
おお、凄い勢いだな。
だけど。
「見た目の迫力は大した物だが、実力は伴っていないぞ。遺跡の守護者と変わらん程度だな」
言いながらアルベルは目玉鎧をいつものように魔斧ボレアスで斬り捨てた。
相変わらず、アルベルは最強だ。
神獣クラスって、つまり国が討伐のために動かなければならない程の怪物なのに。
けど、うーん。
「私としては、もう少し奴から話を聞く事ができればと考えていたが……まあ仕方あるまい」
「そうか? それなら事前に言ってくれていたら……まあこの様子何かを語るかは怪しいところだが」
アルベルとそんな事を話していると、消えかけの目玉鎧が。
「フ、フフフ……愚かなる『救世主』が……我らは何も語らぬ……せいぜい惑うがいいわ……」
なんて言い残して消え去った。
おい。最後に意味深な事を言いやがったぞこいつ。
許せん。いやもう死んだけど。
「……何だったのかしらね? あらゆる意味において」
「そうだな。何故こんな場所にいて、何故狐や狼共の管理者を気取っていたのか。それに、奴らは滅びたはずの人類の敵なのだろう?」
2人が言う通り、結局それらの謎はわからなかったな。
まあ、天使が未だ生きているとかいう仰天過ぎる情報が得られただけでも凄まじい収穫ではあったけど。
「謎が多すぎます〜! 天帝さんなら何か知っていたりするのでしょうか〜?」
「ふむ……私としても、ルナはこれを知っているのかどうか気になるな」
うん。こいつらの存在理由もだし……仮にルナがこの事を知っているのだとしたら、何故生かしている?
何度も繰り返すけど、こいつらはまさしく百害あって一利なしの最悪の存在だからね。
天使の事を知識として知っている筈のルナが、仮に野放しにしているというのだとすれば、それはかなり疑問に思う。
とか話していると、アリスが唐突に。
「ん? 何かダークネスたちから連絡が来たわね」
言いながらアリスは、族長から遠隔地における連絡に使えると言われて渡された水晶を取り出す。
これを使う際には魔力を大量に消費するらしいんだけど、絶大なる魔力を持つアリスからすれば誤差レベルでしかないからね。
こっちではアリス、向こうでは我らが銀髪に匹敵する魔力を持つダークネスに持たせて、連絡の為の便利アイテムとして使用している。
で、その水晶には。
『異常事態発生』
と記されていた。
「異常事態? 何が起きたのかしらね」
「非常事態ではなく異常事態というのも気になるな。単なる言葉尻に過ぎないかもしれないが、ダークネスがこういった言葉遣いをすると考えるとな」
確かに、ダークネスにしては気になる言い方……いや伝え方? だね。
彼ほど頭の良い人だったら、こんなふわっふわした何も伝わらないアホみたいなメッセージではなく、例えば『悪魔大量襲来』みたいなわかりやすい伝え方をする気がする。
ん? 普段の僕?
僕はわかっててそういうのをやってるからセーフ。
とはいえ。
「そうなんですね〜わたしはその方のことは良くわかりませんが〜皆さんの反応は気になりますね〜!」
王女のこの感じにも結構慣れてきたぞ。
僕は対応力とポーカーフェイス力に定評のある意味深キャラだからね。
──なんていう感じで、内心で自画自賛しているくらいには僕には余裕があった。
いやだって、絶滅したはずの天使がこうして現れた事実以上の異常な事態なんて起きている筈がないからね。
最早何があっても僕を動揺させる事など不可能だろうね。
〜少し遡り〜
ティル・ナ・ノーグにて。
「あ、あなたは……」
「な、何故貴公が此処に……」
驚愕の声を上げるダークネスと長耳族族長ファルザンの目の前に現れたのは。
金髪青眼の、信じられない程の──アリスに匹敵すると言っていい程の美しさを誇る18歳程度の少女。
つまり。
「ふふ。来ちゃった♡……という表現が適切でしょうか?」
──『天帝』ルナ、襲来。
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