第21話:なんでここにこいつらが!?

 〜某所にて〜

 

 

「そうか……『救世主』が復活したと云うか……」

 

 その存在は全身を怒りによって震わせる。

 

「……忌々しき『救世主』がっ……! 我らが主を弑し、次は『新なるヒト』を滅すると云うか……!!」

 

「許さぬ……許さぬぞ『救世主』っ!!」

 

 

 

 〜〜

 

 

 

 

 街の話を終えたところで、我らが銀髪皇女が。

 

「王女はこの街で何をしていたの? 狼たちの『姉御』になっていたみたいだけど」

 

「そうだな。まあ大凡の予想はできるが」

 

 アルベルが言う通り、あの脳筋狼どもの性質を考えるとね……

 

「まず、この街に着くまでに狐さんのお爺さんを小鬼というゴブリンみたいな生き物から助けまして〜」

 

 この街の近くにも小鬼やら狼(人間じゃない方)は見かけたからね。

 今のパーティからすると英雄譚どころかもはや経験値にすらならない下等種族だから何も言わなかったけど(当然)。

 

「でも言葉が通じなくてどうしようかと思っていたら、お爺さんが翻訳魔法を使えたんです〜!」

 

 なんか随分と都合の良い話だな。

 まあ普通に考えたら、何かしらの取り柄がないと襲われるような場所には行かな……あの狐娘は行ってたな。

 

 ……考えてみるとあの孫娘もそうだったな……

 まあ孫娘は流石に狐娘よりは遥かにマシだけど。

 一応族長の親戚なわけだし。

 わかりやすく表現するとエルフのお姫様みたいな立場って事だからね。

 姫多いな。

 

「なので、まずは翻訳魔法を教えて貰いながらゆっくり街まで歩きまして〜」

 

 うんうん。

 

「そこで狼さんたちに絡まれたので、魔法で撃退したりしていたら、気付いたらこうなっていました〜!」

 

 なんかだいぶ飛ばしたな。

 まあ雑魚相手の無双を長々と喋っても仕方ないか。

 そして狐の爺さんとやらは一体どうなったのか……別にどうでも良いな。

 

「概ね予想通りね。気付いたら組の支配者になるという点は流石といったところだけれど」

 

「だな。王子同様に人望があるという事か」

 

「そう褒められると照れちゃいますね〜」

 

 ほんとに照れてる? 結構疑わしいぞ。

 そんな疑惑の集う王女が。

 

「わたしについてはこんなところでしょうか〜? 後はみなさんのお話を聞きたいですね〜!」

 

「そうね。まあ良いでしょう。説明は……はあ。わかったわよ。私がします」

 

 何故かアリスが僕とアルベルの顔を見てクソデカ溜め息を吐く。

 そんな銀髪を見て我らが『白髪理系』は。

 

「ふっ……俺が説明しても良いんだぞ?」

 

「あまりにも向いていなさすぎて、最早笑えすらしないわよ」

 

「アルベルさんは……うう〜ん……」

 

 お。アルベル君がお姫様2人にダメ出しされてしょんぼりしたぞ。

 

 こう超絶美人2人に貶められると中々にクる物があるよね。

 アリスは大体20歳前くらいの美人、王女は王子と同様に15〜6歳くらいの見た目の美少女って感じのタイプが違う美形だから尚更。

 

 とはいえまあ、アルベルが説明はね……

 

 ──しかし、あの完璧超人絶対無敵の人類の希望たる『神殺し』のこういった姿を見られるのは、僕としては本当に面白い話だ。

 

 かつての勇者パーティではどうしていたのだろうか? 

 逸話の中では、こういった状況で誰がどう説明していたのかなんて細かすぎる話は勿論省略されていたからね。

 3人とも、あらゆる意味でおかしな人たちだからなあ……

 

 まあそれ故に、僕は今アルベルにくっ付いて凄く得難い経験をしているんだなと再実感しているわけだけど。

 

 そして、お約束として。

 

「フッ……ならば私が説明の任を……」

 

「論外」

 

 せめて最後まで言わせて貰いたいところ。

 いやまあ、望み通りのリアクションをくれて感謝だけども。

 やっぱりアリスはわかってるね。

 

 そんな僕たちのやり取りを見たアルベル君は何故か頷いてから。

 

「フェルナンドよりは俺の方がマシだと思……」

 

「どっちもどっちだぞ」

 

「みなさん仲良しで素晴らしいですね〜!」

 

 

 ──というわけで、僕とアルベルをボロクソに言った銀髪が新世界計画やら人類滅亡やら世界征服やらの説明をすると。

 

「情報の奔流が酷いです〜! ちょっと今の時点で理屈では判断できないですね〜」

 

 口調の割に内容はめちゃくちゃ理性的だな。

 コイツさてはぶりっ子……いや、辞めておこう。

 

「少し時間を貰って考えたい……と言いたいところですけど〜」

 

 ぶりっ子疑惑の王女は僕たち3人の顔を見てから。

 

「まあ、そうですよね〜足踏みをしたら置いていかれちゃいます〜」

 

 へえ……こういう所は流石あのエステラ王女といったところ。

 僕と同じ事を思ったのか、アリスとアルベルが。

 

「ええ。わかっているじゃない」

 

「ああ。ここでもし、考える為に1日欲しいなどと言われたら肩透かしも良いところだったからな」

 

 僕が言うのもあれだけど、この2人もかなり厳しいよね。

 まあこれまで会ってきた人はみんな超一流だから仕方ないかもだけど。

 

「うう〜ん……」

 

 考え込むエステラ王女。

 

 よし。またもや良いタイミングが来たな。

 

 王女は結構隙を作ってくれて良い感じだね。

 旧世界では様々な理由から彼女を主人公候補からは完全に外してたし、そして今もはわわ系だから僕の考える主人公像とは違うけど……英雄譚を彩る仲間としてはかなり良いかもしれない。

 

 という事で、僕は口を開き。

 

「理屈で判断不可能ならば、感情で判断する他あるまい」

 

「感情……」

 

 王女の眼を正面から見つめて問いかける。

 

「君は、どうしたい?」

 

「わたしが……ですか。そうですね〜」

 

 王女は再び考え込む様子を見せてから。

 

「世界征服……弱き民を支配してあげるのも強者の責務という物ですね〜!」

 

 なんて言い出した。

 

「なんか私より魔王みたいな事を言い出したのだけれど」

 

 うん。僕も凄くそう思った。

 ……それにしても、魔王という名前は出来ればやめた方がいいと思うんだけどね。

 勿論、一般ウケがどうとかみたいな凡人みたいな理由ではない。

 どういう事かというと、魔王って1000年前に……まあ、良いか。

 

「あはは〜。でもそうすると、わたしたちの中で王様はどなたに? という話になると思うのですが〜」

 

 彼女は改めて僕たち3人を見渡してから。

 

「今のわたしではみなさんには敵いそうにないですね〜」

 

「ほう……」

 

「へえ……今、ね。良いでしょう。挑戦はいつでも受けて立つわよ」

 

 王女の言葉に嬉しそうにする戦闘狂2人。

 

 うん。僕としてはかなり意外だな。

 王女は旧世界ではそういうのから一歩引いてたからね。

 具体的には、王子こそが国の中心と言って自らが覇を成さんとはしなかったくらいには。

 実際、個人の武力としては比較にならないくらい王女が圧倒的に優れていた以上、やろうと思えば全然出来なくはなかっただろうからね。

 

 そんな王女が世界征服の帝王を目指して下剋上を目論む……僕としては大歓迎なんだけど、なんでそうしようと思ったのだろうか? 

 

 そして、どうでもいいけど少なくとも僕は王女には絶対勝てない。

 この人、こう見えて少なくとも100英傑で50番以内のカタログスペックだったし、そして実績で言うなら20番以内すらあるんじゃないかってくらいの強者だからね。

 過去の戦では王女は総司令官として、序列8位のアリスのお姉さん率いる帝国軍から国を守り切ったのだから。

 

 僕は意味深ポイントをかなり稼がせてくれた王女に感謝しながら後方で頷いていた。

 

 

 ──というわけで、僕たちは王女を加えてこの街の征服を再開して。

 

「なんだテメ……ギャアアア!?」

 

「オレらのナワバリと知った……ゴワアアア!?」

 

 例によってセリフの途中でアリスに吹き飛ばされる三下共。

 うん。こんな奴らの事を長々と語っても意味はないから省略だ。

 同じ事をアリスも思ったのか。

 

「流石に飽きてきたわね……王女、交代する?」

 

「わたしも狼さんたちはもう十分です〜」

 

 なんていう緊張感皆無のやり取りをしながら、なんちゃら組のアジトをあっさり攻略完了する。

 

 普通こういった時は、新たに加入した王女の実力を見るだとかアルベルやアリスの強さに驚いてもらうだとかするんだろうけど……

 相手がこいつらで一体何を見るんだ? って話だからね(慢心)。

 

 というわけで、僕は3人に対して。

 

「3人とも、次はどうする?」

 

「そうね……セオリー通りに行くなら、このまま狼たちの組を1つずつ潰して支配するべきなのでしょうけれど……」

 

 やたら嫌そうに語るアリスと同じように、アルベルが凄く嫌そうな顔をして。

 

「流石にそれは退屈だな……あまりに変わり映えがしなさすぎる」

 

「そうですね〜」

 

 王女もうんざりといった感じで同意する。

 我らが銀髪も頷いてから。

 

「可能ならこの街の本丸と言える場所を攻めたいところだけれど……王女には心当たりはある?」

 

「うう〜ん……なら、少しだけ待ってくれますか〜? 詳しそうなお爺さんを連れてきます〜!」

 

 詳しそうなお爺さん? 

 

「ああ、さっき王女が話していた狐の爺さんか。良かろう。このまま当てもなく彷徨うよりは少しの間待つ方が幾らかマシだ」

 

 そういえばそんな事を言ってたな。

 確か翻訳魔法を使える爺さんだったか。

 それなら多少は役に立つだろうし良いんじゃない? 

 

 まあもしこれが普通の物語だったら、あの狐娘にこの街を攻略完了するまでの案内とかさせたんだろうけど……今ここに居るのはどう考えても普通の人たちじゃないからね。

 狐娘じゃあ流石に端役としても力不足だ。

 

 そうして少しして。

 

「連れて来ました〜!」

 

 なんて言う王女と。

 

「お、おお……本当に、牙狼組に爪狼組まで……!」

 

「救世主……我らが救世主様だ……!」

 

「なんて美しい方々……」

 

 なにやら感慨深そうにしている狐耳の爺さん……に加えて見た事のない狐耳たちがなんか大勢やって来た。

 いや、爺さん以外呼んでないんだけど? 

 その爺さんも僕たちとしては初対面だし。

 

 しかも。

 

「姉御! 爪狼共をやったんですね! 流石です!!」

 

「このまま街を支配しちまいましょうぜ!!」

 

 全く誰もお呼びしていない三下狼共までやって来た。

 

「牙狼組!? 貴様ら、何故ここに……!」

 

「へっ! 今のオレらは姉御に付いたんだよ!!」

 

 ……なんか最終決戦前に勢揃いしたみたいになってない? 

 全く何も感慨深くないし、こいつらの因縁なんぞ極めてどうでも良すぎるんだけど。

 

「……まあ、とりあえずここは王女に任せましょうか。……面倒臭いし……」

 

「だな。……正直相手してられん……」

 

 うん。2人が言う通り、こいつらもう勝手にやってくれという気分である。

 

「お2人とも、ひどいです〜!」

 

 ぷりぷりした様子の王女。

 可愛いな。ぶりっ子の疑惑は更に深まったけど。

 

 という感じで王女に連中の相手を押し付けたところ。

 

「救世主様方はこれからこの街に君臨されるのじゃな? ならば……やはりあの場所に行かねばなるまい」

 

 なんか爺さんが語り出したぞ。

 まあ望んでいた展開ではあるけど。

 そんな爺さんに対して、我らが銀髪が。

 

「どの場所よ?」

 

「この街の真なる支配者が住まう塔じゃ。場所は北の……ここにある」

 

 地図の北の1点を指差す爺さん。

 他の狐たちや狼たちも何やらうんうん頷いている。

 

「ふうん……わかりやすくて良いじゃない」

 

「そうだな。虱潰しに当たるよりは余程歓迎すべき展開だ」

 

 ようやくやる気を見せるアルベルに対して爺さんが。

 

「お主はここに留まった方が良いのではないか?」

 

「……」

 

 爺さんから見てもアルベルは弱そうなんだね。

 同意するように狐人間の1人が。

 

「言いづらいですが、救世主様たちの中で、唯一というか……」

 

 その言葉に対してなんか三下狼が馬鹿にするような表情をする。

 

「へっ……馬鹿狐どもめ。このお方の強さを知らねえなんてな!」

 

「そうだそうだ! 兄貴は見た目は弱そうだけど、めちゃくちゃ強えんだぜ!!」

 

 こいつら凄いな。

 手のひら返しとはまさにこの事。

 アルベルがいつの間にか奴らの兄貴になっとるし。

 

「ぷっ……ふふ……い、いえ? なんでもないわよ?」

 

 そして我らが銀髪が笑いを堪えきれていない。

 今回アリスは煽る側に回れて凄く楽しそうだな。

 

「……こいつら……!!」

 

 おお。アルベルがぷるぷる震えて怒りを感じてる。

 あの伝説の『神殺し』がこうして怒る話なんて勇者物語の中でも聞いた事ないぞ。

 なんか凄く良い物を見られた気分。

 

 すると、王女が困惑したようにしながら僕に小声で。

 

「……ええと。アルベルさんが弱そう、ですか〜?」

 

「ああ。彼らからするとそう見えるらしい。不思議極まる話だろう?」

 

 なんて応えると。

 

「はわわ〜っ! いくら愚昧なる下等種族にも限度という物があります〜っ!!」

 

 愚昧なる下等種族って凄いセリフだな。

 

「愚昧なる下等種族って凄い台詞ね……」

 

「ああ。フォローされた俺ですら流石にどうかと思うぞ」

 

 王女はやっぱりなんか『素』がチラチラしてくるよね。

 むしろこっちの方が僕としては面白いから良いんだけど。

 

 

 ──そうして、支配者とやらが居るという北の塔に向かったところ。

 

 僕たちの目の前に現れたのは、今まで見て来た狼たちや狐たちとは全く異なる存在だった。

 

『◯※×#%>€¥』

 

 未だ翻訳魔法は維持されているはずなのに、聞き取る事のできない謎言語でコミュニケーションを取る謎の存在たち。

 

 というか、え? まさかあれって……

 

「なんだあいつらは?」

 

「どう見ても普通の生物じゃないわね。……燃える車輪? それに何より……」

 

 1点を見て気味が悪いといった表情をするアリスに、アルベルは頷いて。

 

「ああ。羽の生えた生首が浮いて移動しているな」

 

 そう。後頭部から羽を生やした生首がふよふよ浮遊しながら移動する姿がそこにあった。

 

「気持ち悪いです〜! ああやって移動するなら羽なんていらないです〜!!」

 

 まあそれはその通りだな。

 ……いや、本当に信じられない。

 しかし、意味深なキャラとしてこれは使わなければなるまい。

 

 僕は思わずといった感じを演出しながら。

 

「……まさか、このような場所にこれらが居るとはな……」

 

「フェルナンドは知っているの?」

 

「正確には、私も直接目にするのは初めてだ。だが、伝説であれらの事は良く耳にしている」

 

 なんでこんな場所に? と疑問の声を今上げるのは意味深なキャラとして我慢して。

 

「あれは……天使だ」

 

 そう。

 あれは間違いなく伝説に謳われる天使の姿そのものだった。

 

「神の僕。人類の大敵。憎むべき最低の害悪。奴らは過去に人類と戦争を行い、敗北し滅亡したと認識していたが……ふむ」

 

 うん。いくらなんでも、あまりにもやばすぎる奴らがいてびっくりなんだけど。

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