堕胎告知 -The Abortion Annunciation- 「オマエはみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」
6.お姉ちゃんズの世界解説講義 feat. しらぬいちゃん! Sex, Gender and so on.
6.お姉ちゃんズの世界解説講義 feat. しらぬいちゃん! Sex, Gender and so on.
パンドラ公国を治めるミルヒシュトラーセ辺境伯の息子であり、
そして不知火陽炎連合の傘下であり、近年頭角を現している春日家の娘、
この2人での
◇◆◇
今日はシュベスターアイ師弟と、
シュベスターとしらぬいが黒板の前に立って講義をして、幼い3人がそれを聞くという形式だ。3人とも講義室の椅子が高すぎて足が地面についていない。アイとはるひに至ってはぷらぷらと揺らして遊んでいる。かげろうだけが暗い面持ちでまんじりともしない。
◇◆◇
「お前たちももうすぐで年齢が5歳となり、
「お母様が……!……それにしてもかげろう……?どうしたの元気ないみたいだけど……。」
アイが心配そうにかげろうを
「アイ様……やはり本当なのですね……はるひと
「……?うん、そうだね?」
「そこにアイ様の御気持ちはあられるのでしょうか……?それとも――。」
「あい?あいはねー、まだよくわかんない。儀式や性別のこともまだ教えられてないし、でも
「そう……ですか……。」
「あいちゃんあいちゃんあいちゃん!かげろうくんには優しくしてあげてね〜。初めてアイちゃんの相手が自分じゃなくてはるひだって聞かされたときはもう!かげろうくん大爆発だったんだから!はるひに決闘を挑みに行く!って。
何とか
しらぬいが弟に助け舟を出す。
「そうなんですか……?かげろう……なんで――」
「――まぁいいだろうその話は、まずはお母様に言われた任を全うせねば。3人ともよく聞いてくれよ。とても重要なことだからな。」
シュベスターがアイに何かを気づかせないように口を開く。
◇◆◇
「この世界では徳のあるもの――
これは両性に変身できるもののうち、一方の性別を10秒以上保てないもののことを言う。
「差別……性別……。」
はるひが何か
「はるひちゃん……?どうかしたの?」
「アイくん……ううん、なんでもないの。」
アイがはるひを気遣って声をかけるが、はるひは
「例えばそうだな、まぁお母様がこの講義を開いた理由でもあるんだろうが、アイ、お前とはるひは
「あいと……はるひちゃんが……。でもどうやって知ったのですか?あいもしらないのに。」
「それは不知火陽炎連合の力だよ〜!方法は企業秘密だけどね〜!大事なカードだからさ〜。」
「その点についてはお母様から聞いている。連合の報告で判明したと。連合の秘密主義なやり口には大層
……たぶんアイとはるひでの
そうでなければ順当に行けばアイとかげろうくんでの
「……。」
かげろうはなにかくらい塊にのしかかられているように、押し黙っていた。
「まぁまぁかげろうくん、シュベスター、続けて〜。」
◇◆◇
「ああ、そして
その性別とは
そして、こちらも人々の差別の対象でもある。他人の力を
……そんな悲しそうな顔をするなアイ……私の意見じゃないぞ……一応な。
一方
研究によると数の少ない順に、
……ここまででなにか質問は?」
「……つまり男女の性別を変えられる人のことを
「そうだ。アイ。」
はるひは差別のくだりから何かを思案しており、かげろうも何事かをかんがえこんでいるので、
しらぬいはというと各々の反応に目を光らせている、シュベスターに先生役を押し付けたのはこのためだったのだろう。
◇◆◇
「ええと……お話だけではまだイメージしづらくて……。」
「そうだろうな……じゃあ具体例を出そう。そこで講義もせず突っ立っているしらぬい――」
「えっ?!わたし?!いやいや性別の話は他人が明かすのはマナー違反でしょ?!
「だから、お前が言っていいならお前から言ってくれ。お前の地位と性別なら別にいいかなとは思うが、一応
「ん、ん〜、まぁいいんだけどさぁ〜なんか恥ずかしいなぁ。よし!この私!」
ビシッと自分を指さして決めポーズ。
「不知火家の
「ちょーぜつかわいいです!」
アイの合いの手。
「あ……アイちゃん……。」
「ガチ照れするな。続けろ。」
「の!性別は〜まず女!ここまではみんな知ってるね〜?そして……
「溜めが長い。早くしろ。」
「あーーーす!あります!それは、
「つまりこいつの性別は女で
心底
「なるほど……!しらぬいさんはすごいんですね!」
反対にキラキラと純粋に目を輝かせたアイがしらぬいを褒める。
「そうだね〜反対に
先ほどからしらぬいの大演説を盗み聞きしていたはるひを、しらぬいは何か見透かしたような目でチラリと見やる。劣った性という言葉を聞いた刹那、はるひの眼が怒りと暗闇に染まる。
◇◆◇
「……本当にそうなのでしょうか?」
暗闇を切り
「本当にそうなのでしょうか?
私が最近持て
性別についてもそうです。例えば、
それに、たとえ
重要なのは
……ハッ……すっすみません偉そうに!」
「アイくん……。」
はるひは
「……!…………〜♪」
しらぬいは何かをとても面白いものを見つけたようにアイを見やる。
「アイ……お前の考えを否定はしない、私は姉だからだ。でも……」
「その考えは隠しておいたほうがいいね〜。」
「……何故ですか……?」
「その考えは
それに間違ってもいる。確かに
だからといって扱いをしていいとまでは言っていない、私は。でも
重要なのは劣っていないと
アイは、お気に入りの毛布をもう大きいんだから持ち歩いちゃいけないと言われた時のような
「でも……でも、おねえさま……」
相手が
「でも……産むだけの性別と何でもできる性別とおっしゃいましたが、アイは……
シュベスターは、もう
「ちが……う、……ちがうぞ……アイ。必ず優劣は存在するし私はそう育てられてきた!だから……そう教えられてきたんだ。だから、だから……お前の
「はいは~い。2人とも落ち着いて!アイちゃんの考えもなかなかにユニークでいいけどね。シュベスターはなにもアイちゃんのことが嫌いでこんなこと言ってるわけじゃあないの!この世界で支配的な考えはシュベスターの方だし、それが常識。
つまりシュベスターはアイちゃんが
しらぬいの
「申し訳ありません!おねえさま!あいは……おねえさまを否定したいわけではないのです。あいもおねえさまと同じ思想になれるよう、教育して下さい!」
「あ……ああ、いいんだ……アイ。気にするな。私もすこし言い方が悪かった。そうだなそれに私のこの思想はお母様から受け継いだものだ。だからきっとお前にも伝わると信じている。」
「おかあさまが!
「ああ……お母様が言ってるんだからな、お母様の言う事で間違えていたことが今まであったか?」
「いいえ!ひとつも!」
「ふふっだろうだって――」
「「
はるひは太陽に
◇◆◇
「はいはい仲直りね〜、話を戻そうよ〜。」
「オマエにしては良いこというな。」
「でしょ〜?
「言っとくが私とお前の間には優劣はないからな……。」
「……?ということはお姉さまも?」
「あぁ、
第二の性を持たぬ人とでも、第一の性が男女なら子供を作れる。まぁ、
もしくは、他の手段を使うこともあるが――いや、
「では、アイは……?アニマかアニムスの
「そうだそのどちらかを決定するために、
◇◆◇
「いや〜やっと話が
「……それで、だ。先ほどから話している第2の性だが、これはもちろん
その場合ここからさらにややこしいのだが、
男の身体と女の身体の順番に、
①
の両方
②
もしくは
の片方だけ
そしてこれは一番
③
の両方
……勿論
「はるひとアイくんはどれなのでしょうか?」
「それを決めるのが……
しらぬいと私もやったし、高位の貴族なら皆やっている。普通性別は5歳前後で自然と定着するが、貴族には家の威信があるからな、平民のように運に任せる訳にはいかない。方法は単純で……戦うんだ。」
「……はるひちゃんと……たたかう……?」
「そうだ。勝ったものが
これはビッチングと呼ばれる現象で、
貴族の場合適当な平民、もしくは下位の貴族の子供を相手として用意して、屈服させて自らは
わたしもしらぬいもそうして確実に
……ただそれだとさっきのアイの相手にかげろうくんがピッタリだと言ったことと矛盾すると思うだろう?さっきそう言ったのは、アイとかげろうくんだとどちらが
自分の家はのことは
“アイはミルヒシュトラーセ家を”裏切らない、そして“アイとかげろうくんはお互いを”裏切らない、加えて“かげろうくんは不知火陽炎連合を”裏切らない。そうすると、“ミルヒシュトラーセ家と連合はお互いを”裏切らないという図式を作れる。
つまり、2人を通じて“絶対にお互いを裏切らない関係”を家同士で築けるということだな。
ふぅ……ここまででなにか質問は?」
◇◆◇
「……つまり
はるひのものとは思えない
「……あぁ、そうだ。おそらく娘をアニマ・アニマにする代わりに、不知火陽炎連合での地位向上にミルヒシュトラーセ家に協力させるのだろう。そういう
「そんな……。はるひちゃん……。」
アイは何も言えずただはるひを見つめる。かげろうがアイを見つめていることには気づかずに。
「……そう……ですか……。分かりました。シュベスター様、しらぬい様、ご指導ご
部屋を出ていこうとするはるひを止めるものはいなかった。
「……よし。今日は一旦解散しよう。……アイ……おいで。」
◇◆◇
「おねえさま……これは正しいことなんでしょうか?はるひちゃんの力を奪ってアイのものにするなんて……。」
「アイ、言いたいことがあるのは分かる……でも、これによって春日家の悲願が叶うんだろうし――」
「でも、それは、はるひちゃんの悲願じゃ……ない。」
「――それにこれはお母様の
「決して……間違えない。常に、正しい。そうですよね……そうです。」
「それに
「もっと、もっとあいを愛して下さる?」
「そうだ。私は本当にうれしいんだ。それを見るのが。だって
◇◆◇
姉と弟の話し合いの一方でもう一つの姉弟が話している。
「かげろーくんはさ〜どうするの?このまま黙って見てる?アイちゃんがはるひちゃんにとられるのをさ。」
「おれは……おれは……。」
「それにどうにもきな臭いと言うか。かげろうくんかわたしが、アイちゃんと結婚したらさ、不知火家も陽炎家もうれしいでしょ?なのに大して力も
もちろん
かげろうくんはそれを許せるの?アイちゃんが誰かのものになるなんてさ〜。」
「……お姉様はなにが目的でオレにそんなことを?」
「姉弟だからさぁ……
「……っ!」
「おねーちゃんもねぇ、好きなの。アイちゃん。初めて会ったときから、いつか、かげろうくんをアイちゃんに初めて会わせた日に、かげろうくんの気持ちをズバリ言い当てたことあったでしょ?“雷に打たれてー”ってやつ。なんでわかったか不思議がってたでしょ。
「お姉様も――」
「そう。でもいいかなとも思ってたの。アイちゃんが欲しくて欲しくて欲しくて私の
でも私はお姉ちゃんだから。かげろうくんだったらいいかなって思ってたの。弟の好きな人を横取りするわけにはいかないでしょ?、おねえちゃんだから。わたしはおねえちゃんなんだから。
でも相手がはるひちゃんとなると話は違う。我慢ができない。だからこのままかげろうくんが何もしないのなら――」
――アイちゃんのことお姉ちゃんが貰っちゃうよ?
◇◆◇
◇◆◇
「
――お母様が、あいに
「あ、あ、ありがとうございます!失礼します。」
「ミルクティーでいいか?シュベスターからアイは苦いものが大の苦手で、甘いものが大好きだと聞いたんだ。」
「そんな、お茶を頂けるだけでも
「いい、いい座ってろ、
――お母様があいに笑いかけて……!家族だと……!
「あ、りがとぅございます。」
――泣くな!また気分を害してしまう。
「ほれ、甘いミルクティーだ。」
それはいつもエゴペーおねえさまが入れてくれるようなアイの舌に合わせたものではなく、聞きかじりの情報をもとに作ったものだったので、アイには苦かった。しかし、アイにはそれが
「それにほらマドレーヌだ。エゴペーが作ったんだったか、シュベスターが作ったんだったか忘れたが、お前が好きだと聞いてな。」
アイは心を
「ありがとうございます……!……い、いただきます。」
ゆっくりと口に運ぶ。今までどんな小さな所作にも文句をつけられて
ついマドレーヌを床に落としてしまう。ぱさっと音をたててしずかに静止したそれを見て、アイは固まってしまう。
――なぐられる……!
…………、……?
来る衝撃に備えていたアイだったが、いつまで経ってもそれが訪れることはない。恐る恐る目を開けると、皿の上にあった別のマドレーヌを掴んだお母様の
――?
「お、あか……エレクトラ様……これは?」
「食え、ほら口開けろ。」
「は、はい。」
味なんてものは分からなかった、匂いがかろうじて感じられるだけだ。ただアイはおかあさまに手ずから食べ物を食べさせて頂くという幸福に打ち震えていた。それは、小さい頃よく他の兄弟がしてもらっていたことであり、何も知らないアイが
「エレクトラ様……なんて呼び方じゃなく、お母様と呼べ。お前は“
ニカッと笑うお母様の笑顔に照らされて、夜の底が白くなった。愛情とは空から降り注ぐものではなく、大地から染み込んでくるものなのだと、悟った。自分と他人との差異を暴き去る、太陽に怯えてきた生きてきたアイでさえ、その
ずっとずっと
「本題だが、シュベスターから聞いているな?……オレと
これによりさらにお前の力……とくに
アイは、間髪をいれずにはいと言わないと母を
「お母様は……
はるひをそのような立場に追いやる片棒をかつぐ前にどうしても聞いておきたかった。
「
◇◆◇
「……?……えっ?……それは、どういう……?」
アイには訳が分からなかった。
「
エレクトラは自分の最大の
「元々
すべては
それこそが
そして一番大きな
どうやって
◇◆◇
元々
――マドレーヌの味がしない。
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