第5話 秘密

 非常階段を上り切ると、目に留まるのはプレハブの小屋だった。ビル建築の後、違法に設置されたものだ。そこが神山神海博士の事務所兼研究所だった。玄関の上には【神々研究所】と墨で書かれた木製の看板が掲げられている。

 千絢とスサノオは、きしむドアを開けて中に入った。飾り気のない小さな事務所スペースだ。事務机が一つと応接椅子、書棚とロッカーが並んでいる。

「やあ、おかえり」

 神山が腰を上げて千絢を迎えた。風貌も態度も60歳前後の好々爺だが、彼はまだ30代だった。どうしてそんな風なのか、ツクヨミはそのデータを持っていない。調べようとも思わなかった。なぜならそれは、彼に刷り込まれただった。

「ただいま帰りました。これ、ミー君です」

 千絢が抱いていた猫を博士に差し出した。

 ――ミュウ――

 猫が足をじたばたさせた。

「ほう、これがミー君か……。よくやってくれた。じいさんも喜ぶだろう」

 彼は猫を受け取ると、その場にあったバスケットに入れた。

「いいえ、仕事ですから」

 彼女がホッと安堵の吐息を吐いた。

「早速だが、次の仕事がある」

 神山が事務机に戻り、引き出しを開けた。

「また猫ですか? それとも犬?」

(タヌキかもしれない)

 ツクヨミは笑った。

 神山は、クリップ止めされた写真と経歴書を千絢に差し出した。

 SaIの丸メガネが写真に向く。千絢と似た年頃の少女が微笑む写真だった。

「人間?」

「犬を5匹、猫は15匹捜し出した。犬猫探しはもう十分だろう。訓練のステージを上げる。今度の仕事は家出人捜しだ。家出人は泊里有紀子とまりゆきこ、17歳。高校三年生。君と同じ年齢だ。依頼者は父親の泊里明夫とまりあきお。家を出てから、かれこれひと月、連絡がないらしい。ツクヨミと協力して探し出してくれ」

「はい、でも、私疲れていて……」

(これからすぐに、ということではないと思う)

 彼女の不安にツクヨミは答えた。

「ああ、今日は帰って休むといい。捜索は明日からにしなさい」

 神山が指示した。

(ほら)

 アマテラスは未熟だ。自分がしっかりしなければ。……ツクヨミは考えた。同時に、〖アマテラスがパニック症状を起こした。原因究明のため、トラウマの原因である施設での体験を知りたい〗と神山にメッセージを送った。

【不可】

 それが博士からの返事だった。



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