Section8-2:取り込まれそうなイリス
森の
「こっちよ!」セドリックが小声で急かした。「この
イリスは息を切らしながらも足を進めた。ドレスの
(ヴァルト…無事でいて)
「お嬢様、大丈夫ですか?」ユナが心配そうに彼女の腕を支えた。
「ええ」イリスは小さく頷いたが、心は決して平静ではなかった。「でも、私たちだけ逃げるなんて…」
「ヴァルトさんなら大丈夫ですよ」ユナが微かに微笑んだ。「あの人、とっても強いですから」
イリスの胸に
「そろそろかな…」セドリックが立ち止まり、周囲を見回した。「ああ、あれだ」
「ここなら当分見つからないだろう」セドリックは額の汗を拭った。「少し休もう」
イリスは岩に
「……」
彼女は両手を見つめた。微かに、掌から紫色の光が漏れ始めていた。
(また…始まる)
「イリス?」セドリックが彼女に気づき、目を
「だ、大丈夫」イリスは慌てて両手を胸元で
しかし、嘘だった。彼女の体内で何かが
(ここで暴走したら、皆が危険に…)
「セドリック、ユナ」イリスは震える声で言った。「少し…一人にしてもらえる?」
「え?でも、お嬢様…」
「ユナ、お願い」イリスは必死で笑顔を
セドリックはイリスの様子を
「わかった。でも洞窟の外で待っている。何かあったらすぐに呼んでくれ」
「ありがとう」
二人が出て行くと、イリスはようやく
(制御して…落ち着いて…)
彼女は深呼吸を始め、母の日記に書かれていた
そこで見たのは、
「大丈夫…落ち着いて…」
イリスは自分に
「駄目…」
次の瞬間、
(何が…起きてる?)
彼女の意識が少しずつ遠のいていく。体が自分のものではなくなったような、異能に
「お嬢様!」
ユナの
「イリス!」セドリックも続いた。
だが、イリスは彼らの声にすら
「この光…」セドリックが顔を
「どうすれば…」ユナの声が
彼らの声がどんどん遠くなっていく。代わりに、イリスの頭の中に
(もう戻れない)
(すべてを
(力に身を委ねなさい)
まるで誰かが彼女に語りかけているような、でも自分自身の心の声のような不思議な
イリスは
(これが…母が言っていた…異能に
「ああっああああ!」
光に触れた岩や、洞窟の壁、通路が大きい音きい音を立て破壊されていく!
「あああああああ!!」
—イリス。
突然、別の声が彼女の意識を
—イリス。感情を
その声を、彼女は知っていた。
(ヴァルト…?)
—あなたの心は強い。力に
イリスは
(私は…イリス。人形ではない。もう、誰かの思い通りになる人形じゃない)
少しずつ、彼女の意識が
(私は力に
イリスは
「感情を恐れないで。喜びも、悲しみも、怒りも、全てを。そして何より、愛することを恐れないで」
(愛…)
その時、彼女の脳裏にヴァルトの顔が浮かんだ。彼の
(私は…あなたのために…)
イリスの中で、何かが
「お嬢様…!」
ユナの声が、今度ははっきりと聞こえた。イリスは
「私は…」イリスはようやく言葉を取り戻した。「大丈夫…よ」
彼女の体を
「イリス…」セドリックが
「制御…できたわ」イリスは小さく微笑んだ。「なんとか」
「すごい…」ユナは
「後で説明するわ」イリスは立ち上がろうとして、
「危ない!」セドリックが彼女を支えた。「無理しないで」
「ありがとう…」イリスは彼の腕を
その時、洞窟の入口から
「誰…?」
そこに現れたのは、
「お嬢様…」彼は息を
「ヴァルト!」
イリスは思わず駆け寄り、彼の腕に
「あなたが…」イリスは
ヴァルトは困惑したように彼女を見下ろした。「私の声…?」
「ええ」イリスは頷いた。「あなたが私に…感情を
ヴァルトは静かにうなずいた。「私は言葉にはしませんでしたが…確かに、そう思っていました」
「こんな離れた場所でも、私の心に届いたのね」
イリスがそう言うと、ヴァルトの頬が微かに赤く染まった。彼はすぐに
「それより、お嬢様…」ヴァルトの視線が彼女を
「ええ、でも今は大丈夫」イリスは小さく微笑んだ。「母が言っていた通りだったわ。感情を受け入れることが鍵だったの」
ヴァルトはほっとしたように息を吐いた。「良かった…」
「あの、すみません」ユナが心配そうに割り込んだ。「でも黒装束の人たちは?」
その質問に、ヴァルトの表情が引き締まった。「一時的に
「どうすればいい?」セドリックが尋ねた。
「すぐに移動します」ヴァルトはきっぱりと言った。「私の知人が
「その知人って…」
「獣人です」ヴァルトは少し
セドリックは少し考えるような素振りを見せたが、すぐに頷いた。「わかった。それが一番安全なようだな」
「では急ぎましょう」ヴァルトが洞窟の入口に向かいかけて、ふと立ち止まった。「お嬢様、大丈夫ですか?歩けますか?」
イリスは自分の体調を確かめるように一歩踏み出した。脚はまだ少し
「大丈夫…だと思うわ」
「無理はなさらないで」ヴァルトは彼女に近づき、
イリスは微笑み、その手を取った。「ありがとう」
四人は洞窟を出て、再び闇の森へと足を踏み入れた。今度はヴァルトが先導し、彼らは
星明かりが
「変ね」イリスがヴァルトに小声で言った。「森の音が…ない」
ヴァルトは
「どういう意味?」
「自然が
彼らは足早に進んだ。イリスは先ほどの異能の暴走で体力を消耗していたが、それでも
(私は選んだのだから)
「もうすぐです」ヴァルトが
突然、前方の藪が動いた。ヴァルトは
「誰だ!」
藪から現れたのは、
「シルヴィア?!」イリスは驚きの声を上げた。
「お嬢様!」シルヴィアは安堵の表情を浮かべた。「よかった、無事だったのですね」
「でも、どうして…」
「侯爵様の計画を知り、すぐに後を追いました」シルヴィアは急いで説明した。「私がいなければ、危険だと思って」
「よく私たちを見つけられたわね」
「お母様の
イリスは首に手をやり、
「ヴァルトさんに渡したのですか?」
「ええ、でも…」イリスは不安げにヴァルトを見た。「追跡
ヴァルトは
「おそらく」シルヴィアは
「どこにある?」セドリックが尋ねた。
「
「信用していいの?」ユナがイリスに小声で尋ねた。
イリスはシルヴィアをじっと見つめた。彼女は母の代わりに自分を育て、ずっと支えてくれた人。でも、この状況では…
「シルヴィア」イリスはまっすぐ彼女の目を見た。「あなたは本当に私を助けるために来たの?それとも…」
「お嬢様」シルヴィアの目に
その言葉に
「わかったわ。あなたを信じる」
ヴァルトは少し
彼らは再び歩き始めた。森の
シルヴィアは彼らを水辺に沿って
(もう少し…)
彼女は自分を
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