最古の吸血姫





 「して、人の子よ。其方は何故なにゆえ、この様な場所へ来たのだ?」

 「え、えっと……。信じて貰えないかも知れないんですけど、気付いたら、ここに居ました…。」



  高身長の紫の目をした綺麗な女性に、突然そんな事を言われた私は、取り敢えず事実を伝えた。



 「気付いたら、か。二つ、聞きたい事がある。ここがどう言う場所なのか、其方は理解しているのか?」

 「え? い、いえ……、スライムを追い掛けていたら森の中で迷っちゃって、歩いたらこの洞窟がありました…。」

 「ふむ…、そうか…。」



  私の言葉を聞いた女性は、考える様な仕草をしながら何か小さく呟いていた。すると、すぐに考える様な仕草を辞めて、私の方を見た。



 「では、二つ目だ。」

 「は、はいっ…。」



  女性は短くそう言っただけなのに、何故か少しだけ怖いと思ってしまった。怖いと感じてしまった自分に困惑していると、突然物凄い風が吹き、首元に何かが突き立てられていた。



 「人の子よ。其方は何者だ?」



  気付けば、横になっていた筈の女性が私の眼前におり、冷たい目で私を見ていた。



 「ッ…!」



  私は驚いて、思わず後ろに倒れてしまった。女性の方を見上げると、右手には赤く染まったナイフの様な物が握られていた。



 「え、へ…、 え……?」



  突然の出来事に、私は状況が理解出来なかった。驚いて言葉を発せずにいると、女性が口を開いた。



 「どうした? 早く答えないと、その首が体と離れ離れになってしまうぞ?」



  そう言った女性の目は、本気の様だった。私は、女性が言った光景を脳で想像してしまい、恐怖した。



 「え、えとっ…、そのっ……。」



  返答を考えている内に、私は段々と涙目になっていった。心臓の鼓動は自分でも驚く程に早く、息も上手く出来なかった。出来るだけ空気を吸おうと、過呼吸気味になっていると、女性が私の目線に合うように屈んだ。




 「………あー、えと…。そこまで泣くとは思って無かった……、すまぬ…。」

 「……へ…?」





 ■






 「すまんのぅ…。数千年生きて、久しぶりに味わった感覚だった故、気が立っておった…。」

 「い、いえ……。だ、大丈夫です…、はい……。」

 「まさか、白焔があんな事になるとは思って無かったのだ……、信じてくれ……。」

 「あ、えと…、はい…。し、信じますよ……?」

 「はぅ…、こんなに白焔は優しいと言うのに、妾と来たら……。」



  気分を落としている女性とは反対に、私は恥ずかしい気分になっていた。それは何故かと言うと……、



 「あ、あの…。」

 「? どうしたのだ、白焔。」

 「そろそろ、お姫様抱っこ、辞めてくれませんか…?」



  そう。何故か、私は女性にお姫様抱っこをされていた…。



 「いいや、まだ腰が抜けておるだろう? ならば、そのまま妾に身を委ねてくれ。」

 「そ、そうですか…。」



  断固拒否、と言った様子で女性は降ろしてはくれなかった。最初は抜け出そうとしたが、どれだけ暴れても女性の腕の中からは脱出が出来なかった為、私は受け入れる事にした。



 「あの…、貴方のお名前って聞いても良いですか…? なんて呼んだら良いのか、分からなくて……。」

 「あぁ、白焔の名前は聞いておいて、妾は名乗るのを忘れておったのぅ。すまぬな。」

 「い、いえ、大丈夫ですよ…?」



  今度は優しい目で、私の事を見てくれた女性は、こほん。と息を着いて名乗りを上げた。



 「妾の名前は "フランマ・イネス" 。最古にして、全ての吸血姫を統べていた元王じゃ。気軽に、イネスと読んでおくれ。宜しくな、白焔。」

 「よ、宜しくお願いします……。」



  さ、最古の吸血鬼…、王……。思ったより、とんでもない人? だった…。



 「ははっ、白焔は可愛いのぅ。血を吸う以外には特に何もせんから、怖がらないで大丈夫じゃぞ。」

 「ふぇっ?! 血吸っちゃってるじゃないですか!?」

 「白焔が可愛いのが悪いからのぅ。仕方が無いのじゃ。」

 「仕方が無くないですよ!?」



  突然の血を吸う宣言に、私はビックリして声を荒らげてしまった。一応、少し腕の中で暴れてはみたが、ピクリとも動かなかった。



 「これこれ、暴れるで無い。治りかけの体に、鞭を打ってどうするのじゃ。」



  まるで子供をあやすかの様に、イネスさんは私を優しく包んでくれた。



 「あ、あの、イネスさん。私、今年で14歳なんです……。流石にこれは恥ずかしいと言うか、なんと言うか…。」

 「はははっ、14歳なんぞ、妾からして見れば赤子同然。今の白焔は、暴れても妾の腕からは出られないぞ?」

 「うっ…、確かに、そうかもしれませんけど……。」



  数千年を生きるイネスさんと、14歳の子供の私とじゃあ、かなりの差がある。イネスさんからして見れば、私は本当に赤ちゃんと同じなのだろう。



 「して、白焔よ。お主は、ただの人の子にしては異様な気配を持っておったが、あれはどうしてだ?」

 「あー…、多分ですけど、私が "死神" だからだと思います…。」



  気配…、が何かは分からないけど、多分そういう事なのだろう。



 「イネスさんが感じたって言ってた感覚も、死神の大鎌デスサイズって言う、さっきまで私が持ってた鎌のせいだと思います。」



  私はそう言いながら、両手を伸ばして死神の大鎌デスサイズを出した。



 「おぉー、それじゃ。その大鎌から感じる感覚、正しく "死" その物を感じるのぅ。」

 「あー、やっぱりですか…? 実は、私が追ってたスライムも、この鎌を見た途端に逃げた見たいで……。」

 「そりゃそうじゃのう…。目の前に自分の死を感じさせる物があれば、逃げるのは納得じゃ。」



『妾が幼い時であれば、一目散に逃げておったぞ。』と、笑いながらイネスさんは言った。そんなにヤバい物だったんだ、この鎌……。



 「白焔は、この後どうする予定なんじゃ?」

 「うーん…、まずは、この近くにある街に戻りたいって思ってます。まぁ、迷ってるので、道は分かりませんけど……。」

 「街? ……あぁ、もしかしてアリスフィリアの事か?」

 「え? あー……、確か、そうだったと思います…?」



  アリスフィリア…、あそこって、そんな名前だったんだ…。 (※白焔が見ていないだけです。)



 「アリスフィリア…。あそこも、随分と大きくなったんじゃのぅ。」

 「イネスさん、知ってるんですか?」

 「知ってるも何も、妾をここに封印したのが、当時のアリスフィリアに居た勇者達だからのぅ。」

 「えっ。」



  初めて聞いた情報に、私は思わず目を開いてしまった。



 「確か…、あれは500年前だったかのう? "異世界" と言う所から召喚されたアリスフィリアの勇者達が、妾をこの場所に封印したのじゃよ。いやー、油断はしておらんかったし、全力を出して負けたからの。もはや清々しいまである。」

 「え、えぇ…。」



  もしかして、イネスさんが言ってた『この場所がどう言う場所なのか。』って質問は、こう言う事があったからなのかな…?



 「…あ。そう言えば、イネスさんが最初に言ってた化け物? ふんぬんかんぬんの話は、何だったんですか?」

 「ん? あぁ。たまに、白焔が入ったと言う洞窟の中に、魔物や人間が入ってくる事があるのじゃよ。ある程度の強さの人間には反応はせんが、危険な人物が入ってきた場合には、妾の血を固めた物が赤く光るんじゃよ。」

 「……え。 あの赤く光る石って、イネスさんの血が入ってたんですか!?」

 「吸血姫じゃからの。それ位は誰にでも出来るぞ。」



  嘘ぉ!? 綺麗だなぁって思ってたのに!?



 「あの、もしかして、赤く光ってたのって……。」

 「お察しの通り、妾に危険を知らせる物でもあり、獲物を誘き寄せる為の罠じゃの。」

 「わ、私…、まんまとハマっちゃってたんだ……、あはは…。」

 「……とは言え、赤く光ったからいつもの様に転移魔法陣を使ったら、ただの人の子とは思わんかったぞ…。」



  あれには、流石の妾も不覚ながら少し驚いてしまった。と、イネスさんは付け足した。



 「私も、ビックリし過ぎて足が固まっちゃってましたよ……。そしたら、急にナイフ突き立てられて…。うん、本当に怖かったぁ…。」

 「あーあー…!本当にすまんの、白焔…!」



  思い出すだけで、ホントに涙が出かける位には、怖い思いをした。イネスさんがこうしてくれてるから良かったけど、あのまま首をスパッと斬られていたら、すぐにLBOを閉じてお父さんか日野森さんに抱きついていたと思う。



 「もう二度と、イネスさんのあの目は見たくないです…。今のイネスさんの方が、可愛くて好きですから…。」

 「はぇっ!?///」



  小さく呟いた私の言葉は、しっかりとイネスさんに聞こえていたらしく、顔を赤くしながら私を持ち上げた。



 「もう、それって告白じゃよな!? 妾も白焔の事が好きだから、結婚するか!?」

 「ふぇっ!?」

 「なんだったら、このまま妾がいつも使ってるベッドに行くか!?」

 「なんでベッド!?」



  ベッド……、ベッドって、今の話に関係あるんですか!?



 「くっ…!純粋無垢、可愛い! やっぱり、血を吸っても良いか白焔!大丈夫じゃ!痛い思いはせん、ちょっとチクッとするだけじゃ!」

 「痛みは感じるんですね!? いや、そうじゃなくても嫌ですよ!?」




  その後も、私はイネスさんの腕の中で、声を荒げるのだった。










 ──────





 あとがき




 まさか、初登場回でこうになってしまうとは思わなんだ…。いつも見てくれる読者様には、本当に感謝しています。



 応援、作品のフォロー等を沢山して貰えて、150フォロー&1000pvを突破しました!実感が湧かないんですけど、これからも気ままに、不定期でも投稿出来たらなと思っております〜。



 ここまで読んでくれて、ありがとうございました!次回のお話も、なるべく早く投稿出来るようにしたいですね…!


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