第14話 スピンオフ ~佐々木翔太編~
第14話 不動産男子の横顔 ~佐々木翔太編~
「ま、なんとかなるっしょ。」
それが、佐々木翔太の口ぐせだった。
社内でも“ちゃらい”“軽い”“適当そう”と噂されることが多かったが、誰よりも数字に強く、トラブル対応に早い。
実は新人からの信頼も厚い、そんな営業マンだった。
だが、彼の「軽さ」には理由があった。
佐々木は、もともと大手の金融機関で働いていた。
真面目に、誠実に、誤魔化さずに。
だが、心をすり減らすうちに、ある日突然倒れた。過労による救急搬送。
復帰の話は出たが、自分で決めた。
「もう、あんな風に働きたくない。」
それから半年、無職。
そして面接を受けたのが、偶然だった今の不動産会社だった。
営業としては、最初から優秀だった。金融機関で培ってきた数字の計算も、提案の根拠も抜群。
だが、お客様の心を動かせなかった。
「なんか、信用できないんだよね。理屈ばっかりで。」
その言葉に、心がざわついた。
“正しいことを言えば売れる”と思っていた。
だが、人は正論より、「気配」に動かされる。
それから佐々木は、スタイルを変えた。
冗談を混ぜ、圧を抜き、言葉よりも空気で相手に寄り添う。
時に軽薄に見える自分を、意図的に作った。
「田島美咲か……頑張ってるよな、あいつ。」
いつもは茶化すくせに、ひとりになるとそうつぶやいていた。
新人の失敗に本気で腹を立てることも、無理に明るくフォローすることも、
全部、**“自分が助けてもらえなかった過去”**へのリベンジだった。
「俺が“ちゃんとした大人”だったら、誰かを支えられるかもしれない。」
そう思って、今日もまた、軽口を叩く。
エピローグ
地域再生チームに異動となった日。
「マジかよ、こんな泥臭い部署……」
そう言いつつ、資料は既に読み込んであった。
「田島、お前が転んでも俺がフォローする。……ま、転ぶ前に気づけよ。」
そう言ってコーヒーを渡した瞬間、田島が驚いた顔をした。
「佐々木さん、優しいですね。」
「違う。俺は、“背中押すフリしてるだけ”だから。」
誰にも気づかれずに支える。
それが、佐々木翔太という男の“やり方”だった。
― 完 ―
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