第5話 ぶっちぎりで最弱

 動けるようになったのは、宿に泊まって3日目の昼頃だった。


 まだ体のあちこちに痛みが残るが、そろそろ仕事を探さないと宿代が心配だ。


 そんなわけで冒険者ギルドへ向かった。荷物は最低限にしたので、前のように休み休み行く必要はない。それでも疲れたことは間違いないけど。


 冒険者ギルドに入って、まずは一息つく。


 ギルド併設の食堂は、昼時なのもあってかガヤガヤと賑わっており、多くの冒険者の姿を見ることができる。軽装の複数人パーティ、あるいは重装のソロ、ガラの悪そうな輩もいれば、ひとりただならぬ雰囲気をまとっている者など、実に様々だ。


 おれが新顔なためか、何人かの視線が突き刺さる。『お前みたいなガキの来るところじゃねえ』と言いたげな視線もあるし、なんとなく見てただけとすぐ目を逸らす者もいた。その中で、ひときわ鋭く睨みつけてくる者がいた。


 他とは距離を置いている、黒衣の女性だ。肩にも腕にも胸にも太ももにも、体中のあちこちにナイフを装備している。その黒装束と相まって、暗殺者を彷彿とさせる。


 なんでこんな物騒な人に睨まれてるのか、心当たりはまったくないが……。関わったら、なにか危険に巻き込まれそうだ。それはそれで面白そうなのだが、今は先にやるべきことがある。


「冒険者登録をお願いします」


「はーい、新規の方ですねー」


 カウンターで受付嬢に手続きをしてもらう。規約などの書類を確認し、サインを記入。それらを提出したら、受付嬢は無地のカードを用意した。


「では最後に能力値判定しますね。こちらの魔導器に両手を押し当ててください」


 カウンター横に置かれた、姿見鏡のような形の魔導器に全身を映し、両手を押し当てる。


 受付嬢が無地のカードを魔導器にセットし、数秒後に取り出す。


「はい、おしまいです。こちらがライセンスカードになります。あなたの現在の能力が記載されておりますので、これを参考に依頼を――えっ!?」


 ライセンスカードをちらりと見た受付嬢は、目を見開いて二度見していた。


 なんだろ? なにか不備でもあったかな?


「え、うそ……うわぁ……Gなんて初めて見た。実在するんだぁ……」


「G?」


 おれはライセンスカードを受け取って、確認してみる。


 エリオット・フリーマン 属性:不明

 体力 :G 筋力 :G 魔力:G

 敏捷性:G 器用さ:G 知力:S


「おお……最低値が5つ」


 能力値はSを最高として、最低のGまで8段階で示される。つまり、おれは知力を除くすべての能力が最低の、ぶっちぎりで最弱の存在なのだ。


 受付嬢の声が聞こえていたのか、あるいは新顔の実力がどれほどのものか興味を持っていたのか、幾人もの冒険者たちが寄ってきて、ライセンスカードを覗いてくる。


「マジだ、すげえ!」


「GなんてSよりレアじゃね?」


「ここまで冒険者に向いてないやつ初めてだ!」


「こりゃあ二つ名は決まったな! 5Gのエリオット!」


「ギャハハ、そりゃいい! 良かったなぁ、登録初日で二つ名がつくなんてよ!」


「ってか、属性:不明ってなんだよ」


「能力が低すぎて、判別できなかったんじゃね~の~?」


 あらゆる人間は、生まれ持って属性を持っている。火とか風とか、珍しいものなら闇や光。属性にあった装備をすれば能力が増強されるし、逆に反対属性の装備では減衰する。それぞれの属性に合った装備や戦い方があり、これを元に自身のスタイルを構築するのが一般的だ。属性が不明では、それすらできない。


 属性を判別するのにも、一定以上の強さが必要だと聞いたことがある。その基準はかなり低いので、判別不明なことは滅多にないらしいのだが、おれは基準未満らしい。


 そんなことは承知の上だ。むしろ向上の余地があって面白い!


「ふふっ、5Gのエリオットか……。悪くないな」


 にやりと笑って呟くと、受付嬢は「えっ」と同情するような微妙な顔を向けてきた。


「えっと、もしかしたら分かってないのかもですけど……それ悪口ですからね。Gって能力的には本当に最低で……。悪いことは言わないから、君、他の仕事探したほうがいいです。知力だけは凄いんですし」


「ああ、オレもそう思う」


 やってきたのは、男女ふたり連れのパーティだ。見覚えがある。


「この前はありがとな。アドバイスのお陰で、ロックワーム倒せたよ」


 やっぱり、通りすがりに助言してあげた冒険者たちか。


「君、知力はめちゃくちゃ高いし、魔物にも詳しいみたいだし、学者とかのほうが向いてるんじゃないか? なんなら、この前オレたちにしてくれたみたいに、魔物の倒し方を有料で教えるだけでも商売になりそうだけど」


「そうだよ、そうしなよ! それならあたしたちも助かるし」


 とか言われても、頷けるわけがない。


「いや、おれは冒険者がやりたいんだ。助言ならいくらでもタダでしてあげるけれど、これは譲れない」


「だけど君、そんな能力じゃスライムにも勝てないぞ」


「いいや、次は……勝つッ!」


「って、すでに負けてるじゃん!」


 そのときだ。がたり、と食堂のほうでわざとらしく椅子を蹴って立ち上がる男がいた。


 みんなが一斉に注目し、そのほとんどが萎縮したように一歩後ずさる。


「はぁぁ~あ、マジうっせぇえ~」


 その男は苛つきを隠そうともせず、こちらへ一直線に向かってくる。


 他の冒険者はみんな黙って道を開けるのみ。おれの声をかけてくれたパーティも、怯えて硬直してしまう。


 やがて、そいつはおれを見下してきた。


「チッ、親切で言ってもらってんのがわかんねーのかよ、クソザコが。てめえみてえなザコにうろちょろされると迷惑だってんだよ。邪魔だからとっとと出ていけよ」


 みんなは明らかにこの男を恐れているようだが、なぜだろう?


「受付嬢さん、この人誰?」


「えと、こ、この街で一番の冒険者の、レイフさんです」


「ふーん」


 おれはレイフとやらをマジマジと見上げてみる。


「なんだてめえその目は。舐めてやがんのか、アァン!?」


 筋肉の付き方、足運びと重心、見た目から窺える装備の質。それにこの街一番という情報を加えれば……。


「……Bランクってところかな?」


「へえ、知力だけは高いってのは本当らしいな。そうさ、オレはこの街で最強のBランク冒険者さ! 登録したてのてめえとは、天と地、神とアリンコぐれえに差があんだよ!」


「それがどうしたっていうんだ?」


 おれの発言に、周囲の冒険者が一斉におののいた。


「アァン!? てめえ、やっぱり舐めてやがんな!?」




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次回、強さを誇示して脅してくるレイフに、エリオットは一切動じず、こう指摘するのです。

『第6話 強さと偉さは関係ない』

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