第6話「おやじのあとをついていこう!」
雨がぽつぽつ、窓にあたってる。
いつもより少しだけ冷たい夜。
おやじがコートを羽織って、無言で立ち上がった。
(あ……これは、仕事のやつだ。)
ぼくはすぐに分かった。
いつもなら、終わるまで待つけど――今日は、なんだかおやじについて行きたくなった。
おやじは玄関で靴を履き、鍵がカチャッと閉まる音が響いた。
(よし……始めるか!)
ぼくはすぐに、台所の小窓へ向かう。
この窓はちょっとだけ鍵が甘い。野良時代、何度も通った、ぼくの“抜け道”だ。
――カチャ。
ふわっと、雨のにおいが強くなる。
(尾行モード、開始だ!)
ーー
おやじは傘もささず、裏路地を歩いていく。
左手ポケットに片手を突っ込んで、タバコをくわえたまま。
街灯に照らされたその姿は、やっぱり少しかっこよく見える。
ぼくは塀の上から、音を立てないように並走する。
ときどき、物陰にしゃがんで、息をひそめる。
(気づかれたら、カリカリ没収かも!)
命がけだ。
裏通りの角を曲がると、おやじが一瞬立ち止まった。
何かを確認するように、あたりを見回す。
ぼくは電柱の影にぺたりと身をひそめる。
(どきどき……)
風がふっと吹いて、ゴミ袋がカサッと揺れる。
おやじが振り向いた――でも、ぼくの方は見ない。
(セーフ!)
ーー
現場は、古びたビル。
おやじが階段をゆっくり登っていく。
ぼくも、そのあとを気配を消して追う――
――と思ったのに!
ぬるっと足を踏み外して、缶に引っかかって「カランッ!」
(やばい!?)
あわててダンボールの陰に飛び込んだ。おやじが一瞬、こちらを見た――けど、すぐに前を向いた。
(ふぅ……セーフ。まだバレてない!)
おやじが部屋の前で立ち止まる。
空気がピンと張りつめ、何かが始まる気配がした。
ぼくはただ見ているだけで、ドキドキしてきた。
(おやじ……かっこいいなぁ)
ドアがバンッ!
人間が飛び出してきて、おやじが銃を構え――!
(おやじが…あぶない!!)
ぼくは、思わず飛び出した――そして、滑った!
つるっ! ころっ!
ドカーン!!
(あれ? 人が転んだ? ぶつかったの……ぼく?)
……敵、倒れた?
(あれ……ぼく、すごい……?)
ーー
帰り道。
ずぶぬれのぼくを脇に抱え、おやじは無言で歩いている。
でも、ツナ缶を買ってくれた。
……さすが、ツンデレの極み。
「……なんで、出てけって言っても出てかないくせに、何も言ってないのに外に出てるんだ…お前。」
(ふふ、感謝してるくせに素直じゃないぞ、おやじ。ぼくの野良スキル! そして、家族スキル、やったでしょ?)
おやじは、ため息をひとつついて――
そのあと、小さく笑ったのをぼくは見逃さなかった。
心の中でガッツポーズ!
今日の任務、ばっちりだったね!
~つづく~
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