第5話「おやじの風呂タイム」

――風呂。


最近、風呂に入っていると、妙に落ち着かない。理由は簡単だ、あいつのせいだ。


最初は正直、俺も「猫なんだから風呂なんて入ってくるわけないだろ」って思ってた。


だが、あいつはいつからか平然と風呂場へやってきやがった。


最初はただの好奇心からだろうと思ってたけど、今ではすっかりお決まりの時間みたいになってる。


そして、脱衣場を毎回ビショビショにしやがる。


あいつの目が、ふろ場に入るときにキラッと光るのを見逃すわけにはいかない。


じゃないと後の処理が大変になる。


そのタイミングで、「あ、また来たな」ってすぐわかるようになったのが、なんとも悔しい。


最近はタオルをあいつのために毎回敷いてやるようになった。


まあ、最初はイライラしてたけど、今じゃそれも面倒なことではなくなってきているから不思議だ。


そして、そのタオルもぐちゃぐちゃにしやがる。


何で、わざわざあんなにぐちゃぐちゃにするんだろうな?


これがまた、いい加減にしろって思うんだが、なんだかんだいつの間にか習慣になっちまってる。


これが続いていくと、リラックスするどころか、俺の風呂タイムがどんどん雑になる。


しかも、最近は「ふぅ……」って溜息も長くなった気がする。


自分でもわかってる、確実にリラックスが足りてない。


だが、あいつの顔を見ていると、なんだか「仕方ねえな」と思っちまう自分がいる。


「世話が焼ける……」


風呂場で一人、そんなことを口に出す。あいつが来てから、どうも俺の時間が減るようになった。


「まったく、面倒くさい……」


こうやって、俺のプライベートタイムは少しずつ侵食されていく。しかし、考えてみると、あいつが来ることで、めんどくさいし疲れるが楽しくなったのも感じている。


最初は「なんで風呂に来るんだ?」って思ったけど、今は風呂で一緒に過ごす時間が、妙に心地よくなっている自分に気づく。


あいつがいることで、風呂がただのリラックスタイムじゃなくなったってのは、変な話だが……


「お前の分まで準備しておいてやったからな、ありがたく思えよ」


タオルを取り替えるのも、あいつの世話を焼くのも、正直めんどくさい。だが、なんだろう、あいつが満足げにゴロンと転がってる顔を見てると、どうでもよくなるんだよな。


ほんと、あいつがいると、ちょっとだけ俺の時間も変わるんだ。


「あぁ、ほんと世話が焼ける猫だ」と呟きながら、俺はマル猫の顔を見て少し笑ってる自分に気がついた。




〜つづく〜

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