ギターで青春したかった!
檜山純一郎
第1話 ギター始めるよ、おじさん!
それは何気ない食卓の出来事だった。
いつもの通り、弟2人と母親とテレビを見ながら夕飯を見ていると、突然母親が曲を流し始めた。詳細を聞くと、それはおじが作曲したものだった。
終盤のギターソロがあまりにかっこよく、私は音源をもらって目覚ましにしてしまうほどに惚れ込んだ。
そんな私を見て母は、「高校でギターって趣味が出来るのもいいよね」と、おじの住んでいる母の実家に連絡してくれた。
翌日、中学卒業後の休みで暇だったので母の実家を訪れ、おばあちゃんにパンを焼くのを頼んだあと、2階のおじの部屋へと駆け込んだ。
そこで開口一番に切り出したのは、「ギター弾いてよ」という急な言葉だった。それでもまあ、おじはギターを弾いてくれた。おじは「30年ギターやってこれは下手な方だよ」と謙遜していたが、素人目の私にとってはどんなミュージシャンよりもすごかった。テンションが上がった私は急に母親の言葉を思い出し、「ギター始めるよ、おじさん!」と笑顔で言った。
その言葉を言った瞬間おじは驚いた表情を見せたが、すぐにギターの詳しい話をしてくれた。あまりに白熱して、おばあちゃんの焼いてくれたパンは冷えきっていた。
パンを食べたあと、そのまま母に電話をかけ、「ギター買って!」と適当な初心者セットのリンクを送った。ハイテンションな私に圧倒されたのか、母は笑いながら了承してくれた。
ギターが届いたのは高校入学3日前だった。
エレキギター、通称エレキ。私にとってそれはものすごく魅力的で、胸を踊らせた。あとから知ったが、色は「サンバースト」と言うようだ。
私は付属品の説明を一通り読んだ後、がむしゃらに弦を押さえたり、はじいたりしてギターというものに触れてみた。ネットで調べて初めて「ド」を弾いた時に、これは私のやるべきことだと直感した。なお、おじさんに写真を送ると、爪を切れ、指の先で押さえろと散々だったので、少ししょんぼりした。
反骨心を持った私は言われたことを修正し、ドレミファソラシドのローマ字表記も覚えるくらいに成長し、高校入学を迎えた。
私は自己紹介で、「ギターを先月始めました」と少し照れながら言った。その時クラスメイトの殆どは何故か驚いていた。
数日後の部活動紹介で私は絶望した。軽音部はまだかまだかと待っているうちに、「以上で部活動紹介を終わります」と無情に告げられた。あの時のクラスメイトの表情を理解した。
ああ、なんて大きな失敗だと、過去の自分を恨んだのだった。
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