3-27.宇宙空間の死闘
ドクター・マルコーの自害により、パスファイン艦内での騒乱の一因は取り除かれた。システムへの介入も止まり、警備システムや看護ロイドも正常に戻り始めている。しかし、マルコーは死の前に、艦を離脱した悠斗に対して、いや、その中にいるであろうヴァルヴァディオに対して、最後の手土産を残していた――
ビッ、ビッ、ビッ!
宇宙へと飛び出したバレスタのコックピット内に警報が響く。
「何この音?」
「まさか――敵?」
玲於奈が緊張した声を上げ、メインスクリーンに目をやる。
「あ……、パスファイン搭載の攻撃ドローン……。マズい、レザー照射されている!」
「ドローン?」
シートの影から顔出し、悠斗がスクリーンを見ると、船から銀色の小さな飛行物体が、いくつもこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「なに? あれがドローン?」
「そうよ。それも、こちらを敵とみているみたいね。マズいわ……」
「え、ええ、どうするの?」
「敵味方識別信号を出しているけど――反応ないわ。どうやら、あいつらのシステムも、ドクターに乗っ取られているみたい」
「それじゃあ――」
「やるしかない!」
玲於奈が、バレスタを戦闘モードに移行した。
直後――
ビィーッ!
一段と高い警告音が、鳴り響く。そして、機体が微かに揺れる。
「わっ、撃ってきた! 反撃するわよ!」
玲於奈が操縦桿を大きく動かし、足のペダルを思いっきり踏み込む。吸収しきれなかったGが、コックピットを横に揺らす。
「わわわ、大丈夫、玲於奈?」
「しっかり掴まっててよ、悠斗。――あと、下手にしゃべらないで。舌をかむわよっ!」
今度は縦に揺れる。
「うわぁっ!」
悠斗は必死になって、シートの背もたれにしがみついた。
コックピット内でひと悶着している間も、ドローン群の攻撃は続いていた。搭載されたAIが、互いに連携をとって、悠斗たちのバレスタに襲い掛かっていく。
小口径のレーザー砲が、暗黒の宇宙空間に光の筋を描き、バレスタの装甲を焼く。耐レーザー被膜に覆われているため、この程度の攻撃は、急所への直撃でない限りモノともしないが、数を受ければ、耐えきれなくなる。
玲於奈の操縦によって、上下左右に機体を揺らしながら、できる限りの攻撃を避け、そして、反撃。
ズンズンズンズン!
バレスタの手にしたレールガンから、バレットが連続で放たれる。小型ドローンは動きが速く、そうそう命中しないが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、方式で、全天にバラまいた弾丸のいくつかは、ドローンの外装をやすやすと破り、その機能を停止させた。
それでも、敵の数は多い。
ドローン群は包囲戦を仕掛け、確実にバレスタの装甲を削っていく。更には、そこが弱点だとばかりに、胸部のコックピットがある辺りを、集中攻撃し始めた。
玲於奈は、それを察し、できる限りの防御に努めつつ、攻撃をし続けていたが――ドローンの一機が、特攻を仕掛けてきた。コックピットのある胸部に衝突、自爆する。
「あ、きゃあぁっ!」
コックピット内で悲鳴が上がる。機体が激しく揺れ、玲於奈はシートに激しく頭を打ち付けた。悠斗も吹き飛ばされ、コックピットの壁にしたたかに背中を打った。
「うぅ…、痛たたた……。何が……?」
悠斗が立ち上がり、パイロットシートに近寄る。すると、そこにぐったりとする玲於奈の姿を見た。
「玲於奈! 大丈夫?」
悠斗が慌てて声をかけるが応答は無い。気絶しているようだ。
「どうしよう、大変だ……」
(悠斗! 今は戦闘中だ。玲於奈の代わりにお前が操縦しろ!)
「え、でも、無理だよ」
(ええい、なら変われ! 俺様がやる!)
「えっと、わかった。任せるよ」
直後、悠斗とヴァルの意識が入れ変わる。
悠斗――ヴァルは、気を失った玲於奈を抱き上げ、後方のスペースに横たえると、素早くパイロットシートに着いた。
「おっと、マズい。回避だ!」
動きが止まったバレスタに向かって、ここぞとばかりに敵の攻撃が向かってきていた。
ヴァルが超反応でそれらを捌く。
避け、いなし、殴り、蹴る!
バレスタをまるで自らの手足のように動かし、迫りくるドローンを退けていく。
「くはははは! お前らのような、おもちゃが、俺様の相手になるか!」
玲於奈の時とは明らかに違う動き。予測不能な三次元機動にドローンのAIは、ついてこれない。
一機、また一機と、数を減らされ、ドローンたちの劣勢は明らかとなっていく。
「ほらほらほら! 死ね! 鉄屑になれ!」
レールガンを乱射する。いや、乱射ではない。滅茶苦茶に撃っているように見えるが、敵の動きを先読みし、確実に撃破していく。
「ぬははははっ! 俺様は、宇宙最強だぁ!!」
ヴァルは、やはり、宇宙最強の兵器なのだ。悠斗は、戦闘になるとそのことを実感する。
このまま、ヴァルと一緒にいていいんのだろうか――
そんなことをふと考えながら、ただ静かに戦況を見続けていると、程なくして、敵のドローンは全滅した。
ヴァルの完全勝利だ。
「くくく、やはり俺様は強い!」
満足げにヴァルが勝利宣言した時、
『応答しろ! バレスタ13。操縦者は、レオナか?』
通信機から呼びかける声が流れた。それは、聞き覚えのある声、ラブラのものだった。
『ただちに帰還しろ。命令だ!』
「ちっ、面倒だ。このまま、逃げようぜ、悠斗」
(え、でも――)
その時、メインスクリーンに、また警告のメッセージ。接近するものがある。
「あれは――くそ、相手も同じものを持ち出したか」
スクリーンに映ったのは、五機のバレスタの姿だった。その中央、先頭を行くのは真っ赤な機体――ラブラの専用機だ。
「逃げられるか?」
ヴァルは、操縦桿を握りなおす。だが――
「くそ、ダメージが大きすぎる。燃料も、弾薬も……ダメだな。――悠斗、ここはおとなしく捕まるしかなさそうだ」
(それがいいよ。玲於奈のことも心配だし)
「ああ、そうだな。――じゃあ、元に戻るぞ。うまくやれよ、相棒」
(了解!)
そして二人は、再び入れ変わる。
『応答しろ、レオナ!』
その大声で、背後に横たわる玲於奈の意識が戻りだした。
「……う、ううぅん?」
「玲於奈、大丈夫?」
「え……、悠斗……? あれ、あたし――」
『おい、応答しろ! 反応がない場合は、攻撃する!』
「え、あ、あれ、課長? どうなってるの?」
「玲於奈、ともかく、通信に出て。敵はもういないから。ほら――あの課長さんが、赤い奴で迎えに来てるから」
「あ、ああ――わかった」
『攻撃する。いいな』
「あ、待ってください、課長! 玲於奈です。ちょっと、気を失っていて――」
この後、どうにか話はまとまり、悠斗たちはおとなしくパスファインに戻っていった……
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