3-14.襲い来る者の正体は?
(……)
悠斗の問いかけに、珍しくヴァルが押し黙る。
「ねぇ、ヴァル、あれも銀河シンジケート?」
(……いや、多分違う。あのスーツは、銀河で広く流通している汎用型スーツ。多少戦闘用にカスタムしているが……武装は、ショックガンに、ショックバトンか? 対人制圧用だが、殺傷能力は低い。各惑星の警察や連邦警察んがよく装備しているものだ)
「警察? どういうこと?」
(……今はまだ、なんとも言えん。ただ、こちらを麻痺、もしくは気絶させ、拘束するのが目的だろう)
「拘束……、どうすればいい、ヴァル?」
(……)
悠斗の問いかけに再びヴァルが黙る。この時、ヴァルの中では、目前の三人が誰なのか、おおよその見当がついていた。
天城玲於奈とその両親――川口から得た情報と、迫る三人の特徴を考えあわせれば、おのずと出てくる答えだった。
その予想が当たっているのなら、悠斗にまともに戦わせるわけにはいかない。敵がもし天城一家だと知ったら、悠斗がどんな思いをするか――
(逃げろ、悠斗。ここは、まともに戦うな!)
「えっ、でも――」
(いいか、このフィールドのどこかに、発生装置があるはずだ。それさえ破壊すれば、問題ない。俺様がその位置を探る。その間、お前はとにかく逃げろ!)
「え、ああ、わかった」
そう悠斗は頷いたが、その時すでに敵が動き出していた。逃げに入る間もなく、青のスーツが間合いを詰め、警棒のようなショックバトンを振り下ろしてきた。
「ぬああぁっ!」
身を捻り、紙一重でかわす。そこへ、赤と黄色の二人の手に握られたショックガンから、青白い
「うわわわぁわーっ!」
情けない叫びをあげながらも、悠斗は素早く避けていく。そして、ダッと地を蹴り、駆け出した。
ショックガンの
目覚め始めたヴァル由来の能力――それに、悠斗自身は知らないがヴァルによる深夜の特訓で身に付いた肉体の反射的行動によるものだ。
悠斗のよく知る街並み、でも、全く人の気配がない亜空間フィールドの路地を、駆け巡る。猫から逃げる野鼠のように、狭い裏通りを縦横無地に逃げ回った。
だが、敵もただ者ではない。悠斗の動きを先読みし、逃走経路を潰してくる。
「あっ、しまった!」
赤いスーツの女性が、行く手を塞ぐ。真正面、彼女の手に握られたショックガンの銃口が真っ直ぐこちらを睨んでいた。さすがに避けられない距離とタイミング。
やられる――!?
悠斗はそう思い、反射的に身を固くした。ところが――
「……」
赤い敵は何かを躊躇うように、引き金にかかる指を止めた。そのわずかな隙を突き、悠斗は地を強く蹴り、上方へと飛び上がる。そして、赤いスーツの女性の頭上を飛び越える。
「あっ――」
彼女小さな驚きの声が、悠斗の耳に届いた。
「あれ、今の声……」
どこかで聞いたことがある…?
そう思ったところへ、青い男が襲い掛かってくる。
シュン!
ショックバトンが着地した悠斗の頭部に振り下ろされた。
避けきれない――!
仕方なく左腕でバトンの軌道を変えるように受け流す。
「ぐがぁっ!」
受けた腕から全身に電気ショックが広がる。体が痺れ、その場にがっくりと膝をつく悠斗。
(しっかりしろ、悠斗! 根性を見せろ!!)
ヴァルの叫びに、悠斗は頭を左右に振り、遠のきそうな意識をつなぎとめた。
(装置の場所がわかったぞ。あの煙突の先端だ!)
「煙突…?」
ヴァルの示した場所に視線を向ける。そこは、この町に唯一残る銭湯の煙突だった。
(行け、悠斗!)
「わかった!」
ヴァルと悠斗、目標が定まったことで二人の力が融合する。
トドメとばかりに更なる攻撃を加えようとしていた青のスーツをショルダータックルで吹き飛ばす。更には近くで見張るようにショックガンを構えていた黄色のスーツの手首をはたき、銃を叩き落とした。
そして、宙へと高々と舞い上がる。
その悠斗に赤いスーツの女はショックガンの狙いを定めるが、結局、引き金を引けなかった。
「……悠斗」
女の口からその名が小さく漏れるが、その声は煙突を目指す悠斗の耳には届かない。
その悠斗は、この辺りで一番高い煙突の先端へと楽々と取り付き、辺りを見回した。
「あ、あった、これだね?」
(そうだ! そいつをぶち壊せ!)
手のひらに丁度収まるぐらいの銀色の半円球をした装置を、悠斗は取り上げた。僅かに表面が振動している。
(悠斗、早くしろ! 敵が来るぞ)
ヴァルに言われ地上を見ると、戦闘スーツの三人が、こちらに向かって宙を飛んでくる。どうやら飛行能力もあるようだ。
「あ、どうしよう。これ、どうやって壊せば――」
(力を貸す。思いっきり、握りつぶせ!)
「うん、わかった!」
装置を手にした右手に力を込める。
ぐっ――!?
メキメキメキ……
粘土の塊でも握りつぶすように、金属製の亜空間フィールド発生装置が粉砕されていく。そして、ただの鉄屑と化した時、世界に音が戻ってきた。
亜空間フィールドが解除され、商店街の雑踏の音が嘘のように戻ってくる。
「やったよ、ヴァル!」
(ああ――だが、悠斗、すぐに下に降りたほうがいいな。このままだと、また騒ぎになり、有名人になってしまうぞ)
「えっ……、ああ、そうか!」
いま誰かが上を向き、銭湯の煙突の上に立つ自分の姿を見たら――
悠斗は慌てて周囲を確認した。そこで、気づく。敵の姿がいつの間にかいなくなっていることに。
「あれ、あの三人は……?」
(フィール解除の寸前に撤退した。大丈夫、どうやらあちらも目立ちたくはないようだ。とりあえずは襲ってはこないだろう)
「そうか……」
そこで、悠斗はほっと一息ついたが、今の状況を思い出し、すぐに人目がないことを確かめて、スーッと地上に降り立った。
「はぁ~、疲れた……」
安堵感がドッと押し寄せ、悠斗はその場にへたり込んだ。緊張が一気に緩み、全身が重い。
「さっきのは、何なの、ヴァル?」
(ふむ……、少々心当たりはある。だが、はっきりと確認できるまで、その、待っていてくれ、悠斗……)
ヴァルのその言葉にいつになく歯切れの悪さを感じ、悠斗は首を捻った。が、そこは人のいい彼。ヴァルの言葉をそのまま素直に受け取り、
「わかった。じゃあ、その辺はヴァルに任せるよ。――疲れたから、早く家に帰ろうか」
そう言うと、ゆっくりと帰路についた。
その悠斗の中で、ヴァルはひっそりと考えを巡らしていた。
(あの三人がお隣さんだとすると――銀河連邦が動き出しているな……。今になって、何故だ? なにか、嫌な予感がする……。今晩にでも、川口から更なる情報を引き出すか……)
ヴァルは、そう心の中で決め、先程の敵がまだその辺りで見張っていないかと、周囲に警戒の目を向けた。
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