最強の宇宙生物に寄生された僕だが、ごく普通に高校生活を送るつもりだ
よし ひろし
序章 物語のはじまり
0-1.銀河最強の兵器
漆黒の宇宙空間。それは、まるで巨大な
先頭を駆るのは、一匹の異形の宇宙生物。全長およそ三メートル。地球のホホジロザメを彷彿とさせる流線形のフォルムを持つが、その胴体からは不釣り合いなほど長く、しなやかな二本の触手が伸びている。黒曜石のように鈍く光る皮膚は滑らかで、宇宙空間の僅かな光を捉えては、ぬらりとした質感を露わにした。その名はメガロ。本来はバロータ星域を気ままに回遊する、知性の低い、しかし強靭な肉体を持つ宇宙生物だ。
だが、今のメガロはただのメガロではなかった。その動きは、本来の生態からは考えられないほど俊敏で、鋭敏。まるで熟練の戦闘機パイロットが操るかのように、宇宙空間を切り裂き、迫りくる脅威から逃れようと必死の軌道を描いている。その瞳の奥には、メガロ本来の鈍い光ではなく、冷徹で計算高い知性の輝きが宿っていた。寄生型宇宙生命体ヴァルヴァディオ――「銀河最強の兵器」と恐れられる存在が、このメガロの意識を乗っ取り、その肉体を操っているのだ。
そのメガロを、数十隻からなる宇宙艇の艦隊が執拗に追い立てていた。鈍色の船体を連ね、鋭角的なシルエットを持つそれらの艦艇は、銀河にその悪名を轟かせる犯罪組織、銀河シンジケートの所属を示すエンブレムを掲げている。統制の取れた編隊飛行は、獲物を追い詰める猛禽の群れを思わせ、各艦艇から放たれる青白いエンジン噴射の光が、追跡経路を宇宙空間に焼き付けていった。
「目標、依然逃走中! 速度、変化なし!」
「第一から第五分隊、左右に展開。包囲網を狭めろ!」
「威嚇射撃、続行! 牽制しつつ、逃走路を限定させろ!」
艦隊旗艦のブリッジでは、冷徹な声が飛び交っていた。彼らの目的はただ一つ、メガロに寄生しているヴァルヴァディオの捕獲。かつて自分たちの組織が生み出した「最高傑作」であり、そして制御不能となった「最悪の脅威」。それを再び手中に収めるため、シンジケートはこの広大な銀河でヴァルヴァディオの行方を追い続けていたのだ。
シンジケートの艦艇から放たれるレーザーやプラズマ弾が、メガロの周囲の空間を威嚇するように掠めていく。しかし、ヴァルヴァディオの操るメガロは、それらをまるで予測していたかのように、絶妙なタイミングで回避する。触手を鞭のようにしならせ、微小なデブリを盾にしたり、宇宙塵の流れを利用したりと、その回避機動は芸術的ですらあった。本来のメガロならば、とっくの昔に捕捉されているだろう。
だが、数の利は歴然だった。シンジケート艦隊は徐々にその包囲網を狭め、メガロの逃げ道を塞いでいく。メガロ=ヴァルヴァディオは、迫りくる艦艇群の威圧感を肌で感じていた。宿主であるメガロの肉体は、限界に近い疲労を訴えている。本来ではない力を無理やり引き出しているのだ。その消耗は大きい。
それでも、ヴァルヴァディオは諦めなかった。数多の戦場を生き抜いてきた経験が、絶望的な状況でも活路を見出す本能を研ぎ澄ませる。
「チッ…しつこい蝿どもめ!」
メガロの口から漏れたのは、低く、掠れた、しかし明確な憎悪のこもった声だった。それはメガロ自身の声ではなく、ヴァルヴァディオの意識が、宿主の発声器官を通して絞り出したものだった。
艦隊は巧みな連携でメガロを追い込み、ついに広大な宇宙空間の一角へと誘導した。そこは、大小様々な岩塊が密集する、危険な小惑星帯の手前だった。シンジケート艦隊のサーチライトが、メガロの姿を白日の下に晒す。もはや逃げ場はないかに見えた。艦隊は速度を落とし、完全な包囲態勢を敷き始める。捕獲まであと一歩、という空気が、シンジケートの艦艇を満たしていた。
しかし、追い詰められたはずのメガロの目に、絶望の色はなかった。むしろ、その奥に宿る冷徹な知性は、獲物を誘い込んだ狩人のような、不敵な光を湛えていた。ヴァルヴァディオにとって、この小惑星帯こそが、反撃の狼煙を上げるための舞台だったのだ。
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