想いはどこへ?

 不思議なゲームを握りしめたまま、自宅のドアを開ける。

 このゲームを手にしてから、フワフワと空を漂っているような感覚が抜けない。


(一体どうしちゃったんだ、俺)


 自分の思考が何者かに奪われているような感覚に陥っている。風邪でもひいたのか?そう思うが、身体はだるくない。思考だけがいう事をきかない。


「あ、斗愛!」

(斗愛?!!)


 俺の口が勝手に斗愛の名前を紡ぐ。目の前にはいつのまにか斗愛が立っていた。


「なんで、そんな所にずっと立ってるのさ」

(えっ?!)

 

 斗愛に言われて気がつく。俺はずっと、玄関に立ち尽くしていたことに。


「ごめん、ごめん!ちょっと考え事しちゃってさ」

「ふぅーん」


 頭をかきながら伝える俺に斗愛は興味なさそうな返事を返す。

 その様子を気にしたような素振りをみせず、俺は斗愛に話しかける。


「斗愛こそ、何処かでかけるのか?」

「あ……いや」


 玄関に来たのだから何処かに行くのかと思ったが、斗愛は何も荷物を持っていなかった。


「いや、たまたま部屋に行こうとしてた時に、紗月が帰ってきたんだよ」

「あっ、そうなんだ」


 斗愛の部屋は一階の奥にあるから、家の作り的に玄関前を通ることになる。


「それより、紗月は何を持ってるんだよ?」

「あ、これ?」


 斗愛が不思議そうに俺の手元を見つめると、俺はソレを高々と掲げる!


「これは借りたゲームだ!」


 ジャーンと音がしそうなほど気合を入れたその仕草に斗愛がため息をついている。


(身体が言う事きかないんだよ!俺じゃないからな!)


 さっきから俺の身体は何者かに操られている。言いたいことも言えないし、身体も動かせない。斗愛に何かあったらどうしよう……。そんな事を考えてしまうが、俺?は何もする気はないらしい。無邪気に斗愛に話しかけている。


「斗愛!よかったら一緒にゲームしようぜ」

「えっ?」

「昔やっただろ?また一緒に遊ぼうぜ。……少しでもいいからさ」


 斗愛は考えていたが、俺の寂しそうな表情に折れてくれた。


「わかったよ」

「やったー!じゃあ早速俺の部屋でやろう」

「わかったから!危ないから押さないでよ」


 斗愛をグイグイ押しながら笑顔で部屋に向かう俺。その光景を何処か遠くから見ながら、懐かしさを感じていた。


(懐かしいな。昔はこんなだったっけ……)



 部屋に付き、ゲームをウキウキセットする。何処か鼻歌でも歌っていそうな俺に斗愛が話しかけてきた。


「ねぇ、それってどんなゲーム?」

「これ?これはね……」


 俺が答えた瞬間、辺りが眩しさに包まれる。


「これは、恋愛ゲームだよ」


 その言葉を最後に、俺は斗愛の前から消えた。



 回れ、回れ、運命よ回れ。

 いつか交わうその時まで、ギシギシと音を立てながら。

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