第34話 逃亡……

「良かったです、ロミオさん。あたしはヒルゲに何をされるかわからなかったんです」

 フィールは嬉しさのあまり泣き出しそうになった。

「一つだけ聞いていいか、フィール」

 ヒルゲは前を見ながら言った。

「お前は、このおっさんのどこがいいんだ。俺には全くわからない」

「あたしはロミオさんを信用してる。でも、あんたは力づくで人を平気で傷つけた。ただそれだけ……」

 フィールはロミオに好意があるのかは答えなかった。ただヒルゲに対して真っ直ぐな表情で語った。

「わからないな。俺には……」

 ヒルゲは自嘲気味に笑った。どこかバカにしているようにも見えた。

「お前に一つだけ聞きたいことがある。ちゃんと答えるんだ」

 と、ロミオは奪い取った拳銃をヒルゲのこめかみに近づけた。

「何だ、堪えられる範囲だったら答えるぜ」

「この倉庫には車が止まってるか?」

「そんなの、止まってるに決まってるだろう。俺たちの移動手段が電車か徒歩だと思ってたのか?」

 そこまで饒舌に喋るヒルゲに対して、ロミオは「わかった」と言い、彼は手から右ひざを使って、うつぶせのヒルゲの頭を思い切り抑えつけた。

「いふぇ」

 と、ヒルゲは叫ぶにも口が動けずにいるので、何を言っているのかわからない。

「フィール、耳を貸すんだ」

 ロミオに言われて、フィールは素直に応じた。

 ロミオが小声でフィールに話しかける。

「そんなこと、あたしができるわけが……」

「大丈夫だ。君ならできる。俺に片時も離れなければ、上手くいくはずだ。フィールいいかい、これは生存できるかはわからない。しかし、ここにいても君は幸せな人生を歩められない。それは分かるな?」

「はい、もちろん」

 フィールはロミオから目を逸らさずに頷いた。

「よし、じゃあ、どこまで生きられるか可能性に掛けてみよう。俺も初めての体験だからな」

 そうロミオは告げると、ヒルゲを見て、「おい、立つんだ」

 ヒルゲはようやく地面に突き付けられた、顔を開放されると、「おい、おっさん。何をしでかすかは知らないが、このファイナルブレイクから逃げようたって無駄があるぜ」

「うるさい。お前は黙れ」

 ロミオがヒルゲのこめかみに銃を突きつける。今でもトリガーを引いてもおかしくないほど、ロミオは怒りに満ちていた。

「分かったぜ」

 ヒルゲは大人しく両手を上げた。

「今からお前はそこのドアを開けるんだ。いいな?」

「わ、分かった」

 ヒルゲは先程フィールと二人で入ったドアのノブを回す時に、フィールは生唾を飲み込み、ロミオの後ろに隠れた。

 ヒルゲがドアを開けた瞬間、ロミオは倉庫内を見ると、ギャング集団で溢れているのをみて、ロミオはすぐにヒルゲを投げ飛ばした。

「おい、奴らが逃げていくぞ」

 ギャングの一人が叫ぶと、すぐさま拳銃を取り出しているのと同時に、ロミオはヒルゲから奪った拳銃のトリガーを引き、ギャング集団たちを撃っていく。

 ロミオの命中は素晴らしく、ほぼ狙い通り、彼らの心臓を弾丸で突き破っていた。ギャングたちは次々と胸を押さえて倒れていく。

 ロミオの後ろにはフィールがいた。彼女は倒れたギャングから落とした拳銃を拾い上げ、同じように撃ちまくっている。フィールの命中はお世辞にも上手くはなかったが、何発中一発はギャング集団の腹部に命中した。

 ロミオは倉庫の出口が見えると、フィールの左手を引っ張った。

「こっちだ」

 フィールはロミオに従いながら、小走りでついていく。ロミオが強く引っ張るので、思わず肩に痛みが走る。

 と、その時、ギャング集団たちがロミオたちをめがけて銃を撃っているのだが、その一部がフィールの肩に命中した。

「痛っ」

 フィールの左肩に激痛が走った。見る見るうちに赤く染まっていく。

「大丈夫か?」

 と、ロミオは心配しつつも走るのを止めない。ようやく倉庫から出ると、何台もの車やトラックが止まっていた。

「だ、大丈夫」

 と、フィールはロミオの手から離し、右手で左肩をかばいながら走っていく。

「おい、どっちも殺せ!」

 先程ヒルゲと一緒にいた、口髭の男が大きな声で叫ぶように、ギャング集団たちに呼びかける。

「いいんですか? リュウさんにオジサンは殺すなと」

「いい。リュウさんからの命令だ」

 そんなやり取りの声を聞きながら、ロミオは丁度車を降りようとした、ムースで髪を固めたつやのあるオールバックの男に銃を突きつけた。

「おい、降りろ。じゃないと殺す」

 そう言いながら、ロミオは慌てて、銃を二発天にめがけて発砲した。

「は、はい」

 オールバックの男は素直に降りようとしたところ、ロミオに身体を外へ投げ出され、ロミオは運転席に座り、ドアを閉めた。

 すぐさまフィールも助手席に座ろうとするが、今度は弾丸が左足首をかすめた。

「痛い……」

 何とかドアを閉めた後、ロミオはすぐさまキーを回してエンジンを作動させ、車を発進した。

 何発か後部座席のバックドアガラスを貫通させ、やがてガラスは木っ端みじんに砕けるように割れた。

「逃げるぞ」

 ロミオはギアを入れてアクセルペダルを強く踏み、車を急発進させた。

「うっ」

 思わずフィールは声を漏らした。

 車は倉庫内を走行し、出口の場所まで近づくと、丁度この車を侵入した際に門が開けっ放しだったので、ロミオは躊躇いもなく、ファイナルブレイクの倉庫を後にした。

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