Part3
そんな話し合いの前日。リーリィの薬屋からかなりの距離の地点にある、廃墟の地下にて。その部屋全体を照らすにはあまりにか弱い電灯の下、2人の人間が何やら言葉を交わしていた。
「で、本当にあの魔法使いを殺すって?」
そう言って問いかけていたのは、ライア。盗賊御用達の取引所、ブラックマーケットの運営者だった。
「そうです。だって、アイツ自身に魔王討伐の意思がないにしろ、どうせ国が黙っちゃいないでしょう。今現在この国には勇者はいない訳ですし……」
ライアの問いに、リールはそう言って力なくカウンターに突っ伏していた。一難去ってまた一難と言うべきか、勇者を殺した後にすぐ現れた魔法使い。正体不明のそいつを、殺す計画を練っている最中であった。
「じゃあ、今のお前の実力で勝てるのか?勇者を殺したとは言え、大分厳しい戦いになりそうだが」
ライアは、事態を少々危惧していた。
確かに、リールは勇者を殺すことはできた。しかしあれはほぼ不意打ちのような形だったようだし、正面からぶつかり合えば大敗を喫するであろうことは動かない真実であった。そんな奴が、勇者以上の力を持つ奴を殺せるだろうか。
そんな心配と共に、ライアはリールの方を見る。
「……厳しかろうがなんだろうが、やらなきゃいけないんです。私は、魔王を死なせる訳にはいかない。アイツの命は、私の命同然なんです。だから、こんな奴生かしちゃおけない」
そんなライアの心配が吹き飛ぶぐらい、リールには覚悟があった。魔王が死ねば、リールも殺害の対象である冒険者を失って死ぬ。そんな死に方になるぐらいなら、あの魔法使いに傷一つでもつけてから死にたかった。それじゃなきゃ、納得出来なかった。
「……分かったよ。それじゃ、まずは魔法使いの居場所を探す所からだな。つってもどう探したもんか……」
「随分と協力的なんですね。別に私、そんな金にもならないのに……」
積極的に協力するような態度を見せるライアに、リールは少々戸惑っていた。
「あのなぁ……私だって人間なんだ。こいつに協力したいって思ったら無条件に協力するし、したくなかったら何があってもしない。でも、お前の境遇には同情の余地があった。だからやってるだけだよ」
正直、リールはライアのことを冷徹な野郎だと思っていた。全ての物事の判断基準は金で、金を運んでくる奴には協力し媚びを売り、金にならない奴は理由もなく突っぱねる。そんな人だと思っていた。
でも、実際には違うようだった。
どこまでも人間味があって、優しさのある人だった。
「……ありがとうございます。じゃあ、探しましょうか。新聞に何か書いてないかな……」
リールはその事実に対しての感謝を軽く述べ、2人は魔法使いの情報探しに戻った。魔族の襲撃当日から今日に至るまでの、数日分の新聞を読み漁ってみた。大きな見出しの部分から、多分関係なさそうなコラムまで。隅々まで見漁ると、思いがけない発見があった。
「あ、どうやら、あの魔法使いには仲間がいたらしく、そいつの情報は割れてて……シーナ?って名前の普通の冒険者みたいです」
リールがそう言って指し示したのは、襲撃翌日の新聞の一部分。あの事件で戦っていた冒険者や、付近の住民に対するインタビューの記事だった。
その中で語られていたのが、仲間の冒険者の存在。
どうやらあの襲撃の後、魔法使いは激しい魔法を展開した後に倒れてしまったらしい。記事が言うに、その冒険者は魔法使いのことを『ただのチームメンバーだ』と周りに言いふらしながら去っていったとのことだ。
それも、何か隠し事があるように。
「シーナ……ああ、聞いたことがある。確か、スリの難易度ランキング最下位で有名なやつだった気が……」
スリの難易度ランキングとかいう、
1分も経たぬうち、ライアは一枚の書類をリールに提示した。
「これがそいつの情報一覧だ。まあずっと一緒にいるのかは分からんが、宿から尾行してけば、魔法使いの居場所も分かるんじゃないか?」
その書類に書かれていたのは、シーナの個人情報であった。冒険者ギルドに登録された情報から、普段使用する宿の住所まで。ありとあらゆる情報が、そこにはあった。
なんでこんなものがあるのかと言えば、それはライアのみぞ知る秘密だった。強いて言うなら、ここは裏社会のブラックマーケット。盗品のみならず、情報までもが商品の一部であるということだ。
「ありがとうございます。じゃあ、次は武器ですね」
リールはその情報にひとまずは安心した後、殺傷に適した武具選びに移った。
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