4話目 甘い香り(sideリュイ)

客間のベッドで眠る幼子の顔を眺める。そして、頭を撫でる。


あぁ、やっと見つけた。そんな、満足感で身体が満たされていく。


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光があれば必ず闇も存在する。私が居るところもまた、闇の中だった。

ここ、ガレウス王国の必要悪としてリンデール侯爵家は存在している。勝手に闇社会なんて出来ようものなら犯罪グループがあっちこっちにできるだけ、それならば、最初から作り統率しとけばいいのでは……?という初代国王の考えから作られ、統率者として指名されたのが初代国王と仲が良かったリンデール侯爵家初代だった。それ以降、王室とは密かにだが関係性は続いている。今も王太子とは学院での同級だった事もあり仲は良好だ。まあ、最近は王太子の伴侶自慢がいささか腹が立……いや、そこはいいとしよう。

あまりにも行き過ぎた行いをする貴族が消えることも日常茶飯事だ。まあ、一家全員の暗殺など滅多には無いが……


そんなに、滅多にはない依頼が王家からきた。


依頼書には『エンダー伯爵家の一家暗殺』当主のみ、子息、令嬢のみなどは時には入ることはあるが一家暗殺は最近では珍しい……王家の依頼なのだから大丈夫だとは思うが一応裏をとる。だが、出るわ出るわ……法律で禁止されていることのオンパレードだった。


「ここまでくれば、そうなりますねぇ……」


オメガの人身売買、恐喝、果ては謀反の企て……

叩けばたくさんのホコリがでてきた。


そしてとある日の夜。

私はエンダー伯爵の屋敷の前にいた。

一応、聞き取りもする為1度生け捕りをするように指示は出している。まあ、生け捕りにしたところで殺すのは決まっているのだが……

そう思いながら裏口から屋敷に入る。


そこで、ふっといい匂いがした……


何だろう……と首を傾げる。ただ、この匂いには抗いがたいものを感じ匂いの場所を探る。

甘い……熟れたリンゴのような香り……


庭の中をしばらく歩く。何かが燃えたような場所に最初はたどり着く。そこからまだ、匂いが続いている。また、匂いをたどっていく。


「おや……?こんなところに人……?」



あぁ、見つけた……



そう感じた。


そこにいたのは小さな子ども。


どうやら、怪我をしていて、ボロボロの様子だった。すぐに呼吸の確認をする。小さく細いが生きていることだけは確認できた。羽織っていた上着で子どもを包む。

確かに感じる。甘いリンゴの香り。この子どもが自分の運命の番だと……。



後ろから着いてきていた、ロイが私に声をかける。


「リュイ様~?何を見つけたんです~?」


語尾が伸びる特徴的な話し方。だが、こう見えて優秀な従者なのだ。


「……私の番ですよ。」

「はぁ~!?」


驚いた様子のロイを無視して屋敷へと向かう。早く番を屋敷に連れて帰りたいが仕事を終わらせねば……。


屋敷に入ると玄関でエンダー伯爵、夫人、子ども二人に、使用人縛られた状態で並べられていた。


「なっ!何故そいつがッ!」


私が抱えている子どもを伯爵が見つけたそう叫ぶ。どうやら、知り合いのようだ……。


「この子どものことをご存知で?」


そう聞くと……



「伯爵家の恥だっ!早く捨ててくれっ!それより、これはどういう事だ!早く解放しろ!」

「ほう?」


私の番に随分な言い方だ……番を蔑ろにされるのはなんとも腹が立つ。任せたくは無いが1度ロイに預ける。


「さて……どうしてあなた方が捕縛されているのか……という問いですが、ご自分の胸に聞いてみれば良いのでは?……分からないという顔ですね……王国の法を破り、尚且つ謀反まで起こそうとしたのですから当たり前では無いですか……それに、口の利き方がなっていないのでは?」


なぜ捕縛されたのか分からないという顔をしている伯爵にそう語りかける。そして、私の顔を見てハッとした。


「リンデール侯爵!?」


状況が状況に気が付かなかったようだ。


「さて……伯爵。先程の子どもについて教えていただけますか?」


伯爵に話しかけると……


「あれは穢れた血の子どもよ!早く殺しないさい!そして、私を離すのよ!」


伯爵ではなく夫人が叫ぶ。子ども達も夫人の声に乗っかり口々に文句を言い始める。あぁ、五月蝿い。


「お前たちには聞いていませんよ?黙りなさい。」


指示を出して、近くの騎士たちに黙らせる。

その間もじっと黙っている伯爵の顔を無理やり上に向ける。


「ぐっ……」

「さぁ、答えてください。あの子どもはどこの誰です?」



もし、人身売買で連れてこられた子どもならば1度親元に返し親から自分の手元におけるように話をせねば……そう考えながら伯爵を見つめる。


「……だ……」

「はい?」

「私の子どもだ!」


予想外の言葉でした……。調べでは伯爵の子どもは2人だけのはずですが……


「調べでは子どもは2人ですが……?」

「あれは、奴隷のオメガに産ませた子どもだっ!私の子どもなのだからどう扱おうと自由だろう!」



調べが甘かったようです……。なるほど、伯爵の私生児……っと。


「分かりました。とりあえず、今はあなた方は殺しません。全員、屋敷の別棟の地下へ運び入れなさい。」


本当は今すぐ殺してもいいのですが……あの子がこの家族に思い入れがあってはいけませんからね……あとは、あの子にしたことなども調べて……同じ苦しみを味合わせないと……


喚くのを騎士たちが次々黙らせていくのを見つめながら考える。


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