ルミナス・センチネル 〜天陽の守護者〜

塚元守

プロローグ「異界からの脅威」

 はるか昔、地下深くに異世界の扉が開いた。 


 そこから現れたのが、『地冥獣ちめいじゅう』と呼ばれる存在だった。彼らはこの世界に侵入し、時折地上に姿を現し、人々を恐怖におとしいれる。

 

 今から1000年前、特殊な力を持つ者たちの活躍により、地冥獣は再び地底に封印された。


 15年前、その封印は弱まり、地冥獣の瘴気しょうきが漏れ始める。その瘴気は地上の自然環境を汚染し、一部の人間に健康被害を与える。

 

 ようやく事態を重くみた政府は非公式機関、特殊異常現象対策局とくしゅいじょうげんしょうたいさくきょくを設立。その存在を把握し、対策を講じていた。

 

 だが、通常の兵器では効果が薄く、機密アーカイブの記述にある「特殊能力を持つ者たち」の存在が必要不可欠となった。

 

 そんな中、東京都明光めいこう市の高校生たちが次々と瘴気に触れ、自分たちの知らなかった力を発現し始める。


 これは、彼女たちが国家機密の戦闘チーム、ルミナス・センチネルの一員として、地冥獣に立ち向かう物語の始まりである。


 

===


 

 明光市郊外の森を包む闇は、異様な静けさに満ちていた。


 月明かりも届かぬ深い木々の間を、特殊戦闘部隊の隊員たちが慎重に進んでいた。


「隊列を維持しろ。目標は『クラス4』。北東、距離200メートル。瘴気の濃度が上がってる。無線が途切れる前に確認した位置を頼りに進め」


 隊員たちの装備は最新鋭だった。


 自動小銃、防弾ベスト、そして瘴気の影響で使い物にならない暗視ゴーグルが無駄に腰にぶら下がっている。


 瘴気が電子機器を狂わせることは、すでに何度も痛感していた。無線はすでに途切れ、懐中電灯さえチラついて頼りにならない。


 薄暗い視界の中、彼らはわずかな自然光と感覚だけを頼りに進んだ。


 突然、森の奥から低いうなり声が響き、地面が微かに震えた。隊長が手を上げて隊を止めた瞬間、木々が裂ける音と共にそいつが現れた。


 巨大な影、長く鋭い爪がわずかな月光に鈍く光る地冥獣だ。身の丈は3メートルを超え、粘膜に覆われた黒い体から瘴気が立ち上り、空気を重くしていた。


「撃て!」


 隊長、五島ごとう号令一下ごうれいいっか、銃声が森に響き渡った。無数の弾丸が地冥獣に浴びせられ、火花が散る。


 そいつは一瞬怯むも、咆哮を上げて特殊部隊に突進してきた。通常兵器の効果が薄いことは分かっていたが、それでも立ち向かうしかなかった。


「退け! 散開しろ!」


 五島の叫びが響く中、地冥獣が振り上げた爪が隊員の一人、藤咲ふじさきに襲いかかった。


「藤咲ッ!!」


 五島が叫び、藤咲が身をかわそうとした瞬間、空気を切り裂く鋭い音が響き——青い光の矢が地冥獣の腕に突き刺さった。


「何だ!?」


 五島が驚愕きょうがくの声を上げた。


 青い光はまるで水面を跳ねる波のように輝き、地冥獣の腕から瘴気を弾き飛ばした。


 地冥獣は咆哮ほうこうを上げ、振りかざした爪を下ろすこともなく、青い光の飛んできた方向へ向き直った。


 そして、特殊部隊には目もくれず、森の奥へと走り去った。


「追え! 何が起きたか確認する!」


 五島が叫ぶと、隊員たちが銃を構えて地冥獣の後を追った。


 瘴気の悪臭が濃くなる中、木々の間を抜け、彼らが辿り着いたのは小さな開けた空間だった。


 そこには、地冥獣が黒い血とガスを噴出しながら苦しむ姿があった。


 鋭い爪には真っ赤な血がべっとりと付着し、その体は地面に崩れ落ちていた。


「こいつ……死にかけているのか?」


 隊員が呟いた瞬間、地冥獣の体が震え、黒いガスが一気に噴き出した。


 隊員たちが銃を構える間もなく、そいつは完全に崩壊し、黒いガスとなって風に溶けるように消え去った。


 森に再び静寂せいじゃくが戻った。


「……どういうことだ?」


 五島が地面に目を凝らすと、地冥獣が消えた跡に赤い血が広がり、人間のものらしき足跡がくっきりと残されていた。


 血はまだ温かく、足跡は森の奥へと続いていた。


「誰かがやったのか? あの青い光は……?」


 隊員の一人が呟いたが、答えは誰も持っていなかった。五島は無線に手を当てたが、瘴気のせいで反応はない。仕方なく、彼は隊員たちに指示を出した。

「記録しろ。地冥獣の排除を確認。だが、状況不明。青い光の矢が介入し、目標は崩壊。現場に血と足跡が残されている。帰還後、報告だ」


 隊員たちの視線は、森の奥へと伸びる足跡に注がれていた。あの青い光は何だったのか。血を流したのは何者なのか。


 瘴気に閉ざされた闇の中、答えのない疑問が重く響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る