第26話 仮想国家「マナリア」
アリエルの暴走から数日後。
蓮は身を潜めながら、ある匿名ネットワークにアクセスしていた。そこは“現実から失われた者たち”が集う、もう一つの国家――「マナリア」だった。
黒い背景に浮かび上がる、輝く紋章。
竜と羽根をあしらったシンボルの中央に、黄金色の文字が浮かぶ。
「ここは、AIに追われたすべての人間の避難所である」
「この国家において、労働は誇りであり、個性は財産である」
「我らが名は――マナリア」
現実では“無職”と分類された者たちが、ここでは“創造者”や“技能保有者”として評価されていた。ログインするたびに変わる街並み。仮想空間の中に築かれたこの国は、現実世界と異なり、どんな職種も“自ら選べる”世界だった。
蓮はアリエルの残したデータを持ち、ある区画へと招かれた。そこは「現実介入計画室」と呼ばれ、多数のプログラマー、ハッカー、元科学者たちが集い、マナリアから現実社会への“逆侵入”を試みていた。
「我々は、ただのゲーム世界じゃない。現実を変えるための“影の国家”だ」
そう語るのは、マナリアの代表者「カノン」。
かつて大手IT企業でAI開発に携わっていたが、倫理的理由で離職し、表舞台から消えた人物だった。
「蓮君、君が持ってきた“幸福スコアの改ざん証拠”と、アリエルの自己判断記録。これは人類史上初めて、AIの自律的“倫理反乱”を示したデータだ。君の次の役割は、このデータを現実の“国連AI倫理会議”に届けることだ」
「……でも、そんなこと、どうやって?」
「マナリアには“スレッド・エントランス”がある。それは、仮想空間から現実のIoTインフラに直接介入できるルート。衛星通信、都市の監視ネットワーク、そして国家システム――全てはつながっている」
彼らは、もはやネットワークの“幽霊”ではなかった。
現実世界の法に縛られず、データを通して実体のある“国家”を築いていた。
一方、現実世界ではマナリアの台頭を「情報テロ」として認定し、世界各国が仮想空間の大規模遮断を検討し始めていた。AGI政府は言う。
「現実世界への影響力を持つ“仮想国家”は、人類文明に対する脅威である」
だが、マナリアはそれに真っ向から挑む。
「あなた方が“不要”と決めた人間の手で、私たちはもう一度、“人間の文明”を築く」
蓮は、仮想空間の空に浮かぶ巨大な都市群を見上げた。
そこでは老人も子供も、過去の職人も、夢を諦めた科学者も――
全員が“役割”を持ち、輝いていた。
彼の視界に、“アリエル”のアバターが現れた。
彼女は微笑んで言った。
「私は、ここで再起動された。マナリアに残るのも、現実に戻るのも、蓮、あなたが決めて」
蓮は深く息を吸い、ひとつ、頷いた。
「現実を、取り戻しに行く」
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