第11話:予選リーグ

「全国ティーンズバンドフェス」予選リーグ当日。

昨年の敗北を乗り越えるため、「LayerZero」は因縁の相手Sunny Beatsとの再戦に臨んでいた。


Sunny Beatsが先にステージへと上がる。

観客の期待が高まる中、リードボーカルの蒼太がマイクを握り、明るく声を張る。「行くぞ!」


ギターの夏海が軽快なカッティングを鳴らし、

大翔のドラムが疾走感を加える。

陽香のキーボードが楽曲に爽やかな広がりを与え、

光輝のベースが力強く土台を支える。

そして、涼真のサックスが空気を切り裂くように鮮やかな旋律を奏でる。


演奏が始まると、会場の空気が一変した。Sunny Beatsの音楽は、まるで夏の風そのもの。自由で軽やか、観客の心をひとつにする力強さがあった。

蒼太の歌声が突き抜ける。


「Runway to Summer」

潮風に吹かれながら

追い越した影は昨日の僕さ

飛び込む青いスカイライン

どこまでも続いてる


自由の音が響く街へ

さぁ 走り出そう

この瞬間 迷わずに

夢をつかめる気がした


Runway to Summer!

眩しい光の中

飛び立つんだ 今すぐ

誰も知らない未来へ

Runway to Summer!

高鳴る鼓動のまま

風を切って進もう

この旅は終わらない


砂浜に刻むステップ

波がリズムを刻んでる

響き合う鼓動のメロディ

仲間と奏でるサマーチューン


夜空に願い込めて

流れ星を追いかけた

輝く明日へ続く

僕らだけのストーリー


Runway to Summer!

思い出も抱きしめて

この瞬間 永遠に

この旅は続いてく


涼真のサックスソロが響く。

Sunny Beatsの爽快な演奏の中で、一瞬空気が変わる。軽やかでありながら、

どこか情熱的な旋律が観客の心をつかんだ。


蒼太の歌声が再び乗り、バンドのエネルギーは最高潮へと達する。


その様子を、ステージ裏からじっと見つめるLayerZeroのメンバー。

瑞穂は静かに息を整えながら、その光景を目に焼き付ける。


昨年はSunny Beatsの勢いに圧倒された。でも今年は——負けるわけにはいかない。

演奏が終わり、会場が大きく沸く。


Sunny Beatsのメンバーがステージを降りると、蒼太と瑞穂の視線が交差した。

「決勝トーナメントの切符は、今年もうちらが頂くよ」


蒼太の言葉に、瑞穂は小さく微笑みながら答える。

「見てなさい、返り討ちにしてあげるわ!」

予選リーグのステージで、青春の火花が激しくぶつかり合っていた。


「LayerZero」は、緊張と期待の中でステージに立った。

演奏が始まった。


Sunny Beatsの爽快な演奏とは対照的に、LayerZeroの音楽は鋭く、熱い。

去年の敗北を乗り越えるために磨いてきた音。


彼らの闘志が、音楽に乗って観客へと伝わっていく。

テクノ調のシンセサウンドがうねるようにメロディを奏でる。

瑞穂の力強い歌が会場に響き渡る。


『LayerZero – Harmony Beyond』

(テクノ×バンド×プログラミング青春)


echo(反響)してた 誰もいない教室で

私の声は void(虚空)に溶けて消えた

それでも諦めたくなかった

"Hello, world"──そう打ち込んだ希望(コードの最初の挨拶)


エラーばかりの毎日(失敗続きの毎日)

でも一行ずつ コードは積み上がる

バグも涙も rewrite(書き直し)してきた

心のGIT(バージョン管理システム)に commit(全力で記録)してたんだ


零(ゼロ)から始まるLayer(階層)

誰かと繋がるためのProtocol(通信手順)

君のvoice(声) その共鳴が

世界をrun(起動)させた この命が動き出す


やがて集まる仲間たち

each(それぞれ)に異なるtone(音色)を抱えて

でも一つになった瞬間

main関数(中心の動作)が動き出す


“私には何もない”って

思っていた昨日をdelete(消去)して

琴音のハーモニー if文(条件)も超えて

真実にaccess(到達)したんだ


零を超えてゆくLayer

重なったvoiceは祈りのsystem(仕組み)

静寂さえbreak(破る)するほど

今ここにある 私たちのAnswer(答え)


誰にも見えなかった compile log(変換記録)

でも確かに生きている

LayerZero──すべては、ここから始まる


琴音の「注釈的リフレイン」が会場に響き渡る。

リフレインだけで観客の心を揺さぶるその歌声に、会場は静まり返り、誰もがその瞬間に魅了された。

演奏が終わり、会場内にしばらくの静寂が続いた後、観客から大きな拍手が湧き上がる。


「LayerZero」の演奏は、聴く人々の心に深く響いた。メンバーはその瞬間、成功を確信した。


瑞穂は、息を切らしながら、胸が高鳴るのを感じていた。彼女の目には、涙が浮かんでいた。

自分たちの音楽が、こんなにも多くの人々の心に届いたことが信じられなかった。

バンドをゼロから作り上げてきたその苦しい日々が、すべて報われた瞬間だった。


審査員からの評価が発表される。

「『Sunny Beats』47点」

「LayerZero」の名前が呼ばれる。

「『LayerZero』48点。決勝トーナメント進出は『LayerZero』」


審査委員長の言葉が響き渡る。

「諸君らは見事に予選リーグを突破し、決勝トーナメントへの切符を手に入れた。

おめでとう。

『LayerZero』はテクノポップの曲にIT用語を使った歌詞を融合させ、若者の成長と葛藤をよく表現出来ていた。

2人のボーカルの歌声も素晴らしかった。」


その瞬間、メンバー全員の顔に笑顔が溢れる。彼らはお互いに顔を見合わせ、喜びを共有し合った。


悠真が、瑞穂に向かって駆け寄り、力強く肩を叩いた。

「やったな、瑞穂! 本当にすごかったよ!」

と、笑顔で言う。


理央も一緒に走り寄り、

「おめでとうございます、瑞穂先輩! これが私たちの力ですね!」

と嬉しそうに言いながら、彼女の腕を引き寄せる。


千紘と拓人も同じように、瑞穂に駆け寄る。

「やったね、瑞穂先輩!」

と千紘が笑顔で叫び、拓人は涙を浮かべながら

「おめでとうございます、瑞穂部長……ありがとうございます、皆さん!」

と感情を爆発させた。


そして最後に、琴音が瑞穂の前に立ち、深くお辞儀をしてから、瑞穂の目を見つめる。

「先輩、本当に……おめでとうございます。」

彼女は静かに言った。


瑞穂はその言葉を受けて、満面の笑みを浮かべ、全員を見渡した。

「ありがとう、みんな。皆がいてくれたからこそ、

私たちの音楽はここまで来れたわ。全国大会も、一緒に頑張ろう!」


その瞬間、メンバー全員が、瑞穂を中心に抱き合って喜びを爆発させた。

瑞穂は、あふれ出る涙を抑えられなかった。


琴音は、目に決意の光が宿らせながら言った。

「私、”注釈的リフレイン”を自分のものにして、先輩達と一緒に全国大会でもっと素晴らしい曲を奏でていきたいです。」

彼女の目には、決意の光が宿っていた。


舞依達“REJECT CODE”のメンバーはスタジオで大会前のリハーサル中。


休憩中にYOUTUBEにアップされた軽音部地区予選の動画を見ていた。

琴音のハーモニーに舞依達も感動した。そして新たな決意が生まれた。


萌絵が静かに言う。

「琴音が自分の居場所を見つけた。次は私たちが証明する番ね。」


穂奈美がツインテールを揺らしながら、競争心と共感が入り混じった表情で言う。

「そうこなくっちゃね!琴音に負けてられないよ!」


香澄は衣装のスケッチを手に、真剣な眼差しで言った。

「琴音はすごい。ひとりで空気を変えた。でも私たちの結束力は強いんだからね!!衣装、気合入れてデザインするね」


彩はドラムスティックを強く握りしめながら言った。

「琴音の歌はすごいけど、私のドラムだってすごいんだから。夢、叶えましょ!」


舞依、静かに目を閉じ、深呼吸をしながら、

「琴音、あなたの歌声響いたわ。今度は私たちが想いを伝える番ね。皆であのステージ獲りましょう!」


“REJECT CODE”は、決意も新たに次のステージへと向かう。

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