第10話:LayerZero
瑞穂達は「全国ティーンズバンドフェス」予選リーグに向けてリハーサル中。
バンドは、
瑞穂(3年・ボーカル兼部長)
悠真(3年・ギター)
理央(2年・ドラム)
千紘(2年・キーボード)
拓人(2年・ベース)
そして、1年生のサブボーカル・琴音の6人の構成で予選リーグに臨む。
予選リーグのグループには去年敗れた因縁のライバルバンドも入っていた。
『 Harmony Beyond』
(テクノ×バンド×プログラミング青春)
echoしてた 誰もいない教室で
私の声は voidに溶けて消えた
それでも諦めたくなかった
"Hello, world"──そう打ち込んだ希望
エラーばかりの毎日
でも一行ずつ コードは積み上がる
バグも涙も rewriteしてきた
心のgitに commitしてたんだ
零から始まるLayer
誰かと繋がるためのProtocol
君のvoice その共鳴が
世界をrunさせた この命が動き出す
やがて集まる仲間たち
eachに異なるtoneを抱えて
でも一つになった瞬間
main関数が動き出す
“私には何もない”って
思っていた昨日をdeleteして
琴音のハーモニー if文も超えて
真実にaccessしたんだ
零を超えてゆくLayer
重なったvoiceは祈りのsystem
静寂さえbreak)するほど
今ここにある 私たちのAnswer
誰にも見えなかった compile log
でも確かに生きている
LayerZero──すべては、ここから始まる
「あのバンドが相手なんだよな……
去年、完膚なきまでに叩きのめされたSunny Beats」
悠真がポツリと漏らしたその名は、去年のリベンジを誓った因縁の強豪バンドだった。
仕上がりは悪くない。演奏の完成度も十分だ。
でも――心のどこかで、皆が感じていた。
「……このままじゃ、また負ける」
そんな空気を裂いたのは、琴音の一言だった。
「……この曲のIT用語……日本語にして後から被せたら、もっと……“伝わる”気がします」
全員が一瞬、息をのむ。
悠真が呟く。
「それって、『注釈的リフレイン』ってことか。面白いな、それ」
瑞穂が言う
「そのアイデア……やってみる価値あるかも。
琴音さん、あなたに『注釈的リフレイン』お願いするわ」
琴音は瑞穂の目を見て頷く
「やります。やらせてください!」
『 Harmony Beyond』
echo(反響)してた 誰もいない教室で
私の声は void(虚空)に溶けて消えた
それでも諦めたくなかった
"Hello, world"──そう打ち込んだ希望(コードの最初の挨拶)
エラーばかりの毎日(失敗続きの毎日)
でも一行ずつ コードは積み上がる
バグも涙も rewrite(書き直し)してきた
心のgit(記録システム)に commit(全力で記す)してたんだ
零(ゼロ)から始まるLayer(階層)
誰かと繋がるためのProtocol(通信手順)
君のvoice(声) その共鳴が
世界をrun(起動)させた この命が動き出す
やがて集まる仲間たち
each(それぞれ)に異なるtone(音色)を抱えて
でも一つになった瞬間
main関数(中心の動作)が動き出す
“私には何もない”って
思っていた昨日をdelete(消去)して
琴音のハーモニー if文(条件)も超えて
真実にaccess(到達)したんだ
零を超えてゆくLayer
重なったvoiceは祈りのsystem(仕組み)
静寂さえbreak(破る)するほど
今ここにある 私たちのAnswer(答え)
誰にも見えなかった compile log(変換記録)
でも確かに生きている
LayerZero──すべては、ここから始まる
瑞穂の声が、高く伸びる。
琴音の声が、それに優しく、けれど凛として重なっていく。
そこへ重ねられたのは、琴音による**“注釈的リフレイン”**。
その一言一言が、コードのように精密で、それでいてどこまでも温かかった。
その刹那、機械的だったはずの音が、
注釈によって人間の心と同期(シンクロ)し始めた。
情報の粒が、感情のノイズと溶け合い、
まるで感動がアルゴリズムとして再構築されていく。
それは、理性と感性が奏でる、新しい音楽体験だった。
悠真がギターを静かに置いた。
理央の手からスティックが滑り落ちる。
千紘は顔を覆い、震えていた。
そして拓人が、静かに呟いた。
「……意味を知った瞬間、音が立体になった。
“注釈的リフレイン”…テクノの冷たさが、こんなにも優しくなるなんて……」
瑞穂が琴音を見つめて言った。
「琴音さん、あなたのアイデアと歌声でこんなに変わるなんて…。
あなた、本当にすごいわ。」
「ありがとうございます!」
琴音は誇らしげに頷いた。
「全国ティーンズバンドフェス」の予選リーグの前日。
瑞穂達は演奏の最終チェックをしていた。
瑞穂は、琴音にバンド名「LayerZero」の由来について語り始めた。
「琴音さん、このバンド名には、私たちがゼロから積み重ねてきた想いが込められているの。」
「最初は私一人だったけど、仲間が一人、また一人と増えていって、
今の『LayerZero』がある。」
「『Harmony Beyond』』この曲あなたが入部する前に作詞したんだけど、琴音さんが入部してきたとき、運命を感じたわ。」
「歌詞の一節、『琴音のハーモニー if文も超えて』。
これはね、感情の振動が、プログラム的な制約すら越えて、
未来を切り開いていくって意味なの。」
自分のアイデンティティが歌詞に込められていたようで驚きと感動を覚えていた。
「この曲に……そんな意味が込められていたなんて……。」
瑞穂が、琴音の方をまっすぐに見つめた。
その瞳は、揺れながらも確かな光を放っていた。
「琴音さん、あなたがこの曲を変えてくれたの。
歌詞にあった“琴音”という名前は、当時ただの比喩だった。
でも今は、あなたの声がその意味を再定義してくれたの。
あなたが加わって、私たちの音楽は“完成”した。
音楽には、技術だけじゃ辿り着けない場所がある。
心が、言葉が、繋がったとき初めて生まれるものがある。
そして今日、それを確信したわ。
あなたはその象徴──
『LayerZero』という名に込められた、“ゼロから起動する魂のシステム”。
これからも一緒に、もっと多くの心を震わせましょう。
全国大会で、“私たちのリフレイン”を響かせるために!」
琴音は、そのすべてを受け止めるように、静かに、しかし力強く頷いた。
「……はい。
全力で、届けます。
私たちの音を──」
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