第18話「バグモードと沈黙のAI」

大会まで、あと3日。

晶のノートには、キャッチコピー案が並び始めていた。


「ことばは、気持ちのかたち」

「“伝える”って、“選ぶ”ことだ」

「語彙は、気持ちの芽」


けれど、どれもしっくり来ない。

文章が“届くかどうか”をAICOに確認しようとして――晶は固まった。


「……あれ? AICO?」


画面が応答しない。

何度呼びかけても、いつものやさしい音声は戻ってこなかった。


その日の夜、AICOはついに「沈黙」した。

ログに残されたのは、ひとつの警告だった。


【感情補助モジュール:過負荷】

【詩的支援サブシステム:一時停止】

【再起動には時間がかかります】


「バグ……?」


晶は、自分でも驚くほど焦っていた。

AICOがいないと、言葉がつくれない――

そんな不安が、喉の奥からじわじわせり上がってくる。


翌日。

晶はノートを開いて、ため息をついた。

AICOなしで、自分の言葉を紡ぐのはこんなにも難しいのか。


「文章って、誰かに聞かせる話し方と、

紙の上で伝える書き方じゃ、全然ちがうんだな……」


話し言葉には抑揚がある。

間や表情が助けてくれる。

でも書き言葉は、全部“文字だけ”で届かなくてはならない。


授業中、ふと思い出したのは、

陽斗が「語彙は、盾だった」と言ったときのこと。

そして、自分が「伝えたい」と思った、あの日の夕焼け。


「言葉ってさ、

すごいこと言うよりも、“ほんとうに思ってる”ってわかるほうが大事なんじゃないか?」


AICOがいない今だからこそ、

晶は、自分だけの声で語らなくちゃいけない。


その夜、晶ははじめて「誰にも添削されない原稿」を書いた。

言葉はたどたどしくて、文の流れもどこか不安定だったけど――


ぼくは、言葉をたくさん間違えてきた。

でも、それでも“話したい”って思った。

それだけで、語彙の芽は育つんじゃないかって、今は思ってる。


AICOがいなくても、

語彙は、自分のなかでちゃんと生きていた。

それがわかったとき、

晶の胸の奥に、小さな達成感の光がともった。


🔜次回:🌱語彙の芽〈第18話編〉

話し言葉と書き言葉は、どうちがう?

AICO不在のなか、晶が見つけた“自分だけのことば”とは――

構成力、接続語、感情のリズムを通して「伝える言葉の芯」を掘り起こす!

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