第3話 記録の封印、そしてマロノイド

イオリが次の記録へアクセスしようとした、その時だった。

画面が突如、赤く染まった。




> 「アクセス遮断。機密レベルA4未満の接続を確認。自動遮断プロトコル発動」




「……何だと?」

彼は慌てて端末を操作するが、すべての通信がブラックアウトしていた。

代わりに浮かび上がったのは、政府の特務局による封鎖命令――“ブラックナイト関連データの全凍結”。


> 『地球統合政府より通達。

認可なき解析行為は、惑星安保条約に違反する。

あなたの研究はここで終わりだ、博士。』




「ふざけるな……!」


だが彼の怒りをよそに、ステーション《ノクターン》には軍用ドローンの影が迫っていた。

“知りすぎた科学者”を排除するのは、いつの時代も同じらしい。



だがその瞬間、ブラックナイトが再び唸った。

通信も電力も封じられた中で、彼だけに直接、映像が流れ込んでくる。


> そこは、星全体が海の惑星だった。

光を帯びた巨大なクラゲのような存在が、優雅に漂っている。




「……こいつらは……」


それは、“マロノイド”。

かつて人間だった彼らは、過酷な環境への適応の果てに神経構造を流体化し、全身で感じる種族へと変貌していた。


> 『我々はかつて、陸を捨てた者たち』

『肺を捨て、骨を捨て、声を捨て――感覚だけで語る』

『我々は人間ではない。だが、人類の悲しみを覚えている』




彼らは孤独を知らなかった。

すべてのマロノイドは、互いの“感じていること”を共有していた。痛みも快楽も、記憶もすべて。


だがある日、それを断ち切った“個体”が生まれた。

それが彼らの内戦の始まりだった。


> 『統一された意識は、自由を拒む』

『自由は、孤独をもたらす』

『お前たち人類は、どちらを選ぶのか?』





映像が途切れると、背後からドアが破られる音が聞こえた。

イオリは目を覚ます。だがその脳裏には、深い深い“静かな海”の感覚が、いつまでも残っていた。


そして彼は、心の底で確信していた。


> ブラックナイトは、未来種たちの遺言なのだと。

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