第2話 最初の子孫サイバリト

イオリの脳内に走った閃光は、やがて映像へと変わった。

それは、夢とも現実ともつかない、体験のような記憶だった。





視界は無機質な大地へと切り替わる。

黒い鉄の空、赤く照る恒星。砂嵐が吹きすさび、生命の気配はなかった。


そこに、サイバリトは立っていた。


彼らは人間だった。

かつては、そうだった。

だが今、その姿は生身を残していない。無骨な金属の軀、触手のように伸びる神経線。瞳はない。代わりに、頭部に埋め込まれた多重のセンサーが世界を見ていた。


> 『我々は人類だ。かつて肉体に囚われていた“知性”の系譜だ』

『身体を捨て、滅びを免れ、千の星を歩いた』

『だが我々は、“幸福”というものを失った』




彼らは情報の海を泳ぎ、脳をネットワークで結び、自己の境界を超えて融合していた。

痛みも飢えも、死の恐怖もない。だが同時に、愛も、孤独も、希望もなかった。


イオリはその世界の空気を“感じて”いた。酸素はなく、重力は異常に強い。人間ならば、数秒で血管が破裂して死ぬだろう。


だがサイバリトは笑っていた。笑い方など忘れて久しいはずの存在が、どこか懐かしげに言葉を残す。


> 『人類の進化は、存続か、尊厳か。その問いから逃げてはならない』

『我々は、“生き残った”が、“人であること”をやめた』

『お前たちには、その選択を拒む権利がある』





映像は唐突に断ち切られた。イオリは《ノクターン》の制御室で激しく咳き込み、吐きそうになった。頭が割れるように痛い。だが、その言葉だけは、鮮明に脳に焼き付いている。


> 人類は、かつて未来から過去へ、メッセージを送っていた。

それが、ブラックナイトなのだと。





スクリーンには、新たな文字列が浮かび上がっていた。

「次の記録を再生しますか?」


イオリは、乾いた喉を鳴らしながら呟いた。


「……ああ、見せてくれ。“俺たちの未来”を」

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