第22話 告白
1993年9月
金曜日の夕方【ロクロク】に集まり、いつも通りの左奥のボックス席に陣取る4人。
純平「大輔が来たら、オーダーして、少ししたら……健司が自然に話題を振るんだぞ」
健司「OK!まかせろ!確実に遂行する」
恭一「オレの書いたシナリオだ。間違いない」
その時、
ドアチャイムが鳴り、扉が開いた。
竜「来たぞ!」
大輔「こんちはー、尽さん!」
尽「いらっしゃい。おーい健司!オーダーどうする?」
健司「今日は、まずはコーク5本と、ポテト一皿で!」
尽「OK!」
———コーラとポテトが揃い、いつものように食べ始める5人。恭一が健司に目配せ。
健司「そ、そういえばさ……じゅ、純平たちって……どっちから、こ、告白し、し、したの?」
恭一(くっ!下手くそ!)
純平「お、おれたちか?い、いや、どうかなー……さ、里美から、だ、だったかなー」
恭一(純平〜おまえも大根か!)
竜「そ、それはちょっと、おとことして……な、なさけないと……お、おもうぞ、オレは」
恭一(竜〜〜!クソ、コイツら緊張してんのか⁉︎ この劇団、全員使えないぞ!もうオレが引っ張るしかねぇ!)
恭一「いや、そうかな?別に男でも女でも告白するのはどっちでも関係ないだろ。なぁ、大輔?」
大輔「そうだな。オレもどっちからでも良いと思うな。別に純平は情けなくねぇぜ」
恭一(よし、勝負を振れ健司!)
健司「………」
恭一(ダメだ、完全に思考停止してる!仕方ねぇ!)
「よし、じゃあ勝負しよう。告白するのは男からか? 男から派はそっち、どっちでも良い派はこっち!」
____________
・男から派 健司、竜
・どっちでも派 純平、恭一、大輔
恭一「よし!勝負だっ!気合い入れるぞ!」
「はっ⁉︎」
恭一の気合いで、3人が正気に戻った。
大輔「はりきってんな〜、恭一」
———その時。着替えを終えた順子が、フロアに出てくる。
順子「あっ、みんないらっしゃい!」
大輔「おーっす、順子!」
_____________
健司「やっぱよ、告白は男からだろ!その方が男らしいし、女の子は嬉しいと思うぞ!」
竜「待つよりも行動した方がいいぞ!待ってる間に、なんとなく離れて行ったらどうするんだよ?」
大輔「(———!)」
純平「いや、いや、離れて行ったなら、それはタイミングだから仕方ないって!別にどっちからでも、好きな方から告白すりゃ良いんだよ。『本当に好きなら』な!」
大輔「(———本当に好きなら……)」
恭一「いや、でも告白は恥ずかしいだろ。女子はもちろん、男だって緊張するよ。待ってる方が楽だって。楽な方が良いよな?大輔?」
大輔「えっ?……い、いや、オレは……別に楽な方ってわけじゃ———」
健司「なんだよ!勇気がないから楽するなんてダセーぜ!やっぱ男からの方が良いって!」
大輔「(…………)」
恭一「誰が言うか、じゃなくて、“どう伝えるか”だろ!」
竜「ハッキリさせないで待ってたら、後悔するぞ!何も伝わらないぞ!男から告白だ!」
純平「んなことねぇよ!伝えない間に他の人に取られたって、仕方ないって割り切るから大丈夫だぜ!なぁ、大輔?」
大輔「……い、いや、割り切れない……だろ」
恭一「確実にOKもらえるタイミングまで待った方が良いって!勇気出すのはしんどいぜ!なぁ、大輔?」
大輔「……いや、———しんどくても……」
____________
恭一「よし、じゃあ投票だ!男から告白するのが良いと思うヤツは、コークを上げろ!」
「いっせーーーーのーーっで!」
「ハイッ‼︎」
5本のコークが上がった!
健司「よし!男から告白の完全勝利だな!」
———その瞬間、大輔が、静かに立ち上がる。
大輔「みんな……ありがとな!情けねぇオレのケツ叩いてくれたんだろ?オレ、楽したいわけじゃないと思ってたけど……実際そうなのかも。順子となんとなく離れた時と同じように、勇気なくて、ビビってたのかもしんね」
そして、ゆっくりと順子の元へ歩いていく。
大輔「順子!」
順子が驚いて振り返る。
大輔「順子!オレ、中学の時、勇気がなくてビビっちまって、変な感じにしちゃってゴメン! あの時、嫌いになったわけじゃないんだ! ずっと好きだったんだよ!」
「今だって、オレは順子のことが大好きだ‼︎」
「……許してくれるなら、もう一度、やり直してください!」
一瞬の沈黙。順子はうつむきかけた視線を、ゆっくりと上げて———。
順子「許すことなんて……何もないよ、大ちゃん」
順子はかすかに笑った。その顔には、安心と、涙の気配と、嬉しさが入り混じっていた。
「ありがとう。———久しぶりに会って、やっぱり好きだって思ったけど……絶対言えないと思ってた。うち、ずっと大ちゃんに嫌われたんだって、思ってたから……」
「……私も大好きです。お願いします、大ちゃん!」
【ロクロク】の空気が一瞬止まり、次の瞬間には———。
「お〜〜〜っ!」「やった〜〜〜!」「おめでと〜〜〜!」
拍手と歓声が、店の奥からわき起こる。
その中に、溶けこむように流れ出すメロディ。
———The Shirelles – “Will You Love Me Tomorrow”
(今夜の愛は本物?それとも———明日も、私を愛してくれる?)
中学の頃のすれ違い。言えなかった想い。
もう二度と手放さないと、心に決めたふたりの前に、やさしい音楽が流れていた。
____________
純平「やったぜ! 尽さん、尽さん! 祝杯だ! バド7本お願いします! 」
尽「お、おぉ!娘の告白シーンの後に乾杯って、なかなか複雑な気分だけど、大輔なら良いな!頼むぜ大輔!」
大輔「ハイッ!頑張ります!」
_______
バドワイザーが全員に行き渡り———。
「カンパーーーーーーーーイ!!!!」
【ロクロク】に、ビンの当たる心地よい音と笑い声が響いた。
それは、夏の終わりと秋のはじまりの間に交わされた、ひとつの約束の音だった。
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