15.5話 眠り姫と愉快な仲間と変態たち
「亜理紗ぁー。亜理紗…………ありゃりゃ」
ちょっと自分でもやりすぎたなぁとは思ったけど、まさか恥ずかしすぎて気絶するなんて。そんなの思ってなかった。
顔を真っ赤にしながら倒れている亜理紗を救助するために(というか、これだったら証拠隠滅かな? 犯人私だし)起こそうとする。
「あだっ!! いだっ!!」
「おい、馬鹿女。やりすぎだ」
「萌香ちゃん。ずるいです。もう一発行きますね」
「まっ、待ってよぉ二人共っ!!!!」
バトミントンのシャトルを二連発で頭に打ち込まれて、更に追い打ちをくらいそうになる。それを止めるも、優の手によって亜理紗から切り離されてしまう。
「あぁ亜理紗ちゃん……これはこれでかわいそ可愛いですけど。流石に助けてあげないといけませんね」
「保健室まで運んでいくから、雛はこの馬鹿のこと叱っておいて」
「わかりました」
亜理紗を背負って歩いていく優を見届けてから、雛と対面する。ひぇええ……すごい怖い顔してる……
「萌香ちゃん。ずるいです。私もあんなふうに亜理紗ちゃんとイチャイチャしたいのに」
「いっ、いやぁ? イチャイチャしてるつもりはなかったんだけど……」
「試合中ちらっと見ましたけど、ほっぺにキスしてたじゃないですか。あれのどこがイチャイチャしていないんですか?」
「うっ、そっ、それは……」
いや、自分でもなんであんなことしたのかわからない。なんか、社長と親しそうにしている亜理紗を見たら、胸の中がきゅうっと締め付けられて頭の中がもやもやして……気づいたらあんなことをしていた。
「押し倒してキスしておいて、何処がいちゃついていないんですか?」
「ごっ、ごめんなさいぃぃ……」
「それに気絶するまであんなことする必要ありました? この前優が言ってましたよね? 距離はゆっくり詰めていこうって」
「はいぃ……」
「私だって本当はもっと距離を詰めて、脳にこびりつくくらいの刺激を亜理紗ちゃんに与えたいのに。それを我慢して、亜理紗ちゃんのペースに寄り添ってあげてるんです。それなのにあなただけ自分勝手なのはダメじゃないですか?」
いや、後ろから抱きしめてパンケーキ食べさせるのも同じくらいいちゃついてるんじゃ……と言いたかったけど、このお怒りモードの雛には何を言っても反撃されるだけなので我慢する。
というか雛、亜理紗に超ぞっこんじゃん…………私たち以外の人に熱中している雛なんて、初めて見たな。
確かに亜理紗は可愛いと思うし、あんな美少女顔で自信がなくて常におどおどしているところが小動物みたいで可愛い。でも、まさかそれが雛に刺さっているってのが意外だった。
「ごめんなさい……」
「はぁ……私はもう気が済んだのでいいですが、後で亜理紗ちゃんにも謝ってくださいね……それに私もごめんなさい。ほとんど八つ当たりのようなことを言ってしまいました」
「それは全然いいよ……でも、雛がそんなに他人に熱中するなんて珍しいね」
「あんなにも可愛いのに放っておけるわけないじゃないですか」
「ひぇっ」
いつものように微笑む雛。しかしなんでだろう。いつも以上に目に光がない気がして怖い。後ろから禍々しいオーラも出ている気がするし。
「萌香ちゃんだってそうでしょう?」
「それは……そうだけど……」
確かに言われてみれば、私だって最初は可愛いから声かけたんだった。テレビから出てきたような、そんな美少女の彼女のことが気になって声を掛けて。そして今友だちになって。
「まぁ萌香ちゃんは友だちになりたいと思ってファーストコンタクトを取ったんだと思いますけど」
「え。雛は違うの?」
「私は恋愛的な意味で好きなので」
へ?
「えっ、えええええええええ!?!?」
「萌香ちゃんしぃーここ体育館だってこと忘れないでください」
「だっ、だってぇ!!!!」
いきなりの雛がとんでもないカミングアウトをしてきたから、そりゃあびっくりするのも仕方なくない? 大声出した私も悪いけどさ……
でも確かに、いつも誰にでも優しい雛があんなにも誰かにイジワルするなんて珍しい。私たちにだってあんな感じの対応をするときもあるが、亜理紗ほどいっぱいいじられることはない。
それに、私たちにはいじった後の優しい言葉はないが亜理紗には見てるこっちが砂糖を吐きそうになるくらい甘やかしている。さっきのパンケーキとか特にいい例だ。
うっわぁ……まじか……いや、同性愛に偏見があるとかじゃなくて。あの雛が私たち二人以外を好きになるなんて。それも恋愛的な意味で。
昔一度、雛になんでそんなに優しいのって聞いたことがある。その時に確か『あなたたち二人以外に興味がないので、あたり触りのない。角が立たない対応をしているんです。良い顔して、良い対応をしていればジュースとかたまに貰えますよ』なんてことを言っていた。そんな舐めた態度で生きている雛が、まさか誰かを好きになるなんて……
「……引きましたか?」
「そっ、そんなことないっ!! でも、あの雛が私たち以外に興味を持ったのが意外で……」
「もうっ、私のことなんだと思ってるんですか? 私にだって他人に興味を持つことだってあります。たまたま二人以降に例が出なかっただけで」
「そっ、そうだったんだ。え、亜理紗のどんなとこが好きなの?」
何故か、自分からそんな質問をしたくせに少しもやっとした気持ちが胸の中に生まれる。なんでだろう。別に雛を取られたくないとか思ったことないんだけどなぁ……
「まず初めにあの顔ですね。長くて野暮ったい髪からたまに見える大きくて真ん丸な目。そして目が合って恥ずかしいのか、雪のように白い肌とぷにっとしてモチモチしている可愛らしい頬を赤く染めている所がとても可愛いですね。目の下に隈がびっしりとついている所もかわいそ可愛くてすごく好きです。早く治してあげたいですけど。でもあんなに隈が見えているのに亜理紗ちゃんって眠そうな目つきをしないんですよ。多分頑張って隠しているんだと思いますけど。それでもごくまれにあくびをして目を細めているときがあるんですよね。その目がまた可愛くて。小さい子犬が眠いからご主人様と一緒に寝ようとして甘えてくるときみたいでとても可愛いんですよ。今度注目してみて欲しいです。後、普段頑張って寝不足なことを隠している癖に私たちとスキンシップを取っているとすぐ眠くなるところがとても可愛くて好きです。この前優の家に遊びに行ったときしか見てないですけど。あれで心を掴まれたといっても過言ではないですね。だって、あんなにおどおど怯えて警戒している子が、まさかあんなふうに抱き合っただけですぐに警戒心を解いて初対面の人の前で昼寝しちゃうなんて。可愛すぎませんか? いくら寝不足だったとしても、流石に知り合いたての人の体温だけで眠くはならないと思うんですよ。それでも寝ちゃう亜理紗ちゃんはとても可愛いし、ちょろくて純粋な子なんだなぁって思って余計に惹かれましたね。本当に一緒にいたのが私たちでよかったです。もし他の子がこの可愛さを目にしていたらきっと、その日のうちに亜理紗ちゃんは食われていましたよ。今思うと怖いです。でも、あれのおかげでより一層亜理紗ちゃんを守らないとって気が入りましたね。後、そのあと」
「わかった! もうわかったから!!」
「まだあと一万文字以上あるのですが……」
「長すぎるわっ!!」
しかもすごい早口だったし……全部聞き取れたけど、なんか言ってることも結構きもかった気がするんだけど……ここにきてまさか雛の隠れた一面が見えるなんて。
それにすごいときめいてるじゃん! 雛って笑うか真顔かの二パターンしかないから普段何考えてるのかあんまりわからないけど、まさかあの顔の奥ではこんなにも亜理紗にときめいていたのか……知らなかった。
「本当はこの気持ちを本人に伝えたいんですけどね……でも伝えたら多分溶けちゃうと思うんですよね。今日のを見ていたら余計に」
「だねぇ……私もまさか、ほっぺにキスしただけであんなに真っ赤になって倒れるなんて思ってなかったよぉ」
「初心な所も可愛いですが、流石にさっきのは萌香ちゃんも悪いですよ。いくら女子同士だからと言って、あんなことは友だち同士ではしません」
「え、ちゅープリとかするじゃん」
「え、しないですよ」
まるで信じられないものを見たかのような顔つきで見てくる雛。え、まじ?
「中学の時しなかった?」
「いや、しないですよ……え、逆に萌香ちゃん。したことあるんですか?」
「え、何回もあるけど」
「なっ、何回もっ!? 女、女子校ってすごいですね……」
「えー驚愕しないでよ……逆に私は共学でもすると思ってたよ」
実は私たちは中学だけ違うんだよねー……お母さんにお淑やかになるためにここの中等部に入れられた。でも昔と違って今はモンスターみたいなやつしかいなくて、しかも中学でああいったことに興味ありまくりの時期。だから、色々理由をつけてちゅうしたり、色んな所を触り合ったりとやりたい放題だった。まぁ私はさすがに触り合うのは嫌でしなかったけど、ちゅうまでは付き合い程度に何回かした。
そう思うと危なかったな。もしこのまま女子校の常識で亜理紗とプリクラ取るときにちゅうしていたら。何もわからないまま殺人現場が二つ出来上がっていた。溶けた亜理紗と二人にめためたに殴られた私の。
「危なかったぁ……亜理紗にする前に知れてよかったよぉ」
「本当にです……」
他にも女子校の常識を言って雛を驚かせながら、亜理紗たちがいる保健室に向かった。
「ねね、さっきの話だけど、私偏見もないし雛のこと応援してるから。それに、さっきも言ったけど女子校だったら女子同士の恋愛とか日常茶飯事だったし」
またしてもずきっとしたが、なんでなんだろう。雛と亜理紗が仲良くなるのは良いことなはずなのに。
しかしそんな私の痛みをかき消すくらい、雛が見たことの顔をしていた。口をあんぐり、目を大きく開けていた。
「え、本当に言ってます?」
「うっ、うん。別に同性愛者だから友だちやめるとかはないよ」
「いやっ、そういうことじゃ」
なんて言いかけてから、これまた見たことない困惑した顔で「まぁ萌香ちゃんがいいならいいか……応援ありがとうございます。早めにいい報告ができるように頑張りますね」と言った。
「うんっ! 頑張れっ!」
「マジかぁ……あれで気づいてないの……」
「へ?」
「なんでもないですよーほら萌香ちゃん。優が待っていますし行きましょうか」
「そうだねー早くいこっ!!」
なんて言いつつ優のもとに向かった私たちだったが、私はついた途端無茶苦茶に怒られたので、別に急がなくても何なら保健室に行かなくてもよかったなぁと思った。ま、亜理紗の可愛い寝顔が見れたし良しとしよう。
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皆さん知ってました? 実は雛ちゃんってとんでもない子なんです。そしてその陰に隠れて萌香ちゃんも凄い子なんです。その陰にいる亜理紗ちゃんもストーカーを言えに迎え入れる(強制)やばい奴なんです。優、お前が三人を抑えるんだぞ
^^ 無理とか泣き言言うなよっ!! やれっ!!!!
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