⑭ 天使たちと部活体験 中
あの後三人+私で話し合った結果、まず最初に文科系のクラブを回ることにした。
まず最初に家庭科部に来たんだけど、そこでたまたまパンケーキの調理体験をしていてみんなですることになった。
机が二つくっついていて、一つの机にコンロが二つ並んでいる。だから私たちは向かい合って作ることになった。そして何故か、目の前にいる倉橋さんの所からは焦げた変な臭いがする。でも、パンケーキって強火にしないから焦げないはずなんだけどな……
しかしそんなことを指摘できないままだらだらと喋りながら作った後、みんなで作ったパンケーキを食べることになった。
「えっおいしっ! 亜理紗むちゃ料理上手いじゃん!!」
「えっへへへ……」
「…………それに比べて倉橋、君のパンケーキはげろまずだな」
「えっ! ひっど!! 頑張ったのにっ!!」
「萌香ちゃんが頑張ったのは伝わりますが、ちょっとこれは頑張りすぎですね」
変な臭いがしていた倉橋さパンケーキは真っ黒こげになっていたし、その黒焦げから所々黒い粒粒が混じっている。何だろうこれ。
「……倉橋さん、これなんですか?」
「え、タピオカっ!!」
「あぁ……だからなんか食感も悪いのか」
「さっきから酷評過ぎないっ!?」
「事実だろう。逆に聞くが、倉橋はこれをおいしいと思うの?」
「うっ……まずいです……」
真っ黒こげになっているのに中がなんかどろっとしているのはこいつのせいだったのか……大量に入れて残っている奴以外溶けてしまったのだろう。確かに言われてみれば、タピオカの袋を持っていたような……
申し訳なさそうな顔で私のパンケーキを食べている倉橋さんを見ていたたまれなくなったので、ここらへんで一回話をかえることにした。
「私の奴はどうですか!?」
「美味しいよ。ブルーベリージャムの酸味と蜂蜜の甘さがいい感じにあってるね。普段から料理とかするの?」
「一人暮らしなんで、ほぼ毎日自炊してます!」
勿論ストーカーと二人で暮らしていることはばれたくないので隠しておく。もしばれたら嘘の設定を考えないといけない。そうなると説明するのが面倒だ。
ちなみに自炊しているってのは本当だ。引っ越してからはあんまりしていないけど、実家に住んでいた時は三年間ほぼ毎日自炊していた。中学に上がるときに父さんも母さんも昇進しちゃって帰るのがいつも10時とかになったから。三人の分は私が作ることになっていた。
「へぇー偉いねぇ」
「私! 亜理紗が作った料理食べてみたいっ!!」
倉橋さんは目をキラキラ輝かせてこっちを向いてくる。心なしか、神崎さんも少し目が輝いているような気がした。
「私もです。亜理紗ちゃんの手料理、食べてみたいです」
「私も食べてみたいなぁ。パンケーキ、おいしかったし」
「まっ、まぁ、機会があったら作りますね」
いつか三人に弁当作ってみようかな。もし社交辞令で言っているならすごい気まずくなりそうだけど……
こんな風に部活体験も一緒に回ってくれているのに、未だにこの三人が私なんかと仲良くしてくれる理由がわからない。ストーカーもそうだけど、私なんかのどこに魅力を感じているんだろう。
「やったぁ!! 食べに行くねっ!」
「絶対、食べに行きますね」
「えっ」
弁当で済まそうと思っていた私と違い、二人は私の家に来るつもりらしい。神崎さんに関しては絶対行くとか言っているし。
私の家なんてストーカーがいること以外何も面白くないんだけどなぁ……まぁ、そのストーカーがいるせいでうちに誰かを呼ぶことなんてできないんだけどね。
「いっ、いつか、片付いたら呼びますね。まだ、段ボール全部開け切れてなくて」
「そっかぁ…………あっ、そうだっ!!」
「急に大声上げてどうしたんだい?」
さっき以上に目を輝かせている倉橋さん。その輝きは彼女が持っている金色の髪以上に輝いている気がした。
「私たちで荷ほどき手伝えばいいじゃん!!」
「お気持ちだけ受け取りますすいません許してくださいすいません!!」
「即答っ!? しかも長っ!」
あの魔境に彼女たちを呼ぶなんて絶対にできない。ストーカーが外出していたとしても、泊りがけじゃない限り三人とストーカーが接触する可能性が高い。
しかもあの家には倉橋さんとストーカーが選んだ服たちがいっぱい眠ってある。もしあんな恥ずかしい服をまた着せられるってなると、今度こそ本当に死んでしまう。
何が何でも醜悪なゴスロリを三人に見られたくない。というかそもそも、あんなの着たくない。
「もしかして、何か人には見せられないような物があるんじゃないですか?」
「そっ! そんなの持ってないです!!」
「じゃあ、私たちが荷解きを手伝っても何も問題はないと思いますが」
「そっ、そうですけど…………でも、下着とか見られたくないし……」
「ふふっ、可愛いですね。下着なんていつか見るものなんですし、見られても困らないと思いますが」
「ひょっ!?」
いつか見られるってどういうことっ!?!?
「しっ、ししししっしししっ!!!! 下着を見られるって!? どっどどどういうことですかっ!?!?」
「ちょっと亜理紗、声大きすぎ。先輩たちに聞こえちゃうよ。恥ずかしいのもわかるけど」
「すっ、すいません……」
「あと雛! 虐めすぎだよ! 亜理紗が可哀想じゃないか」
「ふふっ、すいません。亜理紗ちゃんの反応が可愛くてつい」
神崎さんは淡々とした口調で話しているが、実際のところ顔はすごいにやにやしていて私を追い詰めるのを楽しんでいるようにも見える。てっ、天使のような人だと思っていたのに……
なんかそういう所がストーカーに似ている気がして、段々とこの人のことが怖くなってきた。軽率に可愛いって言ってくるところも似てる……
でも、御子柴さんが話をさえぎってくれて助かった。あのまま話していたら、完全に神崎さんにぼこぼこに虐められていたと思う。もうこの人怖い……後本当に下着をいつか見るってどういうこと? 私何されるの?
「亜理紗ちゃんは本当に可愛いですね。見てください優、萌香ちゃん。あのあたふたした亜理紗ちゃんを」
「なんか亜理紗って小動物味あっていいよね!」
「確かに小動物みたいで可愛いとは思うけど……でも、それといじめるのは違うだろう雛。反省しなさい」
「わかってますよ。じゃあお詫びに。亜理紗ちゃん、こっちに来てください」
神崎さんはそういって手招きをする。何をするのかわからないけど、とりあえず彼女に近寄ってみる。お詫びって言っているし、変なことはされないだろう。それに拒否った時に何をされるのかもわからないから言うことを素直に聞こう。
「はい。亜理紗ちゃん。座ってください」
「へ?」
神崎さんが指した場所は、彼女の膝だった。
「ここに座ってくれないと、お詫びができないのですが……」
「うっ……」
さっきとは打って変わって泣きそうな表情で私を見てきた。うっ、辞めてっ……その表情は私に効くっ……
天使の様に可愛い顔を持っている神崎さんの泣き顔を見ると、さっきまでイジワルされていたはずなのに罪悪感が止まらない……なっ、なんでだろう……
訳が分からないことだらけだけど、 とりあえず彼女の膝の上に座ってみる。
「ふふっ、いい子」
「ひゃっ」
座った途端いきなり頭を撫でられたと思ったら、今度は空いている方の手をお腹に回してきた。そして、がっちりと彼女の体と腕で私のことをホールドしてきた。
その瞬間、体中が沸騰するかもしれないくらい熱くなる。汗なんかかきたくないのに、そんな私の意志を無視して背中に少しずつ流れていく。
「ひーなー? 反省してるのかい? それ」
「雛? 何してんの?」
「ふふっ、何もしませんから落ち着いてください。二人とも」
そう言いつつ私の頭をずっと撫でてくる。え、私これから何されるの?
「ねぇ亜理紗ちゃん?」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
「私、お詫びとして亜理紗ちゃんにパンケーキを食べさせてあげたいんですけど」
「そっ、そうなんですね……」
「食べさせようと思うと、ちょーっとその前髪が邪魔になると思うんですよね」
「えっ、そっそんなことないんじゃ」
確かに前髪は長いほうだけど、唇はぎりぎり隠れないくらいの長さだ。だから、わざわざよけなくても食べることはできる。現に、さっきまで私は食べられていたし。
本当に何を考えているかわからない。それにさっきから二人も私のことを助けようとしてくれない。どっちか神崎さんのこと止めてくれませんか? このままだったらお詫びと言いつつ彼女が私を虐めてくる気がするんですが。
「でも亜理紗ちゃん。それは自分一人で食べるから大丈夫なんです。私に食べさせられるってなると、この前髪は少し邪魔になるんですよね」
「じゃっ、じゃあ、どうしろと……」
「ふふっ、これです」
頭を撫でるのをやめ、スカートのポケットに手を突っ込んで何かを取り出そうとする神崎さん。その間に二人の様子を見てみるが、倉橋さんは少し悔しそうだけど楽しそうな顔つきで、優さんに関しては頭に手を当てて目を細めている。見るからに暴走気味の神崎さんに呆れている様子だった。え、諦めないでくださいよ御子柴さんっ! あなただけが頼りなんですからっ!!
「じゃーん! これです!」
「へっ、へあぴん……」
「じゃあつけますねー」
「えっちょっ!?」
さっきまで私の意見を聞いてくれていたのに、急に意見を聞かなくなった神崎さんは慣れた手つきで私の前髪にヘアピンをつける。勿論抵抗をしたかったけど、お腹に回された腕と手で器用に両手を押さえつけられていた。
そして視界が段々と開かれ、視界がクリアになっていく。その瞬間、さっきまで髪の毛越しに見ていた二人と目が合った。
「ひぃぃ……」
「ちょ、だっ、大丈夫?」
「えぇっ!? 真っ赤じゃん!」
美しい二人に醜い顔を見られたこととか目が合ったこととかだきしめられていることとか、私には耐えられないことが続いたせいでさっき以上に体が熱い。
「ふふっ、真っ赤ですね。でも、お詫びはこれからですよ?」
のぞき込んでくる神崎さんももちろん美しく、さっきまでイジワルしてきたけどそんなのが気にならなくなるくらいだった。
ま、まぁ? あれくらいの意地悪なら友達同士なら全然あることだよね……思えば、あいつなんかこれ以上に態度も口も悪いし、あたりも強かった気がする。なんで私、あいつと友達してたんだ?
いやあいつのことは今はどうでもいい。どうせ二度と会わないんだし。今は目の前にいる二人と後ろの神崎さんに集中しないと。ただでさえ恥ずかしいのに変なことしたら溶け死んでしまう。
そう思っていた時、ヘアピンが無くなって暇そうにしていた手にフォークが握られる。そして、多分神崎さんが作ったであろう綺麗なパンケーキにそれが差し込まれた。
「はいあーん」
「えっ」
そのフォークは今度は私に向かってやってくる。彼女の手によって。
「うっわ、大胆だな」
「ずる……」
「ふふっ、亜理紗ちゃん。食べないの?」
「たっ、食べます……」
というかこの状況で神崎さんの言うことを聞かないって言う選択肢はなかった。抜け出すこともできないし。
口を開けるのも恥ずかしかったので少しだけ開けてフォークがやってくるのを待つ。
「はい、あーん」
「あむっ……んー!」
神崎さんが作ったパンケーキはさっき食べた物と段違いで美味しかった。もちもちして歯ごたえがいいし、いちごジャムを混ぜたのかいちごの味が少しだけする。しかもそのパンケーキにクリームと蜂蜜がかかっていて甘さとイチゴの酸っぱさが良い感じにあっていた。
「おいしいですか?」
「美味しいです!」
また口を少しだけ開けてパンケーキを催促してみる。恥ずかしいけどパンケーキを食う方法がこれしかないので仕方ない。ここは割り切ることにした。
「ふふっ」
「んぐんぐ」
「はい、あーん」
こんな風に食べさして貰っていたら、知らぬ間にパンケーキが無くなっていた。知らぬ間に御子柴さんが作ったやつも食べてしまったみたいだ。全然違いが判らなかった……
御子柴さんの奴もイチゴ味にしたのか聞こうとしたが、よく見たらさっきまでいた二人が近くにいなかった。え、どこ行ったんだろう。
「そんなに慌てなくても大丈夫です。二人ならあそこにいますよ」
指さされた方向に目を向ける。二人は部員休憩室をいつの間にか抜け出して、さっきまでいた調理室で先輩たちと喋っている。よく見てみると、倉橋さんがパンケーキ作りに再挑戦しているみたいだ。
「もう少しで出来上がりそうなので、まだここでゆっくりこうしていましょうか」
「えっ、でも、膝辛くないですか?」
「大丈夫ですよ。亜理紗ちゃん軽いので」
それならまぁいいか…………ってならない。さっきまではパンケーキ食べていたから仕方ないと思ったけど、今は普通にこの状況が恥ずかしいから降りたいんだけど……
思い出したせいでまた体が熱くなる。早くここから下りないと。それにこのヘアピンも取りたい。あの二人と神崎さんに見られるのは百歩譲っていいけど、先輩たちに見られるのは恥ずかしいし怖い。もしかしたら、この醜悪な顔のせいで虐められるかもしれないし……
「おっ、下ろしてください……」
「本当はもっとたんの……お詫びしたかったのですがいいですよ。恥ずかしい中頑張りましたね。亜理紗ちゃん」
何か別の単語が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。気のせいだと信じたい。
神崎さんから降りてつけていたヘアピンをどっちも外す。それを返してから向こう側に座る。
「恥ずかしいってわかってるなら、もう少し早く、辞めて欲しかったんですけど」
「まぁまぁいいじゃないですか。友だち同士のスキンシップと言うことで」
「それでも、恥ずかしいんですけど……」
なんてぶつくさ文句を言ってみても、神崎さんは微笑ましそうに笑っているだけだった。
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本当は二話で終わらす予定だったけど、思ったより筆が載っちゃったので三部にします。次回は運動部編! こうご期待っ! それが終わったらもっと変態お姉ちゃんとの絡みが増えるのでしばしお待ちをっ!!
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