第3話

 ギルドの女性職員に、買い物の仕方やお金の価値などを教えてもらいつつ、服などのすぐに必要なものを購入することとなった。

 ギルバートは早々に「僕は少し離れたところにいるので」と言い離脱した。下着なども購入することを考えれば妥当な判断だろう。


「レイカちゃんはこっちも似合うと思う! あ、これも可愛い〜。こっちもどう?」


 彼女は、私がギルドで世話になった女性職員だ。名前はエレナというらしい。すばしっこく動き、私に似合いそうな服を見つけては「これはどう?」「こっちは?」と次々に持ってくる。今日が初対面だというのに、やたらとテンションが高い。まるで友人と買い物に来ているかのようだ。


「あの……お金とかって、どうなっているんでしょう」


 エレナさんの勢いに気圧されそうになりつつも、私は気になっていたことを聞いた。

 ギルバートさんから渡されているのだろうが、必要以上のお金が渡されているとは思えない。買えても下着と服を上下1セットずつが限界なのではないだろうか。こんなたくさん選んだところで意味がないのでは……。


「ああ、安心して! 全部買っても足りるから!」

「……?」


 エレナさんのイマイチ言葉の足りない答えに、私は首を傾げた。


「……お金って、ギルバートさんから出てるんですよね?」

「ギルドから出てる分もあるけど、ほとんどはそうだね〜。あ、どのくらいあるか気になるかな? ちょっと待ってね〜」


 エレナさんはガサゴソとカバンを漁り、中から手のひらほどのサイズの布袋を取り出した。

 紐を緩めて袋を開けると、硬貨を数枚取り出す。


「これが銅貨、これが銀貨で、……これは金貨。はい」


 エレナさんはそう言いながら、それぞれの硬貨を一枚ずつ私の手のひらに乗せていく。金貨の時だけやたらと声を潜めて乗せた。

 私はしばらく金貨を見つめたあと、顔を上げてエレナさんの方を見た。


「服の相場って、いくらくらいなんですか?」

「うーん……安くて、銅貨二十枚とか?」

「銀貨と金貨って、銅貨の何倍くらいなんでしょうか」

「銀貨は銅貨の百倍、金貨は銀貨の百倍くらいかな!」

「……」


 開けっぱなしの布袋に視線をやる。私の手のひらに乗せられた金貨が、布袋の中にもあと数枚入っている。

 金貨が銀貨の百倍ということは、銅貨の一万倍ということだ。


 日本円に換算したとして、仮に銅貨を百円としたとき、金貨は百万円になる。それが数枚。どう考えても持たせすぎだろう。

 無言のままそっと布袋に硬貨を戻した。エレナさんも取り出した硬貨を布袋に戻し、口を締める。


「……この服って、どれくらいの値段なんですか?」

「これ? これはね……。えーと、3500ウェンだから…………銅貨35枚かな!」

「こっちは?」

「こっちは4000ウェンだから、……銅貨40枚!」

「なるほど……ありがとうございます」


 この店の服の値段がやたら高いわけでもないらしい。


「あの、お金こんなにいらないですよね」

「……うん!」


 よくよく見ると、エレナさんの布袋を持つ手が震えている。そりゃあそうだろう。彼女の給料何ヶ月分かがその布袋の中に入っているのだ。なくしたり盗られたり……なんて、考えたくもない。心なしかエレナさんの顔色が青ざめているように見える。


「……服を上下2セット買ったら、一旦返しに行きましょう」

「そうだねっ! 私もそれがいいと思う!」


 エレナさんの声はともかく、私の声も心なしか震えているような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る