11日目



彼女と初めて会ったのは、

いつだったろう。


第一印象は、白。

完全で、全き、白だった。


彼女で黒いところといえば、

黒曜石のように艶やかな髪だけだった。


俺とは全くの正反対。

俺は、薄汚れた野良犬だ。


あの日――初めて出会ったあの日、

あの優しい笑顔を、俺に向けてくれた。


あの日、俺の運命は、

彼女のためにあることを知った。


だから俺は、彼女のためなら――

この魂が焼き尽くされようとも、

命が消え去ろうとも。


すべてを喪ったあの日を。

還ることのないあの日を。

必ず、すべてを取り返して、

彼女をここの手に







「まだ梅雨明けしてなかったよねー」


6月が終わろうとしてるのに、梅雨明け宣言は出てない……はずなのに。


「暑い、暑すぎる!」


だって見てよ、あの空!


蒼く――ただ蒼く。


高く――ただ高く。


夏特有の、透き通るほどの高く蒼い空。


見上げると吸い込まれて、


そのまま高く消え去ってしまいそうな、


あの空。


……ぐらいは、夏なんだって!


つい詩を口ずさみたくなるくらいに、

ホントに夏、なんだよね。


何度も繰り返して言いたくなるくらい、

季節が変わった気がする。


午後4時を過ぎて、陽が少し傾き、

街に赤い色が差しはじめていた。


私が今いる商店街は、けっこう大きくて、

端から端まで1kmくらい。

ゆっくり見て歩くと、2時間はかかる。


その商店街を、晩御飯の買い出しをしながら歩いていると……


おお、あれは――うちの愚妹ではないか!


「カナタ、あれ……?」


一人じゃない。

あの隣の男は……確かこの間のキムタク!


2人は、お互いの距離をはかりながら、

相手を見ながら――それでも楽しそうに歩いていた。


夕日に向かって歩く二人の影が、

揺れながら、ついたり離れたり。


……それを見ながら思う。


あのときの彼の涙。

その想い。


私は、そんなふうに涙を流せるほど、

誰かに、何かに、真っ直ぐ向き合えるだろうか、と。


そんな、あれこれ思い悩みながら、

二人の影がゆっくりと伸びていくのを、ぼんやり眺めていた。





その日は珍しく、パパとママが早く帰ってきて、

家族5人で――……5人!?


いやいや、うちは4人家族!


あと1人は……!


「ユリア! 何しれっと家族の中に入ってんの!」


「ハルカ先輩がまったく気づかれないので、いつ気づくか途中から面白くなってしまって……申し訳ありません♪」


満面の笑みで言いやがって、このやろう!


「お姉ちゃん、ユリアちゃん、1時間くらい前からいたよ」


そんな前から⁉


「それにしても先輩、いつもならすぐにツッコんでくるのに、全然気づかないなんて……何か悩みごとでも?」


この子に堂院の告白のことしゃべったら、とんでもないことになる……

ここはなんとかごまかして――


「ハルカ、こないだ堂院くんに告白されたみたいだから、それじゃない?」


ママぁぁぁぁ!?


このボス猿が、とんでもないことを言い出しやがった!!


おそるおそるユリアを見ると、

そこだけエベレストの山頂のように吹雪いていた。


隣のパパなんかガタガタ震えてるよー!


「ユ、ユリア、落ち着いて、ね? ねっ!」


「身の程もわきまえず……野良犬の分際で……万死に値します……!」


ユリアの目から光がなくなって、

背後に黒いオーラが!!


「氷室さん、少しいいかな?」


「はいっ、お義父様!」


一瞬で通常営業に戻るユリア。


「氷室さんがハルカのことを心配してくれるのは嬉しいんだけど、

 ここはハルカのことを信じて、見守ってやってくれないかな?」


それを聞いたユリアは、冷静な顔に戻って、パパに向き直る。


「勿論です、お義父様。

 わたくし、ハルカ先輩のことは最も信頼しておりますもの」


先ほどまでの取り乱しようが嘘のように、

少し微笑んで、


「先輩、申し訳ありませんでした。

 少々取り乱しましたが、わたくしはすべてのことに、先輩の選択を尊重いたします。

 それがどれだけ不条理なことだとしても」


この子も――堂院と同じだ。


瞳の力が、真っ直ぐ私を貫いていく。






ユリアが帰った後、カナタが、


「お姉ちゃん、ちょっといいかな」


「なに?」


2人でリビングのソファに座る。


「最近ね、わたし、この間の木村くんと一緒に帰ることが増えてきたんだけど」


「今日、商店街で見かけたよ」


「一緒に帰りはじめて思ったんだ。話してはじめて、わかることって多いんだなーって」


カナタは私をじっと見つめて、


「やっぱり人間って、言ってもらわないとわかんないことってあるじゃん?

 わかんないから不安になるんだよ。

 だからさ、お姉ちゃんも堂院くんやユリアちゃんと、もっとお話しして。

 お互いを知ることが、大事なんじゃないかなって思うんだ」


言われて、気づいた。


そうだ、私――堂院ともユリアとも、

深いところで触れあえてないんだ。


だから、不安なんだ。


自分の足元が、何もないような。

不安定な気持ち。


何も知らないから。

どうしていいか、わからない。


私は、「知らないこと」を認めよう。


「わからないこと」を、わかろう。


2人を知って、私を知ろう。


自分のために。


「カナタ、ありがとう。もっと話して、もっと2人を知ろうと思う」


「がんばって、お姉ちゃん。わたしはずっと、お姉ちゃんの味方だよ」


カナタの成長がいちじるしい。

私も、頑張らねば!





スーパーガンテツ―――――――――――




「堂院、あんた次の週末空いてる?」


バイト終わりの事務所で、私は堂院に聞いてみた。


「あ、あぁ……多分空いてる……」


「じゃあ、デートしよう!」


「デート!? ……ほ、本当?」


あまりにもびっくりしすぎて、口が開きっぱなしなんだけど。


「やっぱさ、私、堂院のこともっと知りたいし……

 だから、デートしよう!」


私がそう言うと、彼は満面の笑みで、


「俺がんばる! がんばってエスコートするから……ありがとう、ハルカちゃん!

 こうしてはいられん! 早速帰って相談しないと! ハルカちゃん、先に帰るね!」


そう言って、ものすごいスピードで帰っていった。


「次はユリア、ね」


家に帰ったあと、さっそくユリアにLINEする。


『ユリア、今週末空いてる?』


『先輩に言われて、空いてない週末などあり得ません』


『じゃあ、一緒に出かけない?』


『行きますっ! 行かせていただきます!』


『OK! また連絡する』


『お待ちしております! 一日千秋の思いでお待ちしております!』


よし、これで三人でお出かけだー!


ん? ……なんか忘れてる気が……


ま、いっか!


よし! 頑張るぞー!!






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