10日目



 東京も梅雨に入った。

 

 灰色の空が泣いてる。

 

 私の心も泣いてる。


 シトシト、ピチャピチャ、


 私の目の前のカフェの窓ガラスからも

大粒の雨が糸を引くように落ちてくるのが見える。


  コンコン……


 不意に窓ガラスが叩かれる。

 

 顔を上げる。


「ママ!?なんで……」


 何だか泣きそうになる。

 ジェスチャーで、そっちに行くねって、

 そして直ぐに店内に入ってきた。


「ハルカ、笑いなさい。幸せが逃げちゃうよ」


 ママが微笑みながら私の背中に手を回す。

 

 じんわりとあったかい。

 

 いつも、私が落ち込むとこうやって背中を撫でてくれる。


「実は……あのね、この間告白されたんだ……」

「堂院くん?」

「……なんでわかんの、ママ?」

「そりゃ、母親だからね。そばで娘を見てれば色々分かることもあるのよ」


 ママは注文したコーヒーを飲みながら、


「この間、バイトの帰りに会ったでしょ?あの時彼ふざけた感じでしゃべってたけど目が真剣だったから」

「えっ!?……全然わかんなかった……」

「そこら辺はあんたとママじゃ、くぐってきた修羅場の数が違うわよ」


 ママの修羅場はホントに修羅場だけどね。


「高校の時からずっと一緒で気の合う友達でしかなかったから、好きって言われてもどうして良いか分かんなくて」


 ママが私の肩をギュッと抱きしめてくれる。


「ハルカ。あんたが悩む必要なんてないんだよ。あんたは自由なんだから。ハルカはハルカの思うように生きれば良いんだよ?」

「でも、何か答えないといけない気がして……」

「ハルカにそんな義務なんかないじゃない。もし何も決められないなら決めなくて良いのよ」


 ママが更にギュッと抱き締めてくれる。


「ハルカ、あなたが思うようにしなさい。

 それで何か文句言って来たらママに言いな、ママが話つけてやるから、ね」


 何故だか私の目から涙が溢れる。

 やっぱりママは最高だ!

 いつも家族を気にかけて、いつも見守ってくれる。

  私、ママの娘でしあわせだ


「ありがとう、ママ!」

「でもね避妊はしっかりするのよ。男任せはダメ!」

「ママ!!」


 もう!色々台無しだ。


 でも、ホントにありがとう、ママ。



 梅雨の晴れ間。


 熱い! なんでこんなに熱いの!

 さっきスマホみたら30度だった。

 今日は午前中講義があって昼からは完全に空いたので久し振りにあの娘と会える。


「ハルカ!」

「鈴花!」


 ホントにこの娘は変わらない。童顔で子供の様な高い声。二重のぱっちりした瞳にぷっくりした唇、長く伸ばした黒髪をお下げにしてる。その容姿も相まって中学生にしか見えないんだよね。

 


「どした。何かあった?ハルカ」


 それにすごく感が鋭い。ちょっとした事でこの娘は勘づくんだよね。頭もすごく良いし。


「いや~最近色々あってね~。」

「男か。」


 ――――――――ギクッ!!

 なんでわかるの!?幾らなんでも鋭すぎる。

 エスパーなの?


「あんたホントに鋭いね」

「ふん。やっと言ったか、あの男」

「えっ!?ど、どういう、……」


 私達は近くにあったベンチに座る。


「堂院でしょ」

「知ってたの!?」

「堂院、それこそ一緒に居るときはあんたの事ずっと見てたから周りは全員知ってたよ。アイツわかりやすいから」


 その言葉を聞いて衝撃を受ける。

 私、全然気づかなかった。


「それで。ハルカ、どうすんの?」

「それで悩んでんだよね。友達だとしか思ってなかったから」


 それを聞いた鈴花は、


「あんな嘘つきはオススメ出来ないけどなー」

「堂院は嘘つきじゃない!」


 不意に強い言葉が出た。

 なんでかは、わからないけど。

鈴花はそれを聞いた途端真剣な顔で、


「でも、アイツがハルカの為に嘘をついてる事はホントだよ。」

「私のため?……どういう事?」


 鈴花が私から不意に目を反らして、


「あの子の業も罪深いものね」

「……何か言った鈴花?」

「ううん、何でもない。私はハルカがどうしたいかだと思う」

「ママにも同じこと言われたよ。決められないなら決めなくて良いって。」


 鈴花は静かに頷くと、


「それで良いと思う。決められないなら、決めないって言うのも手だと思うよ」

「ホントに良いのかな?何か悪い気がして……」

「ハルカらしくないよ。あんたはね、自由だよ」


 自由か。……そうだね、私は


 自由だ。


 だから、決めなくて良いことを


 決めよう。


「うん!ありがとう、鈴花。吹っ切れた!」

「そう、なら良かった。じゃ、ご飯行こ、ご飯。お腹空いた~」


 やっぱり、相談して良かった。

 頼りになるよ、石原鈴花!




 今日も今日とて、大忙しのスーパーガンテツ。


「店長!今のうちに休憩取ります!」

「あ、あぁ行ってらっしゃい!」

「堂院も一緒に行くよ」


 やっぱり足がガクブルになって、今にも

 倒れそうな堂院を連れて事務所に休憩に入る。


「ハルカちゃん、今日は俺がおごるよ。

 何がイイ?」


 珍しく堂院が奢ってくれるらしい。


「じゃあ、私ミルクティーね」

「了解!」


 堂院が自販機で飲み物を買ってきて

 2人で隣り合って椅子に座る。


「「あの、」」


 同時にしゃべり出しちゃった。


「ど、堂院から、どうぞ!」

「えっ、あ、あぁじゃあ、先に言うね」

「うん」


 そう言うと堂院は私に向き直って喋り始めた。いつもと違って真剣な表情で。


「ハルカちゃん。こないだの事なんだけど俺真剣に君の事が好きなんだ。ずっと前から君を想ってた。この想いは嘘じゃない」


 堂院の目が私を見つめる。


 いつか見た瞳


 懐かしい思い


 あったかくなるような


 悲しいような


 堂院と居るとたまにすごく切なくなる。

 これはどういう感情なのかは、わからないけど、一番近いのは懐かしい、そんな感じ。


「堂院に好意を持たれるのは嬉しいよ。」

「じ、じゃあ、」

「待って、堂院。嬉しいんだけど私堂院の事好きなのかどうかわかんないよ。堂院の事友達としか見てなかったから。だから今は決められない。」


 堂院は少し溜め息をついて、


「そうか。でも全く可能性がない訳じゃないんだよね」

「うん」

「ならしょうがない。俺はいつまでも待つよ。今までも待ってきたんだから。こうやって話しが出来る

 だけでも奇跡なんだから」


 そう言うと彼は少し寂しそうに、笑った。


「ありがとう、堂院。でも、もし他に好きな子が出来たらそっちに行っても良いんだからね。あんたも自由で良いんだから」


 その言葉を聞いた瞬間、


 堂院は大きく瞳を見開いて、


 そして


 一筋涙を零した。


「ハルカちゃん、どうしたの?」

「えっ!?何?」

「だって泣いてるから」



 何故だか私の瞳からも


 涙が溢れていた。


「えっ、な、何?イヤッ、もらい泣きよ、もらい泣き!あんたの涙につられたのよ!」

「そうかもね。いや、きっとそうだ。」


 堂院が右手を差し出す。


「また、君に告白する。いつかきっと。

 その時は君を必ず俺に惚れさせるから。

 覚悟しておいて」

「望むところよ!ちゃんと私にあんたの事惚れさせてみてよ」


 そう言って私達は握手した。




私達は何処に行くのかな……


 そして私の心は何を選ぶんだろ……


 

 

 


 

 

 



 

 


 


 

 

 

 


 

 

 


 

 

 


 

 

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