6日目


                      


                    

 街に雨がふる。

 まだ梅雨入りしていないはずの東京に、

 昨日から雨が、ふり続けている。

 いつもの学校への道。

 この春から、高3になって、それでも

 代わり映えしない毎日が続いてる。

 いつもの道、

 いつもの顔、

 そして、僕。

 何もない灰色の日々。

 いつものパン屋で、いつものパンを買う。

 


「いらっしゃいませ!」


 天使がいた。

 背中の半ばまで伸びた艶やかな黒髪。

 さくら色の唇。

 大きな黒目がちの瞳。

 真っ直ぐに伸びた鼻。

 白い肌は桃色の花が咲いてるようだ。


「どうかしましたか?」


 涼やかな、キレイな声。

 首をかしげる仕草すら、美しい。

 同じ人間なんだろうか?

 そう思わせる神々しさがあった。



 次に気が付いたのは、自宅の前だった。

 彼女を見た後からの記憶がない。

 それ程の衝撃だった。

 あの店は、あの時間は高校生のバイトが

 入ってる筈だから。

 あぁ、もう一度会いたい!

 会って話したい!


 「明日もバイトしてるかな?」



「ユリア。あんた最近、うちに居ること多くない?」


 うちのリビングで自宅の様にくつろぎながら

 紅茶を優雅に飲むユリア。


「ハルカ先輩。初めに言っておきますが、

 本日、お伺いしたのは、カナタちゃんに

 相談が有ると言われたからなのですよ」

「いや!あんた、昨日もいたよね!?」

「昨日は……………まぁ、宜しいではないですか」


  よろしくないっ!!


「でも、その本人がいないじゃない?」

「すぐ帰るから、先に帰ってて、と言われたのですが…」

「ん?あんた、鍵は?」

「当然、合鍵を持っておりますが?」

「なんで、持ってるのよ!」

「それは、…………たまたま?」

「たまたまって、何よ!たまたまって!!」


 当たり前の事の様に、澄ましてるユリア。

 えっ!? これ普通?……私がおかしいの?


「いやいやいや!そんな訳あるか――!!」


「お姉ちゃん!」


 なんか、緊迫した表情で帰ってきたカナタ。


「ど、どうしたの?何かあった!?」

「誰かに追いかけられたの!」

「と、取り敢えず落ち着いて。お茶いれるね!」



「少しは落ち着いた?」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん。」

 カナタは新しく淹れ直した紅茶のカップを

 手で包むようにして、

「実は、ユリアちゃんに相談したかったのも

 最近誰かに付きまとわれてるみたいで。」

「カナタちゃん。詳しく聞いても?」


 そう言うとユリアはカナタに向き直る。


「わたし、先週からパン屋さんでバイトしてるんだけど」

「あぁ、そう言えば、バイトするって言ってたもんね」

「うん。でね、3日ぐらい前から、帰り道、

 誰かに追いかけられてるみたいで…」

「それはいけませんね。…カナタちゃん、うちの警備部に少し調査して貰いましょう」

「えーっ。ユリアちゃん、いいの?」

「勿論です。カナタちゃんは、ハルカ先輩の妹

 なのですから、私の義妹も同然なのですから!」


 いやいや、あんた、今の、いもうと、って

 言い方、不穏なオーラ出てるよね!?


「先輩。これでお暇して早速調査致します」

「毎回、悪いね。何か今度埋め合わせするから」

 

 そう言うと、ユリアが、怖いくらい満面の

 笑みを浮かべて、


「それは、楽しみですわ。」


 そう言いながら帰ってった。


 

めずらしく、素直に帰ったなー。

  いつも、こうだったらいいのに。



マンションの車寄せに黒のリムジンが、

 音もなく滑り込んで来る。

 運転席から男が降りてきて素早く後部座席の

 ドアを開けた。

 それは、この間、斑目と呼ばれた男だった。

 ユリアは乗り込むと、すぐさま運転席の

 斑目に、


「十三、"アレ"の出現情報は何か上がっていますか?」

「いえ、姫様」

「"アレ"が出現したならば、わたくしの魄動で

 わかるはずね」

「ここ十年では、"アレ"が東京に舞い戻って

 いる事は無いかと」

「では、今回の件、"影"を使い対処しなさい」

「御意」

「くれぐれも、橘家の皆様に気取られぬ様に」

「かしこまりました」


("アレ"で無ければ良いのですが…)


 リムジンが夜の闇の中に消えて行った。




「お姉ちゃん、お迎えなんか良かったのに」


 昨日の話を聞いて、カナタの迎えに

 来た私。


  パパとママにも頼まれたからね!


「なに言ってるのよ。昨日、みたいな事あって

 1人で夜道を歩かせられる訳ないじゃん!」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 話しながら家までの道を歩いてると、

 確かに後ろからウロチョロしてる気配がする。


「あっ!?靴ひもほどけてる。カナタちょっと待って」


 そうして、靴ひもを結ぶふりをして

 後ろを見ると、


 (あれ?あの制服…うちの高校じゃん!)


『カナタ、小さい声で話して。後ろから

 来てるやつ、同じ学校の男の子だよ』

『えっ、何か用なのかな?』


 (これ、やっぱアレだよね…よーし、こうなったら)


「後ろのアンタ!ちょっと来なさい!!」


 そう言って、後ろの暗がりに叫ぶと

 ゆっくりと、カナタと同い年くらいの

 男の子が出てきた。


「どういう事!うちの妹をつけ狙って。

 返答によったら、ただじゃおかないわよ!!」

「い、いや、そんなんじゃないんです!」

 

 男の子が言うと、

 

「い、妹さんと、と、友達になれたらって、

 で、でも、どう話しかけて良いのかわからなくて…」

「やっぱり。カナタ、どうする?」

「えっ?で、でも、どうしたらいい?お姉ちゃん」

「君、ちょっと来な。」

 

 男の子が近づいてきて、


「あのね。伝えたいことがあるんなら、ちゃんと言いなさい。言わなきゃわかんないじゃん」


 そしたら、男の子は震えながら、


「あ、あの、もし良ければ、学校で会ったら

 挨拶し合うような、友達になってくれませんか?」

「えっ?あっ、…うん。それぐらいなら、…

 いいよ!」

「ほ、本当ですか?」

「君、名前は?」

「あっ、すいません!僕、木村拓哉と言います」


 キムタク? 名前負けにも程があるわ!


「木村君。もうこんな事したら駄目だよ」


「本当にそうですわ。3Bの木村拓哉君。

 生徒会長としても警告致します」

「ユリア!いきなり出てくるなって言ってるよね!!」


 いつの間にか、ユリアが私の背後に!

 こんな背後霊は、イヤダ――――!!




「でも、何もなくてよかったね。カナタ」

「ホント!ありがとう。お姉ちゃん、ユリアちゃん」

「可愛い、義妹の為ですもの、どうと言うことはありません!」


 いもうと?い、いや、気にしたら負けだ!


「でも、木村君を見て恋するって良いなーって

 思ったよ」

 うちのリビングで、みんなでクッキーを

 つつきながら、

「先輩、男っ気無かったですものね」

「うん。お姉ちゃん、バスケ部の王子様

 だったもんね」

「本当に。王女じゃ無い所が先輩らしいのですが」


  コ、コイツら人の古傷を…

 

「で、でも、恋する事って、キラキラして

 なんか、キレイだなって思ったよ」

「では先輩。わたくしもキレイだと思って

 らっしゃるのてすね!」

「思ってない!思ってないから!!」


  もう、この子どうにかしてー!


  保護者の人、お願い――!!

 

 


 

 



 


 

 

 


 

 

 

 

 

 



 


 

 

 

 

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