第38話【真贋と報告】
最初に補足説明です。
本話ではセロハンテープとOPPテープについての説明が出てきますが、こちらはAIに違いを出力してもらい、それをネットで調べてから自身の言葉で記載したものです。しかしながら、この説明が誤っている可能性がありますので、ご理解をいただけますと幸いです。
宝石鑑定士の澪と、旦陽、湊、横溝の3人は展示室Aに移動した。
本来なら安全のために金庫などに閉まっておくべきではあるのだが、丹下会長の指示で展示したままになっている。
なお、昨日の騒ぎがあったため、今日のところは休館としている。
ちなみに、理沙は警備室で監視カメラを穴の空くほど見ているため、宝石鑑定士が来ていることにも気づいていない。
「坂下さん、こちらが”黒薔薇の首飾り”です」
旦陽が警備システムを止めると、慎重に透明な硝子ケースを開けて”黒薔薇の首飾り”を取り出した。
湊が見た限りでは偽物ではあったが、実際に偽物かどうかは宝石鑑定士に見て貰う他ない。
「それでは拝見します」
旦陽は”黒薔薇の首飾り”を澪に渡したあと、硝子ケースを戻した。
澪は、その硝子ケースの上に”黒薔薇の首飾り”を置いて、慎重に確認を始めた。
それを邪魔しないように、旦陽は湊たちの元へと移動した。
「ふむ……」
澪は、”黒薔薇の首飾り”を上から下から隅々まで色々な角度で確認する。
それからしばらくして、鑑定具を置いてから静かにつぶやいた。
「なるほど……」
「坂下さん、結果は?」
横溝刑事が、待ちきれない、とばかりに質問をした。
澪が静かにこちら側を向いて答えた。
「この”黒薔薇の首飾り”は、確かに偽物です。」
澪がそう言うと、隣で湊が「やはりな」とつぶやいた。
それとは対照的に、横溝刑事は苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。
(やはりこの男、何か怪しいな……)
旦陽は心の中で思ったが証拠がないため、一旦保留にした。
昨日も似たようなことがあったが、あの時から一向に「怪しいけれど決定的な証拠」が見つからないため、詰められないでいた。
「一条さん、やはり、というのは?」
「ああ、いや。最初に確認したのは俺なんだが、その時に偽物だと考えたんだ。俺の考えだけでは不安だったが、宝石鑑定士のお墨付きがもらえると、一気に信憑性が増すな」
「そうでしたか。これほど素晴らしい”黒薔薇の首飾り”を偽物と見分けられるのは、相当な鑑定力をお持ちのようですね。ぜひ、うちに来てほしいです」
澪は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、湊を勧誘し始めた。
探偵が宝飾店にいるのも面白いかもしれないな、と湊は思いつつも、丁重にお断りをしていた。
「しかし、それが本当に偽物だったとして、本物は一体どこに行ったのでしょうか?」
「そこなのよね。事件が起きてからのカメラを調べても、すり替えられたような映像は残っていないし……」
「唯一怪しいのは、乱れた映像だが……」
「そういえば乱れた映像といえば、あの映像も科捜研に回してあるわ。外の監視カメラに残っていたテープの破片の結果と共にくれるように言ってあるわ」
旦陽が湊にそう伝えるのとほぼ同時に、1人の刑事が展示室Aに勢いよく入ってきた。
見たことがある人だったので、横溝刑事の部下であろう。
「か、柏原警部補にご連絡です。さきほど、科捜研より鑑定データが届きました」
「分かったわ、すぐ行く。っと、その前に……」
移動前に、”黒薔薇の首飾り”を硝子ケースの中に戻してから防犯センサーを再起動させた。
偽物とはいえ、離れている間に盗まれたのではたまったものではない。
4人は顔を見合わせて一緒に警備室へと戻った。
警備室へ戻ると、科捜研からのデータが入ったパソコンを持った鑑識課員がいた。
澪にはソファに座ってもらい、湊、旦陽、横溝の3人で確認を行った。
「あ、柏原警部補。こちらが、科捜研からのデータです」
鑑識課員がデータファイルをクリックすると、いくつかの情報が入っていた。
一つ目が、正面玄関の真ん前に設置されていた監視カメラの映像データを解析したもの、二つ目が、その監視カメラについていたテープの破片の鑑定結果、三つ目が、乱れた映像データに関する報告だ。
「順番に見せて」
「はい」
鑑識課員が一つ目のデータを開いた。
正面玄関の目の前に設置されていたカメラの映像データの解析結果だ。
「”特段重要と思われる映像データは存在していなかった。但し、一点気になる映像があったため、柏原警部補の貸与スマホに送信する”、か」
その文言を確認後、旦陽はスマホを取り出して、科捜研から送られてきたデータを確認した。
「柏原警部補?」
「いえ、何でもないわ。特に気にするまでもない内容よ」
旦陽はすぐにスマホをポケットにしまった。
鑑識課員に、次のデータを表示するように指示をすると、次のデータが表示された。
「”提出物は透明であるが、加熱分解および赤外分光分析の結果、基材はセルロースではなくポリプロピレンで構成されており、本件テープは通称『セロハンテープ』ではなく、OPPテープと推定される”」
「セロハンテープではない?」
「OPPテープ、か……」
現在、百円ショップや一般のお店で購入できるテープには、大きく分けて2種類存在している。それが、セロハンテープとOPPテープと呼ばれるものだ。
両者は似ているものだが、OPPテープはプラスチック素材であるポリプロピレン製で、粘着力が強いため、痕が残りやすい。一方でセロハンテープは、植物由来のセルロースから作られており、比較的痕が残りにくい。
「OPPテープの方が粘着力が強い。ということは、その分痕が残りやすいということだ。“立つ鳥跡を濁さず”――自らの証拠を残さないファントム・ネピアが、そんなテープを使うと思うか?」
湊の指摘ももっともだ。
「だが、こうして科捜研のデータとして出ている以上、それは紛れもない事実だ。鑑定が間違っている可能性は限りなく低いだろう」
「確かにそれはそうだろうな。それで、最後の内容はなんだ?」
湊が促すと、三つ目のデータファイルを開いた。
その中には、乱れた映像データについての解析結果が書かれていた。
「”提供された映像データの復元は行ったが、前後の内容から連続している映像であり、他に編集が施された形跡は発見出来なかった。よって、復元を行った映像を添付して送付する”」
「なに?」
「映像が乱れていたのは、本当にただの乱れ……?」
「……」
科捜研からの報告書を見て、湊は考え込んだ。
送られてきた映像データを見ても、確かに乱れたところは前後の映像データと同じで、特段怪しいところは一切無かった。
「……ならば、なぜ乱れていた……? 何かを隠すためではなかった、ということか……」
科捜研からの報告で、更に謎が深まるだけだった……。
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