No.0411『FAQ:事故物件の報告方法』

【内部通達文書 No.0411】

作成日:2025年4月11日

作成者:業務支援部 カスタマーFAQ管理課 担当Y

機密区分:社内限定(アクセスレベルC)

件名:FAQ内「事故物件報告方法」に関する自己増殖的更新の調査


* * *


本報告書は、当社公式FAQシステムに掲載された

「事故物件に該当するケースの報告方法」において、

未許可の更新および分類の自動拡張が確認された事案に関する記録である。


事案は、2025年3月末にカスタマー対応課の職員より「FAQ内に見覚えのない質問が増えている」との報告があり発覚した。


該当するFAQ項目は、管理画面上では「事故物件の報告」に関するカテゴリに限定されていたが、4月1日時点で確認された分類数は、前回改訂時(2024年12月)の9項目から、21項目へと自動増加していた。


また、そのうちのいくつかは社内文書に存在しない語句、ならびに不明瞭な死因・構造上の不整合を含む記述が確認されている。


* * *


以下は、4月2日時点で確認された事故物件に関する質問カテゴリの一部抜粋である。赤字は、社内規定外の“異常項目”と判断されたもの。


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Q4-3. 窓の外に人影が見えるが、他の住民ではない場合も報告の対象ですか?

A. 物件外で確認された“人物と思しき存在”は対象外ですが、継続して視認される場合、通達No.013-Aに基づき「痕跡残存型事象」として報告してください。


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Q4-8. 壁の中から誰かが話しかけてきますが、誰も確認できません。

A. 音声現象が単独で発生している場合は対象外です。

ただし、該当音声が特定の部屋番号を繰り返す場合は「名指し型物件」として報告義務が発生します。


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Q4-11. 入居者が“まだ生きているのに”物件情報に死亡歴が登録されています。

A. システムエラーの可能性がありますが、該当者がその後に実際死亡した場合、予見的登録と見なされ報告義務は免除されます。


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Q4-13. すでに報告した“事故”が、FAQから削除されています。なぜですか?

A. 当該事故が未発生と判断されたためです。FAQは常に最適な状態に更新されます。


* * *


以下は、事故物件に関するFAQ項目のうち、異常な自動改訂が確認された2項目の更新前と更新後の比較である。


【Q4-9:更新前(2024年12月版)】

Q. 過去に孤独死が発生した部屋は事故物件になりますか?

A. 原則として死亡後一定期間発見されなかった場合に該当します。


【Q4-9:更新後(2025年4月2日時点)】

Q. 過去に“発見されていない死”があったとされる部屋は事故物件になりますか?

A. 発見されていない死、または他者が「死があった」と報告した部屋も対象となることがあります。

報告者が記録上に存在しない場合でも、申告内容により「成立」と見なされる可能性があります。


→ この改訂では「報告者が記録上に存在しない場合でも」という一文が自動挿入されていた。

当社では「報告者が存在しない」という状況の前例は確認されていない。


* * *


4月3日、担当Y(本報告書作成者)のアカウントがFAQ管理画面よりログアウトされ、以降ログイン不能の状態が継続。


同日午後、FAQ項目「Q4-17」が新規追加されていることが確認された。

作成者欄には「Y田 啓吾(管理担当)」と表示されていたが、該当人物は当社に存在しない。


【Q4-17】

Q. この物件に報告された事故について、どのように削除申請すればよいですか?

A. 削除はできません。

事故があったのは“あなた自身”であると記録されています。


本項目は現在も削除できない状態にあり、Y田の社員台帳への登録も確認されていない。


本報告書は自動バックアップフォルダより復元されたものであり、正式な提出記録は残されていない。


* * *


【手書き追記】


FAQは更新され続ける。

本当に“なかったこと”になるのは、事故ではなく、

それを見た人間のほうだ。


– K

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