《記録者K:報告書ファイル》

記録者K

No.0214『就業規則第13条』

【機密報告書 No.0214】

作成日:2025年3月14日

作成者:人事管理部 内部記録課 担当H

機密区分:社内秘(レベルC)

件名:就業規則第13条に関する事案報告


* * *


本報告書は、2025年2月より当社第3業務部門にて発生した複数名の“退職未申告消失”事案についての記録である。


当該部署において、本人意思によらず、かつ記録上も退職処理がなされた社員が3名以上確認されたことから、社内規程の整合性確認および規則運用の再精査を目的として作成された。


なお、すでに当該部署の管理担当者および直属上司2名も不在状態にあり、事情聴取は叶っていない。


* * *


【2月2日(月)】

業務部職員・加藤絢斗(ID:A23155)の出社ログが途絶。以降、社内SNS・タイムカード・座席記録いずれにも痕跡が確認できず。総務部が調査を開始するも、直属上司は「数日前に退職の申し出があった」と回答。


→ 退職届、メール記録ともに存在せず。人事管理台帳からも「加藤絢斗」のエントリ自体が削除。


【2月6日(木)】

加藤の同僚である職員・西田優理(ID:A23098)が、「自分のIDにログインできない」と相談。翌日には出社記録ごと抹消。


【2月10日(月)】

人事管理部が全社員リストを精査したところ、2024年6月以降に採用された職員14名のうち、実働中の確認が取れているのは5名のみであった。


→ 残る9名のうち4名は、上司から「既に退職した」「配属されていない」という回答。

→ 人事データベース上にも該当エントリが見つからず、“採用された記録”そのものが無いケースも存在。


* * *


以下は、社内に残された旧版就業規則のうち、2023年4月改訂版にのみ記載されていたとされる条文の写しである。現在発行されている最新版(2024年1月改訂版)には、この条文の存在は確認されていない。


【就業規則 第13条(特殊退職処理対象者に関する事項)】


第1項:当該職員が以下の条件に該当する場合、特別処理委員会の裁量により、記録消去を含む非公開退職処理を適用することがある。


第2項:記録消去は、勤怠、業務ログ、給与履歴、人事台帳その他の関連文書から該当職員の存在を抹消することを指す。


第3項:抹消後、該当職員の痕跡がいかなる形でも業務上に残存してはならない。


第4項:記録が不完全な場合、同僚・管理者を含む補完対象が生じる可能性がある。


第5項:この条文の存在を問う者は、対象候補となる。


* * *


本報告書は、3月12日をもって全調査を終了とし、内容をまとめて提出する予定であった。


しかし、提出前日の3月11日、報告者(担当H)の出勤が確認できず、また本人とされるログイン情報・顔認証履歴も削除されていた。該当人物に関しては、既存の人事台帳からも削除済であり、同一氏名の職員は現在登録されていない。


本報告書ファイルもまた、正式な社内共有フォルダではなく、“無題のバックアップ”フォルダ内で発見されたものである。


* * *


【最下部・手書き追記】


第13条は「存在しない」と皆が言う。


でも、消された記録は、どこかに痕跡を残す。


この報告書を読んだあなたが、次の“補完対象”にならないことを願う。


– K

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