ニコちゃん先生の花火まつり―④
気づくと夜になっていた。
見物客も増えて、
もう、知り合いとすれ違っても、それと分からないだろう。
さすがに遊び疲れた4人は、メイン会場から離れた、地方銀行の駐車場のすみにかたまって、しゃべりながら時間をつぶすことにした。
駐車場には、おなじようにおつかれ気味の人々が、10人ほどいた。
途中、
類とあおいは、手をつないで買い足しに行った。
にぎやかなふたりがいなくなったところで、残った方は、会話が途切れがちになる。
「ねぇ、和馬くん、さっき、ニコちゃん先生のこと、よく気づいたね」
おもむろに、美宇が言った。
「ニコちゃん先生? ああ、歩き方が変だったから」
かわいそうな
「くつずれのことじゃなくて、その前。かなり遠くにいたのに、よく、ニコちゃん先生だと気づいたなって」
「まあ、副担任だし。オレ、国語係だし」
それを言うなら、美宇も、和馬と同じ立場だったのだが。
「先生さ、一学期より、髪の毛の色を、明るくしてたね」
「色? そうかも」
和馬は、一学期の虹子の姿を思い浮かべる。美宇の言う通り、黒か、黒に近い茶色だった。
今日の虹子は、たしかに、夏にふさわしい明るめの
「髪型も、あれ、ちゃんとヘアサロンであらかじめパーマかけて、ヘアセットしてる。帯だって、すごいキレイに結んでた。メイクもさ、いつもと違って
「へぇ」
女子は、よくそこまで細かくわかるもんだなぁと、和馬は感心する。
「あんなの、ほとんど、
「そうか? 元が同じだろ」
「……かわいかったよね」
ただの感想ではない何かを
かわいかったかどうかで言えば、
「そうだな」
和馬は、うなずいた。
「デートだから、だよね」
美宇が、和馬を見つめながら言った。
駐車場にとり付けられたわずかな
なんだか、美宇が、突然、ちがうだれかになってしまったかのようで、和馬はうろたえた。
「そう、かな」
「そうだよ。一生懸命、おしゃれしたんだよ。好きな人のために。かわいいって、思ってもらいたくて」
和馬は、ふと、今日の類とあおいのことを思い出した。
この、うかれトンチキめ、と、和馬は内心げんなりしていたが、類が、長い間あおいに片思いしていたことを知っていたので、黙っていた。
あまりに類がしつこいため、とうとう「もう、やめてよー」と、あおい本人に止められていたが、あおいは幸せそうだった。
(そうか、あいつのために、虹子は着かざったのか)
和馬の胸が、ざわついた。
「わたしも、カラーしてくればよかった」
黒くてまっすぐな自分の髪を、ひと
「え?」
「帯も、ちゃんと固いほうを選べばよかった。サンダルじゃなくて、
和馬はぽかんとする。
会話の流れがよくわからない。
わからないが、美宇が落ち込んでいるようすなので、
「そのかっこう、似合ってると思うけど。サンダルで来てよかったろ。くつずれしたら、痛いぞ」
すると、美宇は、
「あはははは……」
泣きそうに震える声で、笑い出した。
類とあおいが戻ってきた。
「そろそろ花火の時間だけど、どうする? もっと海の近くに寄る?」
あおいが、3人に聞いた。
ちょうどそのとき、かすかに、ヒューと天に吸い込まれるような音がして、1発目の花火が、
ドォォンと腹に響く音とともに、そこここで、わあっと歓声が上がる。
咲いては、消える。
「きれいねぇ」
あおいが笑う。
「いいじゃん、いいじゃん」
類がスマホで撮影をはじめる。
美宇はまるで
和馬は、ぼんやりと、虹子はカットバンを
― 終 ―
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