第11話 ある程度年齢いったら遊び場は変わる
日本人があふれる街中。
いや、外人やなんだったら異星人たちで埋め尽くされる都会・難波。
そろそろ逢魔が時とは言え、まだまだお天道様が顔を覗かす昼時と言っても過言ではない。
ここに世にも恐ろしい機械があるというのでとある2人がそれを求め競争をしている。
しかし走り回ってなどはいない。
理由はやはりこの人混みであろう。
進もうにも全く進めない。
前後はもちろん、左右にななめに人人人である。
高く飛ぼうにも都会はかなり厳し目に取りしまわれるのでそれも出来ない。
仲良くもないのに2人で歩く男たち。
「クッソ〜…分かりきってたけどやっぱし人多いな…。」
「う〜む。やはり都会はいつ来ても盛り上がってるな。というか、なんで俺の横歩いてんだ。連れと思われるだろ。離れて歩け。」
「無茶言うなや。めちゃくちゃ密接しとるんやぞ。周り見てみぃや。」
しかめっ面をするゴードンに対して困った顔をしながらポケットをまさぐる銀之助。
どうやらスマホを弄っているようだ。
LINEでパルムとサーシャに連絡を取ったのだがまだ返信が来ない。
向こうの状況が気になる。
自分もさっさも例の機械を停止させて帰りたい。
そもそも銀之助は人混みが好きではない。
苦手なのだ。
遊びに行くのならまだしも、訳のわからない金も入らない仕事とも呼べない用事。
更にしんどさが加速する。
「なぁ、もうこんな訳のわからん事辞めて飯食わんか?そもそもチンポジとパイボシて…、そんなもんいろてもしゃーないやろ。」
「フンッッッ、お前らには俺たちの崇高な考えはわからん!」
「ほなこの周りのもんらぶっ飛ばして守りに行けばええやないか。」
「そんな酷いことはせん。お前随分と酷い事考えるんだな。悪役か?」
「お前が言うなやボケ!」
くだらない会話をしつつゆっくりではあるが歩みを進める。
そろそろ道路に差し掛かる。
都会は人が多いのは当然だが、そんな中でも車は通る。
道路に普通に人が歩いているので車からしたらとても恐ろしい。
しかし、都会ではこれが当然の日常である。
そうこうしているとなんやかんやで信号手前まで来たので足を止める人々。
「はぁ〜、せめて飛べたらなぁ…。人混み気にせんとちゃちゃっと機械のとこまで行けんのに。」
「警察にしょっぴかれるぞ。捕まりたいのか?」
「お前の事話したらなんとかなるわい。」
「意味の分からんイカれた地球人と思われるだけだろ。」
「意味のわからんイカれたテロ起こそうとしてんの誰やねん!!!」
「そろそろ信号が変わるな。」
「無視すんなや!!!」
なんでこんな事をしているのか。
めちゃくちゃ嫌そうな顔をする銀之助を他所にゴードンは気高き顔をしている。
絶対にそんな顔できるようなやつちゃうやろ。
そんな中、信号の色が赤から青へと変わり人が次々に歩き出す。
スクランブル交差点はどこもかしこも人で溢れる。
早く帰って柳さんのとこで飯を食いたい。
実を言うと柳一家は鉄工所を営んでいるがそれは夕方17時までであり、その後は大きく改造した家で飲み屋を始めるのである。
あいにく銀之助やパルムは酒は飲めない。
サーシャは少し嗜む程度。
一応言っておくがこの女は16歳の未成年である。
タバコも吸えば酒も飲む。不適切だね。
時間はかかるも向こう側まで歩き、横をチラッと一瞥する。
「ぁえ?」
居ない。
横を歩いていたゴードンがどこにも居ない。
人混みに紛れ明後日の方向に行ってしまわれたのかと周りを見渡すと…ゴードンは10トントラックの上にノシノシと上がっていた。
「…………………。」
腕を組みながらそれを眺める銀之助。
「……………お前やっぱりそんな事する奴やったんやのおおおおおぉぉぉぉッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
信号が赤になりそうにも関わらずトラックに向かい猛ダッシュをかます銀之助。
周りの人はなんだなんだとその状況に集中している。まぁ当然だろう。傍から見れば変人だ。
そもそもゴードンがトラックのボンネットに登ってる時点でまぁまぁな人数が見ていたのではあるが。
ガシッ!!!とゴードンの足首を掴みトラックにへんばりついたのとほぼ同時にトラックは走り出した。
ブオオオオォォ!!!!!!
ここから先はあまり人は居ない。
居たとしても歩道を走っているのでトラックは思うがままに目的地に向かうだけ。
スピードも法定速度を守っているとはいえ増してくる。
「お前さっきええ顔とええ声で啖呵切っとったけど思いっきり犯罪やろがい!!!しかもズルやしよぉぉぉ!!!」
「クソ!!!バレては仕方ない!!!というか離せバカチン!!!」
掴んでる足を片方の足で何度も踏み倒し振り払おうとするゴードン。
ここで離してもまだなんとかトラックのボディにしがみつくことは出来るがだいぶ苦しくはなる。
離すわけにはいかない。
後ろでこんな状況に気づくこと無く運転手は鼻歌などを歌いながらラジオから流れてくる音楽を聴いている。
「辞めろ辞めろ!!!このスピードで落ちたらひとたまりもないやろが!!!落ちるんやったらお前も巻き込んだらぁぁぁ!!!」
両足に魔力を集中させ、ボディを掴んでいた片方の腕で何度も蹴り倒してくる足を掴む。
そのまま少しづつではあるがこちらに引きずる戦法だ。
「のわぁぁぁ!!!辞めんかこのッッッ!!!」
トラックのスピードは益々上がる。
ゴードンもボンネットにしがみついてはいるがトラックの運動に負けジリジリと後ろに下がる。
銀之助の目の前付近には凛々しい男のケツが近づく。
銀之助はこのままではゴードンを引っ剥がす事に成功しても下敷きになってしまう。
相手は身長が239cmもある筋骨隆々の男。
体重もそれ相応のものだろう。
なんとか打開策を見つけなければならないがどうすればいいかわからない。
そして何を思ったのかゴードンのズボンとパンツに手をかけ、一気にずり降ろした。
ズボンの上からでもわかる凛々しいケツ。
それが大空の下にさらけ出された瞬間である。
お天道様に挨拶するかのように輝く男ケツ。
もしかしたら、ケツも日の目を浴びたかったのかもしれない。
「何してんだ!!!!!俺のケツで何するつもりなんだ!!!」
「誰もお前のケツなんかに用ないわボケッッッ!!!お前が俺を落とそうとするから必死なんじゃ!!!」
しかし足も腕も痺れ始めた銀之助。
別に本人はそんな事したくなかっただろう。
形としては、ゴードンのケツに顔を埋めてしまった情景となる。
息が苦しい。そして何よりそこはかとなく臭い。
トラックのスピード的にもケツから顔を離そうにも離せない。
ケツから目を離せないとはこの事か。知らんけど。
「俺のケツに顔を埋めるな!!!!!!こそいし何より気持ち悪いだろうが!!!!!!」
何も応えない。
というか応えられない。
何が楽しくて男のケツに顔を埋めなければならないのか。と叫びたくなるがそれすら出来ない銀之助。
このまま一生ゴードンのケツとともに人生を歩むのか?
周りの人たちも次第に変なトラックが走っていると気づ気始める。
いや、変なのはトラックではなくそれに引っ付いてるバカ2人なのだが。
ガニ股で上半身トラックのボンネットにしがみつくサイ男にその男のケツに顔を埋める地球人。
そして何も知らない運転手。
今日も大事な荷物を目的地に運ぶ。
家族がいるのかな。独身なのかな。それは遂にわからないが自分に与えられた仕事。
それを今日もこなすだけ。
トラック野郎の一日は長い。
「え、何アレ。」
「うわ、ケツマクラしてやがる。」
「ホモビデオの宣伝かな?」
驚愕する者から少しそれを喜ぶ者たち。
しかしこれはバニラ求人ではない。
ゲイ版バニラでもない。
スマホを取り出し撮影する者たちも増え始めた。
「いい加減離せバカ地球人!!!」
「……モガガ…!!!!!モモモモ!!!!」
「ケツで喋るな!!!!!!」
(クソ…!!!こうなったら!!!)
埒が明かないと思ったのか、ゴードンは人間共通の技を銀之助に繰り出す。
「喰らえや!!!」
プピィーッ
見た目の割に可愛い屁である。
自分らしくないと心で悔やむも、こんな状況。致し方ない。
街中に漂う男っ屁。
それを嗅いだ人たちは何を思うのか。
君たちはどう思うか。
どうも思わんわボケ。
「よし…これで…。………!?!???!!!」
ゴードンはてっきりこれで手を離すだろうと思ったのか、安心していたが寧ろ掴む力が増してきている。
何を隠そう、銀之助のそばにはいつも【サーシャ】というバケモノがいる。
その御蔭で目の前…というか本当に目と鼻の先にめり込んでいるケツから出されるものなど大した事ないのだ。
これぞ本当の【屁でもない】、である。
それに何かトラックのスピードが段々落ちてきている。
目的地に着いたのであろうか、それとも信号にひっかかったのか。
それを逃さない銀之助とゴードンは一気にボンネットに駆け上がった。
周りの人たちはショーでもやっているのかと盛り上がる。
「プハッッッ!!!!ハァハァ!!!やっとまともに息出来る!!!」
「良くもまぁ人のケツを堪能してくれたな!!!この代償はデカいぞ!!!」
「何が堪能じゃ!!!胆嚢やられそうになったわアホンダラ!!!」
フィールドはかなり小さいがトラックが止まっているこの時間を無駄にする訳にはいかない。
こうなれば格闘だ。
お互いに雄叫びを上げ、殴りかかったその時。
ブウウウウゥゥゥゥンンン!!!!!!
信号が青に。
「「ウワァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
転がり落ちそうになったのでその場で四つん這いになりボンネットの隅にしがみつく。
前と後ろから見ればケツを天に仰ぐ男2人。
やはりこれは体を張った何かの宣伝なのではないか?
徐々にSNSに写真や動画がアップロードされていく。
ゴードンも銀之助も身体能力はあるので返って本当にそう見えてしまう。
「なんでお前と訳の分からんポーズばっかり取らなあかんねん!!!!!!もう腹立ってきた!!!!」
バッッッとゴードンに飛びかかり、首を絞め上げる銀之助。
しかし落ちないようにバランスを取っているので力が入らない。
それにゴードンの首はプロレスラーのような丸太首だ。これでは絞め上げるなんてのは夢の話。
「そんな力で何をしようと言うんだボケがぁぁぁッッッ!!!」
そのまま銀之助を持ち上げボンネットに叩きつける。
「オクラホマ・スタンピードオオォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!!」
ドオオオオォォォォォンンンン!!!!!
鈍い音が響き渡る。
まともに食らった銀之助はカハッッッと口から唾が飛び出す。
その辺で運転手も何かおかしいと思い始めた。
「え!??!!何!!??なんか揺れたんやけど!?!!?!」
一般人は大盛り上がり。
まるで昭和の街中プロレスを観ているかのような雰囲気。
「フハハッッッ!!!参ったか地球人!!!」
詰めが甘い。
銀之助は白目を剥いているから気絶したものと勝手に判断したのだ。
ギュルンッ!と黒目を目に宿し、ゴードンの首に両足を巻きつけでんぐり返りの形で頭をボンネットに突き刺した。
ゴガァァァァァッッッ!!!
明らか変な音ばかりするのでルームミラーを確認する運転手。
そこには血まみれのサイ男が。
「ウワァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
「お前…気絶してたんじゃ…!!!」
「白目向くぐらいテメェで出来るやろが。お前は俺のタヌキ戦法にまんまとひっかかったんや!!!」
ズボッッッ!!!
頭を引き抜き横にブルブルと揺らす。
「それに俺は町田銀之助っちゅう名前があるんじゃ。覚えとけよゴードン。」
「………どうやらお前を甘く見ていたようだ……。すまないな銀之助。しかしこれでもう本気を出せる。」
お互いに頭から少し血を流し、悪い顔で笑い合う。
男同士の勝負。
目的は機械奪取だが、体に流れる戦闘の血が騒ぎ始めたか。
「ほな、やりますか!!!!!」
「いいだろう!!!来いッッッ!!!銀之助ッッッ!!!」
ウオオオオオオオォォォォォッッッッッッ!!!
ボンネットの両端から真ん中向かい突進。
それぞれ片方は顔の横にガード、片方の腕で相手を確実に捉え殴りかかる。
と、したのであろう。
バガン!!!!!!!!!!!!
道路標識に2人ぶち当たり、派手に吹っ飛んでいった。
その先はものの見事に商店街である。
ヴェェェァァァァァァァッッッッッッ!!!
と情けない叫び声を上げながら転げ回る2人。
プロレスや夜の仕事の宣伝と勘違いした一般人もそれを追いかける。
運転手はパニックになりながらも鍛え抜かれた運転技術で事故を起こさずに目的地へと走り去った。
ごめんね運転手さん。怖かったやろう。
全身擦り傷土埃塗れで頭を抑え周囲を確認する銀之助。
「ん………、あっっっっ!!!!!」
なんと目の前には10円パンの店があるではないか。
車上(時の如く)の戦いで忘れていた。
当初の目的は例の機械。
ゴードンはどこに行ったのかわからないがとりあえず機械を停止しなければ。
10円パンは地球人だけではなく様々な異星人にも大人気である。
前から日本人から外人に人気があったのに、宇宙貿易が始まったから尚更だ。
傷だらけの体で機械を探す。
「……………………?」
無い。
どこにもそれらしきものがない。
小さい機械なのだろうか?
それともパラボランの勘違いでここら近辺では無いところに設置したのか?
どこを見ても通行人や10円パンやトルネードポテトなどを買うために券売機に並ぶ人だけ。
遂に銀之助は店員に声をかけることにした。
「すんません、この辺にポジショニングマシーンてあります?」
「は?………え?」
この反応は当然だろう。
まるで意味がわからない。
あ、そっか。とポジショニングマシーンの説明をする。
パイボジとチンポジを気にさせる機械です。
手を振ったりしてジェスチャーを混ぜつつ伝えるも店員たちは全く理解を示さない。
この光景怖すぎる。
全身傷だらけの男が血まみれでチンポジチンポジと繰り返している。
とくに何か商品を買うつもりにも見えない。
ヤバい奴に絡まれてしまった。
そんなものここには無いと気味悪がりながら返答する店員。
お客さんたちも恐れおののいている。
「あっっっれぇ〜……………。おかしいな…。」
おかしいのはお前だ。
すると肩をガシッッッ!!!とゴツい手で触られた。ゴードンだ。
銀之助がどこに機械があるんなと聞くと遠い場所を見つめるかのような表情でつぶやいた。
「……………無い。」
「え?」
「今思い出したんだが…………、3つ目のポジショニングマシーン……。不具合が起きてアジトに置きっぱなしだったわ…。」
そうなんやのとお互いに顔を見合わせ笑い合う。
ハハハハハハハハ………
「なんやねんそのオチ…。」
ドサッッッとその場にぶっ倒れた銀之助。
何のためにあんな格闘を繰り広げたのか。
一気に疲れが体と心にのしかかった。
ウウウゥゥゥゥゥゥ………
パトカーのサイレンが聞こえる。
直ぐ側に止まったようで、警察が次々に車から降りこっちに向かっているのが見える。
「まぁ………機械はなかったけど、俺の勝ちやぞゴードン。黙ってお縄をちょうだいされるんや……。…………ん?なんすかお巡りさん?」
みんな大好きトリスコーヒー。
今日も常連のクエスチョナーとグレート、歳の離れたエメリィが遊びに来てくれた。
「ん………、あれ?閉まってる。」
「おかしいな。別に今日は休むなんて聞いてないんだがな。」
「アレ?なんか書いてるよ。」
店の扉の下あたり、何か紙が貼ってある。
内容をまじまじと読み首を傾げる3人。
「何があったんだよ。」
その場を離れ帰って行った。
「はぁ〜…今回は上手くいかなかったかぁ〜。次こそは絶対に勝たせてもらうからね屁こき女!」
「望むところや!!!」
「ゲロゲロ…ケロ美…、ケロ美…。」
「ごめんやんか…。俺も悪気があったわけじゃなくてさ…。」
「う〜む、やはり地球征服は一筋縄にはいかんな。次こそ、必ず勝たせてもらうぞ銀之助!」
「もう二度とすんなボケェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!」
6人は様々な理由で逮捕。
刑務所行きである。
懲役6カ月。
トリスコーヒーの扉に貼ってあった紙が風でビラビラと揺れ、セロハンテープが剥がれ空を舞う。
そこにはこう書いてあった。
【トリスコーヒーはとある諸事情でおやすみをいただきます】!!!!!!!!!!!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます