第10話 誰しもオムツ欲しくなる時ある説

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

揺れる鉄の箱。

1つだけではなく8個ほど連結されているその電車。

その電車の中につり革を掴み立っている人物2人。

パルムとケロンバである。

周りには客がほとんど居ない。

居るには居るが、席は十分空いているので好きで立っているのだろう。

何も喋らずに沈黙がその場を支配。

気にかかったのか、パルムが口を開いた。


「………座れよ。」


「そういうお前こそ座ったらどうゲロ。」


「俺は立ち派や。」


「奇遇ゲロ。」


またもや沈黙が流れる。

このバカ2人は先ほど居た神社の最寄り駅から揺れること20分程度。

大泉緑地の最寄り駅は金剛駅。

そこを目指しているのだ。

走っていくのはしんどいので電車を選んだという事であるが、迷惑がかかるのでお互いに今は大人しい。いや、ポジショニングマシーンが1番迷惑なのだが。

サーシャとファニィは距離があるにも関わらず殴り合いながら極楽湯に向かった。

やはり女は恐ろしい。

銀之助とゴードンはどうなったかはわからない。後ほど語られるであろう。

パルムが横目にケロンバを見るが窓から見える景色を眺めるだけで何を考えているのか分からない。

話しかけても空返事しか返ってこないので自分も流れる景色を見ようとしたその時、横で何やら音がする。

ケロンバがポーチから何かを取り出し眺めている。 

写真だ。

そこに写るは可愛らしい女の子のカエル。


「………家族さんか?」


「いや、違うゲロ。」


「ほな彼女さんか。」


「…………………。」


おそらく当たりだ。

返事がないのは返答に困るときにも使われるが、粗方図星を突かれたときによく起こる。

このまま話しかけても仕方ないと前を向き直したパルムであったが、静寂を破ったのは意外やケロンバであった。


「彼女ゲロ。名前はケロ美。」


安直すぎんだろ。


「彼女さん…か。何してはるんや?」


「アイドル目指して都会に旅立ったゲロ。」


つまりは遠距離恋愛。

都会と言っても地球の都会の代表格である大阪や東京ではない。違う惑星の都会らしい。

そこで学生時代からの付き合いをしていた2人だったが、昔からアイドルになりたいという熱い夢を追いかけ上京したという。

しかし最近はあまり連絡も返ってこず、心配な気持ちがあるようだ。

てか彼女さん頑張ってんのになんでコイツは訳わかんねぇことしてんのか。


「ケロ美に約束したゲロ。地球を征服した暁には、一部をあげるって。」


彼女さんもおかしかった。


「どの辺あげるつもりなんや?」


「美章園あたりゲロ。その辺をまるまるプレゼントするゲロ。………ケロ美は喜んでたゲロ。」


やっぱりおかしかった。

パルムの質問も中々どうしてそこじゃねぇだろって質問だがまぁいいだろう。


「ほな、それを全力で止めようとしてる俺らは悪役ってか。」


「おじゃま虫ゲロね。」


濃い内容の話を終え、また静寂に包まれるもそろそろ終点である。

電車内のアナウンスが鳴り、ゆっくりと電車が止まる。

プシュー、と音を立てて扉が開き人の間を通り改札に向かう。

ケロンバは切符、パルムは一丁前にICOCAを通した次の瞬間。


「何が一部をやるじゃボケェェェッッッッッッ!!!!!訳わからん事言うてんとちゃうぞおおぉぉぉッッッッッッッッッ!!!!!!」


「ケロ美いいいぃぃぃぃッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!待ってろゲロオオオオオオォォォォッッッッッッッッッ!!!!!」


ダダダダダダダダッッッッッッッッッ!!!!!


男2人が雄叫びをあげ疾風ダッシュ。

幸い周り人は居ない。

思う存分走り抜けられる。

駅から大泉緑地は徒歩5分圏内。

この速さなら一瞬で着ける。

途中信号にひっかかるも関係ない。

自慢の脚力で飛び上がるケロンバ。それに追随するパルム。

甘く見ていたのかその光景に驚くも今はマシーンの方が大事だ。

この競争を征しなければならない。

女どもとは違い殴り合いなどせずに猛ダッシュをかける。我が脚よ、耐えてくれ。

この熱き男たちの目線の先、200mあたりに例のブツが見えた。

後はどちらが先に奪取出来るかだ!!!


「あっっっ!!!ボインの姉ちゃんゲロ!!!」


パルムの後ろを指さすケロンバ。

ファニィとおんなじ手口かい。

しかしパルムはスケベであるがサーシャと違う。


「ドゥラッッッ!!!」


「ゲロッッッ!???!?」


ザガザァァァァァァッッッ!!!!!!


脚を引っ掛けられド派手に転ぶケロンバ。


「引っかかるかいなそんなだまし討ちに。」


動かないケロンバを見つつ、数秒。

チラッと後ろを振り向くパルム。

やっぱ見てんじゃねぇか。

やる事やってから見たりしたりするタイプかな?


「や…やるゲロね…。ただのバカではなかったゲロか…。しかぁし!!!!!!」


ポケットから何かを取り出しパルムに発射。

一瞬拳銃か何かと思ったが形状も何もかもが違う。

それは無線機のような物であり、アンテナ先から電気を出す装置のようだ。

うわっ!となんとか上体を反らし回避する事に成功。

後ろの木に当たったが、特別何か起きたように見えない。


「なんやねんそれ!!!」


「ケロンバマシーンNo.233号!!!シブリンビームゲロ!!!これを浴びた人間はなぁ…!!!」


「人間は…………???!!!!?!」


「しぶり腹に襲われ最終的にケツがズタズタになる兵器ゲロ!!!」


「な!!!なんやてぇぇぇぇぇッッッッッッ!!!!!」


チンポコスペース・ロック辞典

〜【渋り腹】〜

皆は別に出すものないのに「なんかウンコしてぇなぁ…。」って時は無いだろうか。

アレをしぶり腹という。

そして別に出すものも無いのに無理やり捻り出すような形となり、ケツは変に汚れ最終的にはトイレットペーパーで拭きすぎて皮膚が耐えられず血まみれになる事を指す。因みに筆者は何度もこれに襲われた経験がある。だからこそこの装置の恐ろしさがわかるのだ。


「これ浴びてさっさとトイレ行けゲロッッッ!!!」


「うわうわうわッッッ!!!!!」


何度も連続でビームを発射するケロンバ。

それを卓越した自慢の身体能力で躱すパルム。

負けじとゲロゲロと叫びながら狙いを定めるスナイパーガエル。


(速いけど…!!!なんとか躱せる!!!)


回転し躱したビームが標識に当たる。

それを見たケロンバはニヤッと不適な笑みを浮かべた。それを見逃さなかったパルムは何かあると一瞬だけ後ろを振り返る。

なんと標識に当たったビームが反射してパルムに向かっているではないか。


「反射するんかよそれッッッ!!!!!」


「ゲロゲロゲロッッッ!!!!!」


パルムは今空中に居る。

回転して跳んだのだ。

これは確実に当たったであろう。

むやみ矢鱈にビームを発射していた訳では無い。

パルムを標識近くまで誘導していたのだ。

ケロンバの策略。

それがパルムの身体能力を勝った瞬間だ。

もう駄目だと目を瞑る。


「クッッッソオオオォォ!!!!!」


シュルシュルシュル


バシンッッッッッ!!!!!!!!!!


目の前の現象に驚きを隠せないケロンバ。

口と目を大きく見開きそれから目を離せないといった具合だ。

パルムも何が起きたのか分からない。

目を開けるとなんとパルムの髪が伸び、地面に伝い体を持ち上げ支えているではないか。

こんな能力が自分にあったのかとこちらもビックリしている。

そのまま体をスムーズに降ろし、足の裏がしっかりと地面につくと伸びた髪の毛が短くなり元のサイズに戻った。


「俺こんな能力あったんか…。」


「………それがどうしたゲロッッッ!!!悪運が強かっただけゲロッッッ!!!」


またもや先ほどの再放送。

同じ光景が続く。


(このままやったら埒があかん!!!何か…何か弱点は…!!!)


バカ2人がやりあっている中、近くにお爺さんが通りかかった。


「さて、便所行って帰るか。」


散歩でもしていたのであろうか。

公園の公衆トイレにゆっくりと確実に歩みを進めている。近くに戦っている2人を気にも留めず。

しかしやはりというか、巻き込まれるのはお約束。

パルムが大股を開き飛び上がった瞬間、ビームがお爺さんにぶち当たった!!!


「はうあッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


「ん?あっっっ!!!お爺ちゃんッッッ!!!」


「ゲロ?」


両者ともにその場にうずくまるお爺さんにやっとのこさ気づいた。

ビームが当たった事にも。

ケロンバは関係ない人に当ててしまったと頭を両手で抱える。

パルムは何かを考え、目を強く瞑っている。

何か心の中で葛藤と戦っているようにも見える。

しかし、覚悟を決めたのか目を大きく開きお爺さんの後ろに回り込む。

すると何を考えているのかお爺さんのズボンとパンツを一気に降ろしたのだ。


「ごめんやでお爺ちゃん!!!」


「何してるゲロ!???!!」


いやホントに何してんだ。 

パルムはケロンバを睨みつつ、手に持った何かを見せつけた。


「これ、な〜んだ。」


「なっっっっっ!???!!!!ケロ美ッッッ!??!!」


手に持つは可愛いカエルの女の子・ケロ美の写真。

最初に足を引っ掛けた時、ポーチから拝借したのだ。


「俺は今ちょうどポケットにガーゼとそれに貼るテープが入っとる…。後は…わかるな?」


何もわからない。というかわかりたくない。

しかし頭脳明晰のカエルは我々と違うようであり、何かを察しかなり仰天している。


「これをこのお爺ちゃんのケツに貼る。幸い俺は介護職員初任者研修の資格と軽い介護の経験はもっとる…。せやからクソの後始末は出来るぜ…?」


「なっっっ……!!!ひ、卑怯ゲロッッッ!!!」


「うぅ、漏れそうや…!!!」


うずくまるお爺さんを利用し、その場を乗り切ろうとするパルム。本当に主人公なのだろうか。

また機械をパルムに向けようとするとパルムが大声で静止。動くなと叫び、写真を肛門に近づける。

そんな中でも写真のケロ美ちゃんは笑顔を絶やさない。

というか早くお爺さんトイレに連れて行ってやれ。

あまりにも可哀想すぎる。


「はよ例の電波装置停止させろ!!!ケロ美ちゃんどうなってもええんか!!!」


うつむき黙りこくるケロンバ。

しかし、徐々に肩を震わし笑い始める。


「ゲロゲロ…。お前ぇ、まさかケロ美の写真が1枚だけだと思ってるゲロねぇ…。ケロ美の写真ならまだポーチに入ってるゲロ!!!」


「全部貰たで。」


ポーチをまさぐるケロンバに対し、10枚ほどの写真を見せつける。

全部持っていかれたのかと青ざめるカエル。

緑色の皮膚がヤドクガエルのように青くなっていく姿は奇妙であり貴重である。


「はよ壊せ。」


「ググググ………!!!!!」


「トイレに行かせてくれぇ…!」


決断できず歯を食いしばる。

歯無ぇけど。

ケロ美の写真を取るか、世界征服を取るか。

苦渋の決断である。

まぁここで1番苦しんで悩んでるのお爺さんだろうが。

パルムは答えを待たず、セット完了やとお爺さんの肛門にケロ美をセット。

後は時間の問題である。


「ッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


どうするケロンバ!

もう時間が無いぞ!

お爺さんのダムは決壊寸前だ!


「この勝負ッッッ!!!お前の勝ちゲロッッッ!!!」


ドォォォン!!!と高くカエル自慢の脚力で飛び上がり、怪電波装置に向かい高台飛び蹴りを放つ。


「シューティングフロッガーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!」


ドガシャァァァァァンンンンン!!!!!!


装置は大きく大破。

電気がバチバチと迸り、しばらくすると音が消え静かに息を引き取った。

こんな技出来るってことはフィジカルがあるという事だ。放っから格闘に持ち込むかしぶり腹光線撃ちながら動けば良かったのではと思う。


パルムの勝利。

ポジショニング・マシーン。

2つ目撃破。


バッッッ!と振り返り、お爺さんのケツに貼りまくったケロ美を返してくれと促すケロンバ。

パルムも約束は守るタイプ。

目的は達成したので写真を剥がそうとした。


が。


「む…無念ッッッ!!!!!」


「あっ。」


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!ケロ美いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


ケロ美、沈む。
















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