第2話 Sub drop


「大丈夫ですか?」

 不安が現実になる。身体生まれたての子鹿のように震えた。

「薬飲めますか?」

 そして声が近づく、この声は知っていた。

「河原木さん、怖がらなくて大丈夫ですよSubだったんですね。薬どこある?私が探しますよ」

 服部は、私と同じ視線になるようにしゃがんで優しい声で大丈夫と言ってくれた。なぜかいやじゃない感情だった。この感情を認識した瞬間、服部がDomだということに気づく。

「いや、もう薬飲んでて、ごめんなさい、ごめんなさい‥‥私がSubのこと内緒にしておいてください‥ごめんなさい」

 私は震える体に力を入れて、泣きながら訴える。

「大丈夫だよ。誰にも言わないから。そっか薬飲んだのか、私とplayする?この会場私の持ってるホテルだし、秘密にできるよ」

 服部私の頭へと手を伸ばす。私は驚いて思わず払いのけた。

「あ、ごめんなさい、ごめんなさい‥‥‥」

Domの手を、支配者の手を払いのけてしまった。きっと服部は怒っているんじゃないか、一気に恐怖に感情が支配された。怖くて、視界を上げることができない。



岩倉視点


「社長今来ました‥‥服部様、社長どうされたんですか!」

玄関に車を置いて、走って社長の元に向かう。そこにはなぜか服部様もいた。社長は泣き叫びながら、自分の首を掻きむしっている。顔は涙で濡れていた。私はこんな社長を初めてみた。

「ごめんなさい岩倉くん。私のせいでsubdropになっちゃった。救急車を呼びたいところだけど、大袈裟になるのはいやなのよね」

「はい、社長がそれだけは嫌だと申しておりました」

 服部は、何かを決めたような顔で社長と向きあう。

「stop」

コマンドだった。服部のコマンドは、usualである私も止まらせるかのような、そんな空間を切り裂く重みがあった。

「good girl ちゃんということ聞けてえらいね」

 社長の震えは落ち着いてきた、これがダイナミクスの力かと私は思わず感心してしまった。

「ねえ、岩倉くん。この子相当ストレス抱えているわよ。今すぐにでもplayしないとまた些細なことでdropしちゃう。ここのホテルで休養させて、うちの専属医に診てもらうわ。わたしDomだけど決して河原木さんの嫌がることしないから」

 服部は真剣な眼差しでいった。

「ですけど‥‥」

 それを許してしまうと、社長が安全かこちらが把握できない。

「契約書書くからそれでいいでしょ」

 服部は私の考えを先読みして言った。



「これ‥‥‥重‥‥ですよ」

 ふかふかのベット。頭に置かれた氷が心地いい。このままずっと寝ていたい。そんな願いも叶わずかと、私は意識を覚ました。

「え、服部さん」

服部さんが私の顔をのぞいていた。

「ごめん、びっくりしちゃったね。ここは会場のホテルの一室よ。この方は一族の専属医兼私の妹よ。秘密は守るから安心してね」

 身体を起こすと、これまた綺麗な女医さんだった。二重がそっくりで姉妹であることに納得する。

「すみません、ご迷惑をおかけして」

「いえいえ、大切なお客様なんで何も気にしてませんよ。話を変えますが、パートナーはいらっしゃいますか?」

 手に力が入る。この手の質問は嫌いだった。でも医者は悪くない、私が悪いのだ。

「いません。今まで薬で耐えてきました」

「そのようですね。あなたが今まで服用してきたものは、流通している薬で一番強いものです。この薬の効果が薄れてきたなら、言いにくいですが対処できる現代の医療技術はありません。もちろんお分かりの通りplayだけが症状を和らげてくれます」

 言葉が空気を切り裂いたように静まり返る。私は何も言えなかった。

「無理にパートナーを探せとは言いません。一夜限り、お金の関係でもいいので、playをしてください。しなければあなたdropしてそのまま死に至る可能性もあります」

 他のお医者さんからも何度も聞いた。その度に矢がチクチクと刺さるようなそんな痛みが広がるのだった。

「私には社会的地位があります。私がsubであることがバレたら、社員や他会社のDomに舐められてしまう。そうなったら私の社長としての地位をなくすのと同然です」

 どうして自分はSubなんだろう。「Subは偉くはなれない」そう周りから言われて見返そうと努力して今の地位がある。なのにまだ私はこの第二次性に苦しめられるのだ。死にたくなった。私は続けた。

「みんなにバレるくらいなら、私は死んだほうがマシです。それぐらい私にとって今の地位は大切なものなんです」

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