第36話「面白いTシャツ」
外に出ると、つい人の服装を眺めてしまう。
観察というと大げさだが、私にとっては半ば習慣のようなものだ。特にTシャツ。
Tシャツには、持ち主の趣味や主張、あるいはちょっとしたユーモアが滲み出る。
「NO CAT, NO LIFE」と胸に掲げた人は、鞄も靴下も猫まみれで、思わず納得してしまった。
一方で、「POTATO」とだけ大きく書かれたTシャツを着ていた人には、なぜか深い哲学を感じてしまった。イモの人生訓なのか、それとも単なる特売品なのか。真相は永遠の謎である。
そんな数あるTシャツの中で、今でも一番印象的なのは――芸術的なマーモットTシャツだ。
胸いっぱいに広がる油絵タッチのマーモット。背景にはまるでルネサンス絵画のような光が差し込み、マーモットが神々しい存在に見えてくる。
通りすがりの私は思わず足を止め、心の中でつぶやいた。
「あれは……欲しい」
なぜマーモットなのか。なぜ芸術なのか。理由はわからない。
でも、あの一枚を着れば、きっと普通の日常が少し面白くなる気がする。
考えてみれば、Tシャツとは着る人のためだけでなく、道ですれ違う誰かをクスリと笑わせるための媒体なのかもしれない。
だから次に買うなら、私は迷わずこう書かれたTシャツを探すだろう。
「I ❤️ マーモット」
それを着て街を歩けば、きっとまた誰かが人間観察のネタにしてくれるに違いない。
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