43「世界の事変」
翌朝、俺は朝食を済ませて外に出た。いつものように魔剣とA級魔物が出迎えてくれる。
農園に行くと、そこは変わり果てていた。
「なんだ、こりゃ……」
畑が掘り返され、野菜はめちゃくちゃに踏みつけられている。
雑草を抜き、手入れを怠らなかった畑が荒廃していた。
「やっとここまで回復させたのに……」
「あの牛野郎! 許せねえ‼︎」
とにかくこのまま放置はできない。
根がむき出しになっている野菜は植え直し土を寄せた。ジャガイモは大きなものは収穫して小さなものは植え直す。
水元素で空中に水球を作りそこから風元素で細かい雨を降らせる。
「これで何とか回復してくれればいいけれど……」
果樹園も悲惨だった。あちらこちらの枝が
明らかに
「くっそ〜。狙ってるな」
結界がどうしても突破できないので、その周辺を意図的に荒らし回っているのだ。
「まさかな……」
河原に行くとそのまさかが的中していた。風呂の石垣はバラバラに崩されている。
「俺の金は……」
採取用の皿は全て流されていた。川に入りめちゃくちゃ走りまわったのだろう。
川下の皿は、何枚かは無事だ。俺はもっと下流に行き、川底に沈んでいった皿を何枚か回収する。
「はあ〜。参ったな」
これはヘコむ。
放っておけば、あいつは毎晩やって来て、山荘の周囲を破壊してまわるかもしれない。
「どうするか……」
とりあえず地下工房に行き、追加の鉄板皿作成をとりかかった。火元素でドロドロに溶けるほどに熱した鉄の塊をハンマーで叩き皿に成形していく。
ある程度形になったら、変形させる場所を再加熱して、そこを叩きながら形を整える。
皿作りは大した問題じゃない。問題は俺の行動の制約だ。
翌朝農園に行くとまた荒らされていた。今度は丹念に、より執拗に畑をめちゃくちゃにしてくれた。
「とりあえず復旧はあきら諦めるか。どうせまた潰される。根本原因を叩き潰すしかないな」
お返ししてやる。
破壊されたままの風呂に入り、夕食は肉を焼いてやけくそ気味に食う。ワインを出してやけ酒ぎみに飲んでフテ寝した。
◆
翌日、朝食を食べていると
「師匠からだ」
物資はなく、小ぶりの紙が一枚だけだった。
【帝都が強力な魔物の集団に攻撃を受けている。錬金協会が当局の捜査を拒否して籠城した。帝国への反旗を宣言】
「あっちもこっちも大変だな」
帝都ディンケラの防御は完璧だ。街壁と要所に配置された戦力は要塞に等しい。
錬金協会の本部も防御を重視して城の構造とし、防御結界も発動できる。こちらの方が厄介かもしれない。
「帝都には化け物みたいに強い奴らがいるからな。まあ、安全だろうさ」
こっちは俺一人でなんとかしなければならない。
「それにしても錬金協会がここまで無茶をするとは……。首謀者は誰なんだ? まさかザームエルのヘタレではないだろうが」
俺は錬金協会の怪しい動きをうすうす察していた。
協会の建物内部に流刑地への
それに俺の下請け仕事に、回廊装置に転用可能な錬金の部品がきていた。
使用用途をごまかしているのが怪しかったので、あちこち聞いて回ると発注元は錬金協会だった。
目立たないように分散発注していたが、俺みたいに気がつく人間はいる。俺はその内容を、見えない文字で書類にまとめていた。
確証が持てれば王政に告発するつもりだったが、協会は先手を打ち工房を家探しして、そして憲兵隊に俺を拘束させた。
俺はそれを察して、あらかじめ見える文字でテロ計画と思えるような記述を書き込んでいた。その証拠は憲兵隊が確保し、協会が握り潰せないようにさせたかったのだ。
「そしてその文字を王政の誰かが解読したんだろうさ」
つまり俺を罠にはめようとした協会を、逆に罠にはめてやったのだ。
当然疑惑は俺から協会へと移る。
そして追求に耐えられないと悟った錬金協会は暴発した。あるいは計画を前倒しして始めたのだろう。
「首謀者は誰だ? あのバカどもを操れる立場の人間は――」
さて、返信はどうするか。
【協会の目的は回廊。エリーゼ、気を付けて】
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