42「流刑地の命題」

 俺は相変わらず北方への道を作っていた。

 D級の魔物数体と、C級は悪漢猪エーバーを一匹狩った。

 せめてB級を足止めできるくらいの、戦闘用魔導人形パペットを作らなければならない。しかしいい考えが浮かばなかった。


「やっぱり攻撃円陣を仕込み、俺の魔力でなんとかするしかないか」


 魔力が極端に減るので、夜寝ている間に徘徊させることはできない。戦闘状況を確認しながら、ポーションを飲みつつ戦わせる方法ならいけそうだが。

 偵察用魔導人形パペットに探させているが、牛のねぐらは見つからない。

 そこがわかれば、昼間にこちらから強襲をかけることもできるのだが……。

 奇行猿アッフェの残党たちは、崖周辺にも姿を見せなくなっていた。

 どこかで俺の様子をうかがっているのかもしれない。


 枝を打ちながら進むと、前方に突出していたフーゴが戻って来た。


『マイスター……』

「どうした?」



 大木に寄りかかるように遺骸があった。


「よくもま、こんなところまで来たもんだ」


 その姿は冒険者、素材採取者に見える。どこかでここの噂を聞きつけて、好奇心に勝てずにここまでやって来たのだろう。


「賢者の石か……」


 そんな伝説などなくても俺たちの世界は全く変わらない。もし彼が、かねが欲しいのなら俺みたいに、きんでも採ればいいんだ。


かねなんて地道にコツコツと貯めるもんだ。いや、でもここのきん採取はコツコツでもないな」


 遺骸を収納し、農園の横の森を伐採して墓地の敷地とした。これからも遺骸が見つかるかもしれない。

 俺は武器を持たない素材採取者を弔った。



「賢者の石って何なんだ?」


 俺は白い部屋に来ていた。

 今までたいして気にしなかった【滅亡の王国トリスメギストス】について興味が湧いたからだ。

 命がけでここに集まってくる人間たちの意味がわからなかった。


『私にもわかりませんよ。人はそれぞれが賢者の石に対して思いを馳せます。それぞれの願いを叶えてくれる魔法の力だと錯覚するのですね』

「つまり、具体的な何かは、わからないのか……」

『皆自分に都合よく万能の力だと思っているのかもしれませんね。あなたならどう考えますか?』

「そりゃあ――、なんだろうな?」


 錬金術師の究極は、その名のとおり金を作り出すことだ。賢者の石がその夢を叶えてくれるとしてどうだろうか? 大金持ちになる? あまり夢のない夢だな。


『うふふ。それはあなたの感想です。金の家に住むのが夢なんて人も、いるかもしれませんよ』


 思考を、読まれているか。今更。驚かないけど。

 俺は錬金の過程に興味がある。完成品の感想は依頼者の領分だ。


「それはまあね。きんかねとしての価値を見出していなければ。それで満足するか」

『たとえば今の私です。これを永遠の命と考えれば、愛する人を失ったのなら、この姿であっても会いたいと思う人はいますよね』

「ああ、会いたいだろうな。死んでいても生きていても、離ればなれになれば会いたいと思うだろう。そのために?」

『あなたにもフーゴさんがいるじゃないですか。私はそれをちょっと発展させているだけです』

「うん」


 自身の肉体を使えば、それも可能なんだろう。誰かのための錬金知能ではなく、自分のためにこれを作った。

百年前にここにいた誰かのためではなく、生前の満足のためにあった自身の墓標なのだ。


「この錬金知能システムは賢者の石のおかげなのか?」

『私独自の錬金術ですよ』

「あんたは凄いよ」


 大勢が賢者の石に自分の都合を合わせて、ここに夢を抱く。


「あんたの言いたい事は、なんとなくわかった。都市伝説なんてそんなもんだ」


 明確な答えがないからこそ、今も伝説のままなのだ。

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