34「ある錬金術師のメモ」★

 ●この山荘と出会えたのは幸運だった。私はここを拠点として北方を中心に探索する。

 わずかな記録から想像しつつ、北へ向かって山道の開拓から始める。魔物を討伐し周囲を観察した。

 私は着実に北へと進む。


 ●この地は負の魔力に溢れている。だから魔物は数が多いし強力だ。

 しかし利点もある。薬草の植生が明らかに違うのだ。魔物もそれを食しているらしく、彼らの力の源にもなっている。体内に魔力を宿す私たち人間にも、効果的に作用するようだ。

 森の中の所々にその群生地を見つけた。それを摘み魔力回復薬ポーションを作り、服用しながら魔物と対峙した。

 私の使用している剣は勇者と呼ばれる人間が使うために作られた剣だ。だから驚くほどの魔力を消費する。魔力回復薬ポーションがなければ私は魔力が枯渇して動けなくなっていただろう。


 ●私以外に、この地を訪れた人間の痕跡は容易に発見できた。まず道だ。木々には数十年も前に伐採したような跡があり、そして時々は彼らの遺骸を見つけた。この先には王国があり、そして私以外にも追い求める者が大勢いたのだ。今はその道に果てた亡骸を弔いながら、私も同じ道をたどっている。

 彼らのうち、一人でも目的地にたどり着けたのだろうか? そして、私はどうなるのだろう。

 いや、必ずたどり着ける。

 私には私を送り出してくれた仲間たちがいる。そしてこの私が出会った、かつて存在したであろう仲間亡骸たち。

 彼らのためにも必ず成し遂げにはならない。


 ●所々で朽ち果てた小屋の跡地を見つけた。私と同じ錬金術師だろう。土元素を使って石を積み、木を組み上げて植物で屋根を覆ったような小屋の跡だ。

 武器を用意したような痕跡もあった。弾丸を鋳造する錆びついた道具やナイフなどだ。

 私はそこを、時々は魔物よけの結界を張って野営地として使った。そして数日探査をして、あの山荘に戻る生活をしている。

 私もいずれ、このような拠点を作り、もっともっと先へと進まなければならない。


 ●今日はB級の魔物に遭遇した。これからもっと強力な魔物が出てくるのだろうか。

 たった一人でいつまで戦えるのか不安になる。


 ●あれは幻なのだろうか。人らしき姿を見た。見通しの良い場所に来ると、遥か先に人間のような何かが動いているのが見える。

 こんなところに私以外、誰がいるというのだ? 人などいるわけがない。似ている姿の何かなのだろうか。

 あれは人によく似た魔物。あるいは幻を見せる猫チェシャ・カッツェが見せる幻影なのだろう。


 ●見たことも聞いたこともないような強力な魔物に遭遇した。私はそれを魔獣と呼んだ。なぜ、こんな魔物が存在するのだろうか。それこそが滅亡の王国の存在そのものだ。

 あいつを倒さなければ、私はここから先に一歩も進めない。

 この剣を信じるしかないだろう。

 魔力回復薬ポーションの備蓄もできた。

 やってやるさ。

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