33「魔剣の魔除け」

 翌日は朝の見回りを終わらせてから、早速素材の点検を始める。


「眠いぜ。勘弁してくれよなあ……」


 俺は大きなあくびをした。

 昨夜もB級魔物の攻撃があり、俺の睡眠は相変わらずおびやかされたままだった。


「あいつをなんとかしないとな。寝不足とストレスでやられちまう」


 錬金術の研究場所としては立地が悪すぎる。毎晩魔物に襲われる工房って、世界でここだけだろう。


「静かで落ち着いた環境にはほど遠いよなあ……」



 庭にすべての素材を出して、魔石を抜いた。

このまま魔獣形ビースト魔導人形パペットに改造しても、また倒されるだけではみのりがない。次の作戦を考えなければいけないのだ。

 全てを終わらせて、今度は問題の魔剣と狂鳥と山羊の体躯バルトアンデルスを出す。

 魔剣を鑑定するが素材は不明としかわからない。


「不明がわかるか。我ながら情けない……」


 オリハルコンなど、錬金術により創造された素材は多々ある。

 そこには俺より、はるか高みの錬金術があった。


「悔しいぜ。未知の素材か……」


 柄の部分に手を当て鑑定をするが、やはり何もわからない


「! 待てよ。俺でも開けられるのか?」


 解放回路がなんとなく理解できた。いくつかの解錠方法を探ると、柄の部分がせり出し上にスライドする。

 中には金色の金属プレートがあり、そこにはびっしりと魔石が埋め込まれていた。


「スゲエ。こりゃあ、複雑すぎだろ」


 いくつかの魔石が小さく点滅している。この魔剣は未だに生きているのだ。

 俺の魔力を全く受け付けないので、錬金による磨きは使えない。仕方ないのでボロ布でひたすら磨き、油をすり込むと輝きが増した。


「まっ、こんなモンだろう」


 バルトアンデルスは相変わらず恨めしそうに空を睨んでいるが、これはこれで味があって良いかもしれない。

 検分は終わらせ、俺は魔剣と魔物のモニュメント記念建造物を収納した。



 昼食を済ませて、時間はちょっと早いが二日ぶりお風呂とする。

 砂金を回収しつつ、ゆっくりとぬるい湯につかり、最後は焼いた石を入れて、熱めの風呂を楽しんだ。

 夕食の後は久しぶりにあの錬金術師のメモを読み返す。北側の攻略に備えるためだ。



「また、来たのかよ……」


 深夜にまたまた、邪視の狂牛カトブレパスの襲撃に叩きたたき起こされた。このままフテ寝するわけにもいかないので、一応外に出て対面をする。

 相変わらずB級の魔物はお怒りだ。ここに俺が住んでいるのが気に入らないのだろう。早く出て行けという感じだ。


「そうはいくかよ」


 こっちの言葉がわかるのではないだろうが、光芒ビームを発射して威嚇してくる。

 デッキに座り、しばらく邪視の狂牛カトブレパスの暴れっぷりを観察した。


「あんなの一人で、どうやって倒せっていうんだ?」


 相手はまるでこちらの話を聞いているように吠えまくる。


「うるさいなあ。近所迷惑だろ――。まてよ。あの冒険者も一人でA級と戦っていたのか。そうだっ!」


 あれを一人で倒すなんて発想、魔剣があってこそだ。

 俺は魔物に近づき錬金貨物庫アルケミスカーゴから魔剣と狂鳥と山羊の体躯バルトアンデルスを出した。

 この魔剣は未だに魔力を発散させている。つまり――。

 邪視の狂牛カトブレパスは狂ったようにわめき始める。


「おお、嫌がってるな。さすが魔剣様だ。あまりわめくと、この魔物みたいになっちまうぞ」


 邪視の狂牛カトブレパスが頭を振って、こちらを睨みつけてから尻を振って去っていった。

 本能と魔力探知で魔剣には勝てないと理解したのだ。


「ざまあみろだ」


 ただし使い手は不在だけど。


 ともかく俺の思いつき作戦は大成功だ。


「これでゆっくり寝られるな」

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