19「金の指輪」

 俺はテーブルの上に、今までの採取成果を並べる。

 純金の原石は十五つぶもあった。

 もちろん金としての価値はあるが、これはこのままのほうがずっと高価だ。

 美術品として貴族のコレクターが多いし、鉱物サンプルなどの需要もあるからだ。


「これだけでもひと財産になるな」


 砂金は小袋半分ぐらいまで溜まった。これは溶かして金貨などの硬貨類、装飾細工の素材として使われる。



 地下の工房には様々な彫金の器具などもそろえられていた。それにアクセサリー類の金型もある。

 売り物なのか趣味なのか。女性としては、そちらが専門だったのかもしれない。

 アクセサリーを作る錬金術師は多い。仕事半分、趣味半分でやっているのだ。


「いつもお世話になっている人に、プレゼントでもするか」


 金も手に入ったのだし、俺もせっかくだから挑戦してみることにした。


「問題はどれにするかだな」


 金型の中から指輪を選ぶ。薔薇の花があしらわれ、輪の部分がいばらになっている型が目に付いた。


「これにしよう。エリーゼの好みに合いそうだ」

 と、勝手に推測する。


 鋳造は魔導具の部品などで頻繁にやってので、型があるならそれほど難しくない――と思う……。

 純金は噛めば歯型がつくくらい柔らかい。だから装飾品には銅を混ぜて使用する。

 帝国標準であれば、純金はナンバー二四と呼ばれている。アクセサリー類は、四分の一ほど銅を混ぜるナンバー一八を使用するのが一般的だ。

 金型の表面に鋳造に必要な一八の場合と、十二の場合の銅と金の重量が書かれていた。


「ご親切な元主人様だぜ」


 天秤ばかりの上に指定の分銅と砂金を乗せる。

 小球として売られている、手持ちの銅の分量もはかり、金属の皿に乗せ砂金と銅をよく混ぜた。

 そして炙り台に乗せアルコールランプに火をつける。

 ここにある道具類は、用途不明のもの以外全て整備済みだ。


 十分に金属が熱せられてから、火元素をほんの少しずつ加えて金と銅を完全に溶かす。

 それをゆっくりと型に流し込む。後は自然に熱が放出されるのを待つだけだ。


 この工房には、鋳物以外にもガラス瓶などの金型もそろっていた。薬品などを入れるため必要だったのであろう。

 魔力回復薬ポーション入れなどによく使われている品だ。


 俺は一階に上がってお茶を飲みながら頭の中を整理した。他にもやることは色々とある。


「罠円陣の強度を上げてみるか。数も増やそう」


 魔物の脅威については、とりあえず対処療法で様子をみると決めた。


「フーゴ。今まで仕掛けた罠の地図を見たい」

『ヤー、マイスター』


 リビングの空間に山荘と罠履歴の地図が投影される。

 ○は成功✕は失敗だ。やはり✕は北側が多い。つまり脅威は北からやって来る。

 ストックしていた魔石の皮袋を出して中身をテーブルの上に広げ、小さいサイズを五つ選ぶ。


 外に出て新しい罠円陣を五つ作った。そこに魔石を落とし、手をかざして風元素で切断の魔術を封じ込める。

 今までの罠は魔石無しの軽攻撃だったが、これでC級の魔物まで倒せるはずだ。俺の体内魔力と相談しつつ、この五つで様子をみよう。

 魔力行使は人間が使う以上限度があった。戦闘になれば、この五つが俺から一気に魔力を奪う。

 俺は罠円陣を北へ向かって放射状に解き放った。


「せめて相打ちには持ち込んでくれよ」


 続いて俺は工房に戻って金型を割る。


「お――っ」


 出来上がりはなかなか良い。精細で金型の精度がとにかく抜群に良いのだ。

 サイズの調整と研磨は一流店の職人に任せよう。そちらの技術は、彼らの方が俺より数段上だ。


「エリーゼめ。こんなものをもらったら泣いて喜んじゃうな」


 孤児院暮らし出身が金のアクセサリーなんて、もったいなくて自分じゃ買えないだろう。


 そこには笑いながら泣く金髪の幼なじみがいた。

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